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    めいや

    pixivで星矢×美穂の小説書いてます。
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    めいや

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    2024.8.25 星祭り10 展示作品

    夏の終わりに打ち上げ花火をあげるような気持ちで星祭りさんに参加いたしました。
    星矢と美穂ちゃんが花火を見るお話です。
    ※現在「看護師」の名称ですが、放映当時に合わせ「看護婦」と表記しております。ご了承下さい。

    #星祭り10
    #聖闘士星矢
    saintSeiya

    コイハナビ グラード財団療養所の整形外科病棟の廊下は静まりかえっていた。
     今日は八月二十五日、日曜日。
     夕食の時間は終わり、入院中の星矢は自分の病室のベッドで美穂が来るのを今か今かと待っていた。
     星矢は地上を欲するギリシャ十二神のデュオニューソスとの戦いの後、身体中の打撲や骨折が見つかり沙織の勧めもあり入院していた。紫龍や氷河、一輝と瞬も一緒に入院していたが、皆早々に退院して、それぞれ五老峰、シベリア、そして一輝は瞬にも何も言わずに何処かに旅立った。星矢も皆と同じタイミングで退院出来るはずだったが、急に体調不良を訴えた為一人だけ退院が伸びた。
     「星矢ちゃん?」
     星矢の病室のドアをノックするのと同時に、美穂が入ってきた。
     「美穂ちゃん!静かにして!」
     星矢がヒソヒソ声でシーっと人差し指を自分の唇に当ててながら、ベッドから降りてきた。
     「星矢ちゃん、どうしたのよ?」
     星矢の様子を見て目を丸くしながら、美穂もヒソヒソ声で返す。
     「いいから、俺に着いてきて!」
     星矢が中腰になりながら、そっと病室のドアを開けて右へ左へと視線を向けると、美穂に手招きしながらそのまま病室を出た。美穂もそんな星矢に倣い、中腰になりながら星矢の後を着いていく。
     星矢の病室の前はナースステーションだった。ナースステーションの窓から姿を見られないように屈みながら、星矢が通り過ぎてゆく。まるで忍者になったみたいだなと思いながらその後ろを美穂も星矢を真似ながらこっそりと着いていった。何故星矢がコソコソと病室を抜け出したのか分からなかったが、ナースステーションにいる看護婦には見つかってはいけないような気がして、手に汗を握るような思いだった。
     ナースステーションを抜けると、中腰だった星矢が立ち上がり走り出した。
     「美穂ちゃん、来いよ!」
     星矢が小声で叫ぶように美穂に手招きして、廊下を走り出した。
     「星矢ちゃん⁈」
     急に走り出した星矢にビックリしながらも、美穂は星矢の背中を追いかけた。
     真っ直ぐ廊下を走り抜け、突き当たりの非常階段のドアにたどり着くと、星矢がドアノブに手を掛けてぐいっと思いっきりドアノブを捻り上げた。ゴキっと金属が捻じ曲がるような鈍い音がした瞬間、星矢が鍵の掛かった非常階段のドアを開けたのだった。
     「……星矢ちゃん⁈」
     美穂は驚いて、叫びそうになる自分の口を両手で押さえた。
     「行くぜ、美穂ちゃん!」
     星矢が美穂にウインクして、分厚い非常階段のドアを開いて、非常階段を駆け上った。
     非常階段のドアを壊して、もし看護婦さんに見つかったら凄く怒られるかもしれない。どうしよう……と美穂が戸惑ったが、非常階段を駆け上がる星矢の足音が遠くなると、咄嗟に美穂も星矢の後を追いかけた。息を切らせて非常階段を駆け上がると、屋上のドアが開かれていた。整形外科病棟の非常階段のドアを壊したように星矢がまた壊したのだろう。美穂が呆れながら屋上に出ると、病院の中にいた時の冷気とは真逆のむわっとする熱い風が美穂を迎えた。
     「おーい!こっちこっち!」
     屋上の南側のフェンスの前で、星矢が美穂に手招きした。
     「星矢ちゃん……ドア壊しちゃって、大丈夫なの?」
     不安げな表情をしながら、美穂は星矢の元に近づいた。
     「いいの、いいの!それより見ろよ」
     星矢はフェンスの向こう側を指差した。美穂もその方向へ視線を向けると、住み慣れた海辺の街を一望した。
     「わぁ……!」屋上からの美しい景色に美穂は感嘆の声を上げた。
     夕闇に街の灯りが煌めいて、水平線の向こうの赤い空は夜空に押し込められようとしていた。
     「屋上から街を眺めるのも悪くないだろ?」
     「本当ね!」
     星矢が悪戯っぽく笑いながら、屋上から見えるヨットハウスや星の子学園の場所を美穂に指し示した。
     「そういえば、美穂ちゃんはもう体調はよくなったのか?」
     星矢が心配そうな表情に変わり美穂の顔を覗き込んだ。
     「うん、もうすっかりよくなったわ!」 
     「それなら安心だぜ!」
     美穂の笑顔を見て、星矢は胸を撫で下ろした。

