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    めいや

    pixivで星矢×美穂の小説書いてます。
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    めいや

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    2025.6.29 (日)星祭り11展示作品 
    星矢×美穂小説 六月なのでジューンブライドなお話です。
    アテナvsヘスティアも書いてみました。

    #星矢美穂
    #聖闘士星矢
    saintSeiya
    #星祭り11

    Stay with meStay with me

     人生で一番幸せな日のはずなのに、美穂の心はずっと重苦しかった。本日、六月二十九日。二十五歳になった星矢と美穂が星の子学園の教会で結婚式を挙げる日だ。花嫁控え室でウエディングドレスを身に纏いヘアメイクを終えて、ドレッサーの前でため息を吐いて俯いていた。控え室のドアをノックする音がして、星華と絵梨衣が入ってきた。
     「美穂ちゃん、とっても綺麗!おめでとう!」
     「梅雨時だけど、今日は晴れて良かったわね!」
     美穂の花嫁姿を見て、二人は感嘆の声を上げた。
     「ありがとう……」
     愛想笑いで二人に微笑む美穂の気持ちを察して、星華が大袈裟に「星矢ったらこんな大事な日に何してるのかしら?きっと浮かれて夜更かしでもして、寝坊でもしたのよ!呆れちゃう!」と戯けてみせた。
     そんな星華に合わせるように、絵梨衣も「今ねタツヤ君達が星矢さんのアパート見に行ってるのよ?星矢さんったら、寝坊だなんて可笑しいわね!」と笑った。
     「うん、あのね。星矢ちゃんとここ二、三日連絡が取れないの……」
     「えっ?」星華と絵梨衣が顔を見合わせた。
     「私と結婚するの、嫌になっちゃったのかしら……」美穂が顔を両手で押さえて泣き出した。

     二人が結婚を決めてから、よく喧嘩をするようになった。式の日取りも六月二十九日は仏滅だから別の日を美穂が提案しても、星矢はその日じゃなきゃ駄目だと譲らず、ウエディングドレスの試着にも一緒に来てほしいとお願いしたのに、ドレスなんてなんでもいいさと言って、ついてきてくれなかった。
     「なんでもいいって言われると、どうでもいいって言われてるみたいだわ!二人の結婚の事なのに、星矢ちゃんひどいわ!」
     美穂が溜まりかねて怒りをぶつけると、
     「そんな風に悪く取るなよ!」と星矢はそっぽを向いたのだ。

     「そ、そんなはずはないわ!……星矢の事だから何か事情があるはずよ」星華が泣き出す美穂の背中を摩りながら、慰めた。しかし、星華の心の中は不安が広がるようだった。きっとアテナの身に何かあったに違いない。嫌な予感がしていた。

     炉の女神ヘスティアは怒りに満ちていた。地上の守護をアテナに任せても、愚かな人類は戦争をやめず、美しい地球の生命や環境を破壊していく。
     人類を愛し火を与え、ゼウスやハーデス達との戦いに与しはしないとオリンポスの神々から距離を置いていたが、アテナに愛想をつかしたヘスティアはこの地上を一度全て燃やし尽くし、新たな世界を築き上げようとした。
     そのヘスティアの待つオリンポス山近くのウェスタ神殿へ沙織が単身乗り込んだのだった。