     この夏、星の子学園では手足口病が大流行し、子供達がかわるがわる感染していった。美穂も看病に追われたが遂に美穂も感染し重篤化したのだった。
     星矢がグラード財団療養所に入院したばかりの頃は、美穂が着替えを届けたりと子供達の看病と並行しながら星矢の付き添いをしていたが、美穂が感染してからは、瞬が美穂の代わりに星矢の付き添いをするようになった。

     二人が笑いながら街の夜景を見ていると、遠くでパーンと花火の上がる音が聞こえた。
     「おっ、始まったぞ!」
     星矢が海の向こうに上がった花火を指差した。
     このグラード財団療養所から数キロ離れた所で花火大会が行われたのだ。
     「離れた所からでも花火綺麗に見れるのね!」
     何度も海の向こうで打ち上がる菊の花のような花火の美しさに、星矢も美穂も釘付けになった。
     時折、星矢が「たーまやー!」と合いの手を入れるかのように叫ぶのが美穂は可笑しくてたまらず、笑い転げた。
     そんな美穂の横顔を見ながら星矢は明日退院してギリシャに発つと伝えた。
     美穂はそんな星矢の瞳を見つめ返したが、「そうなのね……」と呟いて泣きそうになる気持ちを堪えようとぎゅっと唇を結び、俯いた。
     「美穂ちゃん!泣くなよ。俺、美穂ちゃんに泣いて欲しくなくて、花火見せたんだぜ?」
     星矢が慌てふためいた。
     「星矢ちゃん……だめじゃない!瞬くんや看護婦さん困らせちゃ!」
     美穂は瞳に涙を浮かべ、星矢を見つめながら微笑んだ。
     「えっ!……なんのことだよ?」
     星矢は頭を掻きながら、美穂の視線を逸らした。

     星矢は瞬や紫龍達と同じ時期に退院出来る予定だった。
     たまたま星矢の部屋に検温に来た看護婦が「あんたのガールフレンド大変みたいね」と星の子学園の子供達が手足口病に感染して、連日小児科外来に美穂が子供達を受診に連れてきている事を星矢に話してくれた。
     美穂は外来や病棟の看護婦にも顔馴染みになっていたのだった。
     その話を聞いてから、星矢が急に体調不良を訴え出した。
     「瞬……俺はもうだめだ!頭が割れそうなくらい痛い。お腹も刃で切り裂かれたように痛い。もう死ぬかもしれない!このまま退院出来そうもないんだ……!」
     掛け布団に潜り込んだまま、星矢が付き添いの瞬に大袈裟に訴え続けた。
     さっき差し入れのお菓子バクバク食べてたじゃないか。今週のジャンプ読んでゲラゲラ笑ってたじゃないか……と言いたい気持ちを堪えながら、先に退院した瞬が冷たい目で星矢を一瞥した。
     「……そうなんだ、星矢。大変だね」
     「ところで瞬。星の子学園の子供達や美穂ちゃんの様子はどうなんだ?」
     「子供達は快方に向かっている子も増えたみたいだけど、美穂ちゃんはまだ熱が下がらないらしいよ。二十五日の夕方、ここに来るように美穂ちゃんには手紙で伝えておいたよ」
     「ありがとう、瞬」
     「ねぇ、星矢。二十五日に何があるの?」
     「そ、それは……ゲホゲホゲホ………」
     星矢がわざとらしく咳をし始めたのを呆れながら瞬は見つめていた。
     「……言いたくないなら無理には聞かないよ。星矢お大事にね。僕は星の子学園の様子、見てくるから……」小さくため息をついて、星矢の病室を後にした。
     「す、すまない……瞬。頼んだぞ……」星矢がわざとらしく苦しんでいるように呟いて、瞬を見送った。
     聖域にいる沙織の事が気になっていたが、今は銀河戦争の頃よりも遥かに強くなった邪武達が沙織を守護しているので瞬も心強かった。
     星の子学園の子供達や美穂ちゃんの体調が回復するまで、僕もギリシャに行けそうにないな……
     瞬はため息を吐きながら、夏空を見上げて星の子学園へ向かったのだった。

     「私、瞬くんから色々手紙で星矢ちゃんの事、教えてもらったのよ。星矢ちゃん、本当は元気なのに仮病使って看護婦さん困らせてるって……」
     顔を紅潮させ頬を膨らませた美穂が、涙目で星矢を見つめる。美穂が泣いているのは決して悲しいからではなかった。
     「いや、それはその……」美穂の言葉に星矢はしどろもどろになる。
     『星矢は本当は退院出来るくらい元気になりました。でも仮病を使って、看護婦さん達を困らせています。それは君に会いたいからだと思います。早く良くなってくださいね。』
     美穂が高熱で苦しんでいる時に神父を経由して瞬から手紙を受け取った。星矢が自分に会いたいと思ってくれる事が嬉しくて、美穂は早く元気にならなければと焦る気持ちでいっぱいになった事を思い出した。
     「どうして、仮病なんて使ったの?」
     星矢ちゃんの口から私に会いたかったって聞きたい!美穂の胸がときめきで高鳴り、星矢の瞳を覗き込んだ。
     「俺、ちゃんと美穂ちゃんに『行ってきます』って言いたかったんだよ。美穂ちゃんが手足口病で苦しんでいるのに、黙ってギリシャになんて行けないって思ったからさ……」
     「星矢ちゃん……」
     美穂が聞きたかったのは『行ってきます』という言葉ではなかったけれど、自分の事を心配してギリシャ行きを延期してくれた事が嬉しくてたまらなかった。
     「美穂ちゃんは俺がギリシャに行くって言ったら泣いちゃうだろ?綺麗な花火見ながらだったら泣かないだろうなぁと思ったんだけどさ……」星矢が口を尖らせて俯いた。