     「アテナよ。今一度問う。愚かな人類を燃やし尽くし、私と共に新たなる世界を創り上げる気はないのか?」
     ヘスティアの柘榴色の瞳に映る沙織は凛として、その申し出を拒絶した。
     「愚かなのは、ヘスティア。貴女です。この地上の人類は決して愚かではありません。人々が愛するこの地上を燃やし尽くすなど言語道断です。貴女の身勝手な粛正など、このアテナが許しません」
     「ならば宜しい。このヘスティアの炎をお前が止めてみよ!もしお前がこの炎を消す事が出来るならば地上を手に入れる事を諦めてもよいぞ。お前はこのヘスティアへの生贄になればよいのだ」
     ウェスタ神殿玉座の奥にある聖なる炉に、ヘスティアが沙織を案内した。沙織は覚悟を決め、聖なる炉に入った。高さは二十メートル程、聖なる炉の規模は桁行、梁間ともに二十メートル程の石膏の立方体だった。ロバのモニュメントを模った重厚な入り口の扉をヘスティアが閉めると、聖なる炉の中に炎がまわり、炉の中央にいる沙織を取り囲んだ。
     「アテナ……愚かな女神よ」
     ウェスタ神殿に風が吹き、肩まである緩いウェーブのかかった夕焼け色のヘスティアの髪が揺れた。二羽のサヨナキドリがヘスティアの元に飛んで来て、ヘスティアの両肩に止まった。ヘスティアがサヨナキドリの頭を指で撫で微笑むと、二羽のサヨナキドリはヘスティアの足元に飛び、人の姿に変わった。
     「私の忠実なる焔闘士(メタモルフォシス)達よ。今、このウェスタ神殿に五つの攻撃的な小宇宙が向かって来ているのを感じる。そなた達、二人の実力ならばアテナの聖闘士を倒すなど、赤子の腕を捻るようなものであろう。この地上をもう一度新たな世界に生まれ変わらせる為にも、アテナの聖闘士共を一人残らず抹殺するのだ」
     ヘスティアの元に膝を付き、首を垂れる二人の焔闘士がいた。
     「はい、必ずやアテナの聖闘士の命、仕留めて見せましょう」
     焔闘士は神話の時代からヘスティアを守護する女戦士であり、黄金聖闘士と同格の力を持つとも言われていた。ヘスティアはティターン一族の争いに与する事がなかった故、焔闘士の存在はベールに包まれていた。
     現代に蘇ったヘスティアを守護するのは双子の姉妹、姉のプロクネと妹のピロネアだ。二人は真紅のベリーショートの髪に、姉は右眼はヘスティアから授かった柘榴色の瞳、左目は翡翠色の瞳のオッドアイを持っていた。右耳にサヨナキドリの羽のピアスを付けて、右腕には真紅のアーマーを装着し、背中には群青の羽が生えていた。
     妹は左眼に姉と同じくヘスティアから授かった柘榴色の瞳と右眼に翡翠色の瞳、左耳にはサヨナキドリの羽のピアスと左腕には姉と同じ真紅のアーマーに群青の羽と、二人の佇まいは美しいシンメトリーを描いている。焔聖衣はアーマーと羽だけであり、二人は白い絹のキトンを身に纏っていた。
     プロクネ達が岩山の頂上に位置するウェスタ神殿から麓を見下ろすと、こちらに向かう星矢達の姿が見えた。
     「さあ、薄汚い鼠共を片付けてしまいましょう」
     「ええ、姉さん。汚らしい男達なんぞにこのウェスタ神殿に足を踏み入れさせる事なんて出来ないわ!」
     星矢達を嘲笑うように見つめ、二人は焔闘士からサヨナキドリに変身し、星矢達の元に向かい羽ばたいた。
     
     閉じ込められた聖なる炉の中央で炎に囲まれながら、沙織は小宇宙を放ちヘスティアの炎を消そうとしていた。ヘスティアの強大な小宇宙によりその炎の勢いは沙織を飲み込もうとしている。
     「星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝……私は一人でも必ずヘスティアに打ち勝ってみせます。あなた達は私の大切な友。もう二度とあなた達が傷つく事がないように、私がこの地上の平和を守り抜いてみせます」
     沙織は更に小宇宙を増大させ、ヘスティアの小宇宙と拮抗させていた。

     羽を刃に変え、相手を切り刻む妹のピロネアを紫龍と氷河が倒し、美しく悲しい歌声で相手を誘い、炎の技を使う姉のプロクネを瞬と一輝が倒した。しかし焔闘士は黄金聖闘士と同格の実力を持つ戦士。紫龍達も満身創痍で倒れたのだった。
     皆の犠牲を背負って、遂に星矢がウェスタ神殿のヘスティアの元に辿り着いた。ウェスタ神殿の中は薄暗く、壁に幾つものロバのモニュメントと蝋燭の灯火が灯っていた。星矢の足音に気づいたヘスティアが玉座から立ち上がる。
     「ペガサスよ……」
     「お前がヘスティア……」
     柘榴色の瞳から大粒の涙を流し、花の刺繍を施した真紅のペプロスを広げ、ヘスティアが膝をついた。まるで星矢に土下座をするかのような姿勢を見せるヘスティアの態度に星矢は戸惑った。
     「ペガサス。私はゼウスの子、アテナが愛しくて可愛い。本当はこのような事をしたくはなかった。焔闘士を失って気がついたのだ。美しく聡明なアテナと共にもう一度この地上を守り抜く為に他の方法を探すべきではないかとな……私は後悔している」
     ヘスティアは立ち上がり、玉座の奥の聖なる炉の扉を明け炉の中の炎を消した。炉の中央で苦しそうに座り込んでいる沙織を見つけ、星矢が駆け寄った。
     「沙織さん!」
     「星矢……」
     今にも消えてしまいそうな小宇宙を燃やしながら沙織は助けに来てくれた星矢に微笑んだ。
     「星矢、ありがとう。今日はあなたにとって大切な日なのに、私が至らないばかりにごめんなさい。私はあなた達にもう傷ついて欲しくなかったのです……」
     そう言いながら沙織は涙ぐんだ。
     「なに水臭い事言ってるんだよ!俺たちはアテナの聖闘士。この世の邪悪を打ち払う為にあんたと共に戦うのが俺たち聖闘士なんだぜ?」沙織の肩を支えながら星矢は笑って見せた。
     教会で待つ美穂の事が頭の中に過り、胸がチクッと痛んだが優しい美穂ちゃんならきっと分かってくれるはず……星矢は心の中でそう言い聞かせていた。
     「しかし、ヘスティアはいきなり降伏してきたんだぜ?アテナと共に地上を守りたいって。沙織さんが死んじまう前に炎を消してくれてよかったぜ!」
     「そうだったのですか……もともと争い事には関わる事をしないヘスティアです。地上の平和の為に力を貸してくれるのならばこれほど力強いことはありません」
     沙織はホッとしたように呟いた。
     聖なる炉から星矢と沙織が出ると、ヘスティアが待ち構えていた。
     「アテナよ。美しいお前を生贄にしようとした事、とても後悔している。すまなかった」
     ヘスティアが沙織に土下座をした。その姿に沙織は目を丸めて、ヘスティアに駆け寄った。
     「ヘスティア、よいのです。頭を上げて下さい」
     涙を流すヘスティアは立ち上がり、ウェスタ神殿の外に向かい歩き始めた。その後を星矢と沙織がついて歩く。
     ウェスタ神殿を眩い星々と月が照らしていた。月を見上げる穏やかだったヘスティアの表情がみるみるうちに、憎しみを抱いた眼付きに変わり、星矢に振り向き睨みつけた。
     「ペガサスよ、お前はポセイドンの魂を振り回し、ハーデスの美しい身体に傷をつけ、我らティターン一族の神々を掻き乱した。その罪、万死に値する」
     「何っ⁉︎」
     星矢はヘスティアの言葉に怪訝な顔をした。また沙織を襲うかもしれない。沙織の前に立ちはだかり、ヘスティアに向かい小宇宙を燃やした。
     「アハハハハ!お前達を殺した所で何の面白みもない。ペガサスよ。お前が未来永劫苦しむような傷をつけてやる」
     ヘスティアは高笑いし、両手を天に翳した。
     「さあ、ペガサス。アテナの代わりにどちらかの娘を我がヘスティアの炎の生贄に差し出せ。これでアテナの命も地上の平和も守れるのだから、容易い事であろう」
     不適な笑みを見せるヘスティアの翳した右手側に、教会で参列し心配そうに美穂を見守る星華の姿が映り、左手側には、不安そうな顔で祭壇の前で星矢を待つ花嫁姿の美穂の姿が映っていた。
     「ばかな!生贄なんて差し出せるわけないだろ⁈」
     星矢がたじろいだ。美穂の花嫁姿に星矢は胸がギュッと締め付けられるようだった。