     先日、星矢が売店に行こうと病室を出た時、ナースステーションで看護婦達が会話しているのが聞こえた。
     「今度の花火大会っていつだっけ?」
     「確か、二十五日の日曜日だと思うよ」
     「隣町の花火大会だよね。今年はフィナーレのスターマインが凄いらしいよ!」
     「凄く混むから、病院の屋上から見たいよね!立ち入り禁止だから残念だけどねぇ……」
     その会話を聞いて星矢は、美穂が元気になったら病院の屋上で花火を見せてあげたい。それまでは仮病を使い続けようと決めた。

     「私は悲しくて泣いてるんじゃないのよ……もちろん、ギリシャに行ってしまう星矢ちゃんの事は心配よ。でも今凄く嬉しい気持ちの方が大きいの!こんなに綺麗な花火、星矢ちゃんと一緒に見る事が出来たから……今年は夏らしい事、子供達にも何も出来なかったからみんなにも見せてあげたかったなぁ……」
     脳裏に高熱で苦しみ続けた子供達の顔が浮かんで、次々に打ち上がる花火を見つめながら、美穂はポロポロと溢れる涙を必死に拭った。
     「そうだな……来年は子供達とも一緒に見ようぜ!」
     「うん!」
     来年も一緒に……戦いの世界を駆け抜ける星矢から未来の約束をしてくれた事に、美穂の胸の中は温かなもので広がるようだった。
     「その時は星華ちゃんも一緒よ。私達親のいない子供達は家族も同然なんだから!星華ちゃんは本当は星矢ちゃんの側でずっと見守っているような気がするの……私は星矢ちゃんがギリシャから無事に帰って来てくれるって信じてるから!」
     美穂はまるで花火のようなパァっと弾ける笑顔を星矢に向けた。その笑顔を見ていると、星矢の胸の中に星が宿るようだった。
     「美穂ちゃん、ありがとう……」
     星矢の右手が美穂の左手を繋ごうとした。その時、美穂は自分の左手を引っ込めて、自分の胸元で左手を右手で庇うように隠して俯いた。
     「私の手、まだぶつぶつが残っていて汚いから!」
     美穂は手足口病の後遺症で、両手の手のひらに赤い湿疹がぼつぼつといくつも広がっていた。
     星矢ちゃんに汚いと思われて嫌われたくない。そう思うと恥ずかしくて消えたくなった。
     そんな美穂を一瞬悲しげに見つめた星矢が、もう一度強い眼差しで美穂を見つめ美穂の左手を強引に取り、手を繋ぎ直した。
     「一生懸命子供達を看病した手が、汚いわけないだろ!」
     星矢は美穂を見つめてカラッと笑った。
     「星矢ちゃん……」
     こんな優しい星矢ちゃんの事が大好き……美穂は自分の恋心が強くなるのを確信した。
     繋いだ手の温かさに、美穂は嬉しさが込み上げてきて涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。涙を流したら星矢を困らせてしまうから泣かないようにと、打ち上がる花火に向かって美穂は「たーまやー!」と叫んだ。
     星矢も美穂の真似をして叫ぶと、二人は笑い合った。
     夜空にまるで万華鏡を覗いたような形の花火上がる度に、二人の心の中では恋心が弾けるようだった。指を絡めて手を繋ぐ二人の間を熱いビル風が吹き抜ける。
     「星矢ちゃん。ドア壊した事、後で一緒に看護婦長さんに謝りに行こうね!」
     美穂が悪戯っぽく笑って、ウインクした。
     「……ああ、そうだなぁ……」
     星矢の脳裏に、厳しい看護婦長とグラード財団療養所の理事長代理の辰巳徳丸の怒り狂う顔が浮かび、バツの悪い顔をした。
     すると、フィナーレのスターマインが上がり始めた。夜空に虹のような七色の美しい花束を描くように、七色の千輪菊の花火が何百発も連続で上がった。
     星矢も美穂も、とめどなく輝く花火を見ているとドアを壊した事を忘れてしまうようだった。その二人の背中の側を赤蜻蛉がすーいすいと飛んでいた。近づく秋の足音をスターマインの音が掻き消した。
     強く手を繋ぎ心を結び合う二人は、この夏の花火をずっと忘れないようにと心に焼きつけていた。

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