     「ねぇ、星矢ちゃん?このシンデレラみたいなふわっとしたドレスと、シンプルで大人っぽいデザイン。どっちがいいかしら?」
     半年くらい前にヨットハウスの星矢の部屋で、美穂がウエディングドレスのカタログを持ってどのドレスにしようかと相談していた。
     「どっちでもいいと思うぜ?」
     カタログに目を通さず、星矢は窓の外を見ながら口笛を吹いていた。
     「そんな事言わないでよ。ウエディングドレス着るの人生でたった一度きりなのよ?星矢ちゃんの意見も聞きたいの」
     美穂がムッとして星矢を睨みつけた。
     「ドレスなんてなんでも一緒だと思うんだけどな」
     どんなドレスを選んでも美穂ちゃんは絶対綺麗だから。星矢はその言葉が照れ臭くて言えなかった。
     「星矢ちゃん?なんでも一緒だなんて酷いじゃない!」
     星矢の真意に気づかない美穂が涙目になって抗議してきたのを思い出した。
     美穂が今纏っているのは、まるで絵本から抜け出したかのようなプリンセスラインのウエディングドレス。ドレス全体に描かれた小花柄のレースにスパンコールやパールがあしらわれ、フレンチスリーブのブラウスと流れるようなバックスタイルの大きなリボンは可憐で、清楚な品のあるウエディングドレスだった。髪は後ろに一つにシニヨンでまとめて、シルバーのティアラに肩までのレースのベールを被せていた。普段のナチュラルメイクとは違い、ベールから覗く赤いリップが美穂の白い肌を引き立てて、一層華やかに見えた。
     そんな美穂を見て、美穂ちゃんらしいウエディングドレスだなと星矢は胸が熱くなった。大好きな幼馴染の世界で一番綺麗な姿をこんな形で見る事になるとは……星矢は悔やんでいた。
     美穂のドレスの試着について行かなかったのは、六月二十九日の当日まで楽しみにしたいと思ったからだった。それより前に美穂の花嫁姿を見てしまったら、嬉しくて自分の心がどうにかなりそうで六月二十九日の挙式まで待ちきれないと思ったからだった。
     星矢はヘスティアを睨みつけ小宇宙を更に燃やした。そんな星矢の姿を見て、ヘスティアは侮蔑の視線を向けた。
    「お前の心なぞ見え透いておる。永遠の愛を誓うなどと薄っぺらな言葉で花嫁を繋ぎ止めようとした所で、お前は絶対生贄に姉を選ばない」
     「何ぃ?」
     「花嫁か……このヘスティアに捧げる生贄に相応しい」
     ヘスティアの左手が翳す美穂の姿が大きく映った瞬間、炎の弾丸と変わった。
     「ヘスティア、私が生贄になります。罪のない人を傷つけてはなりません!」
     沙織がヘスティアに抗議するも、ヘスティアは高笑いをし、左手の炎の弾丸を東の空に向かい投げつけた。
     「やめろ、ヘスティア!」
     星矢の叫びも虚しく、その炎の弾丸は光の速さで星の子学園に着弾した。地鳴りが轟くと一瞬にして美穂の周りに火柱が上がった。
     「きゃああああ!」
     美穂は恐怖に顔を歪め叫んだ。
     ステンドグラスは割れ、古い教会の柱にはヒビが入りメキメキと音を鳴らして崩れ落ちそうになった。美穂の周りの火柱はどんどん燃え広がり、教会内は黒煙が立ち込め皆騒然としていた。
     「みんな、すぐに外に避難するんだ!」
     「消防車を呼べ!」
     マコトやタツヤ達が率先して参列者や高齢の神父を教会の外へ避難させた。火柱が上がってすぐに星華が消防署に通報して、消防車と救急車が駆けつけた。
     「まだ教会の中に弟の花嫁さんがいるんです!お願いします!助けて下さい!」
     星華は取り乱し、消防隊に掴みかかるかのようにして必死に懇願した。
     「落ち着いて下さい。必ず助けますから」
     消防隊員は星華を落ち着かせるために、両手を握りしめ力強く訴え、そのまま燃えさかる教会に向かっていった。
     星華は消防隊がホースで消化活動をする姿を眺めながら、美穂の救出を祈るように見守っていた。星華が周りを見渡すと絵梨衣がいない事に気がついた。

     「ふざけるな!ふざけるな!ばかやろう……!」
     瞳いっぱい涙を溜めた星矢は唸り声を上げ、歯を食い縛り怒りに満ちた顔をヘスティアに向けた。
     「お前なんかの生贄に美穂ちゃんを渡すわけないだろう。俺の誓いが薄っぺらだと?馬鹿にするな!姉さんも大事な人だけど、美穂ちゃんは俺にとって一番大切な家族なんだ。俺は美穂ちゃんが笑って暮らせるような世界を守る為に、一緒に生きていく為に戦っているんだ!俺はお前を絶対に許さない!」
     星矢は自分の身体中の血液が逆流するのを感じた。もう自分の怒りが抑えきれなかった。星矢の咆哮がウェスタ神殿に轟くと星矢の小宇宙がビッグバンを起こした。
     「なにぃ⁈ペガサスの小宇宙がビッグバンを起こした……」
     ヘスティアが星矢の小宇宙に慄くと星矢の身体から天馬星座の聖衣が外れ小宇宙が眩い光を放った。天馬星座の聖衣の代わりに射手座の神聖衣が星矢に装着された。
     「星矢……」
     その神々しい星矢の姿が沙織の瞳に映ると、沙織は天に向けニケの仗を翳した。
     「紫龍、氷河、瞬、一輝……どうか私にあなた達の力を貸して下さい。星矢と共にヘスティアを討つ為に……」
     沙織の小宇宙が焔闘士との戦いで倒れた紫龍達に直接呼びかけた。温かな小宇宙に包まれて、紫龍達は再び立ち上がる力を取り戻していった。
     「昇れ龍よ。俺の小宇宙、沙織さんに……アテナに届け!」
     「俺の凍気の小宇宙よ、アテナの元へ……!」
     「僕の全ての小宇宙、沙織さんへ届け!」
     「俺の不屈の小宇宙よ、アテナに届け!そして星矢よ。ヘスティアを討て!」
     紫龍達の小宇宙がニケの仗に集まると、沙織はヘスティアを見据えた。
     「ヘスティア、私は貴女を決して許しません」
     「うおおおお……!」
     星矢が叫びながら射手座の矢を番えた。黄金の矢の先に沙織がニケの仗を翳すと紫龍達の小宇宙が矢の先に放たれた。
     「こ、この小宇宙は……このヘスティアの小宇宙をも凌ぐ勢いだ!」
     「ヘスティア、貴女の負けです。この地上を守り抜こうとする聖闘士の小宇宙は貴女の野望を打ち砕くでしょう」
     沙織はヘスティアに毅然と言い放つと更に小宇宙を増大させた。
     星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝、そしてアテナの大いなる小宇宙が重なり星矢の射た黄金の矢と共にヘスティアの心臓を光の速さで目がけていった。
     「ば、バカな……」
     黄金の矢に胸を貫かれヘスティアはその場に倒れ込んだ。
     「バカめ、ペガサスよ。あの花嫁はもう……」邪神の手に堕ちるだろう。息絶え絶えにそう伝える前に事切れた。
     「やった。俺たちはヘスティアを倒した!」
     安堵した表情で星矢は沙織に振り返った。
     「星矢……」
     沙織は涙ぐみ、星矢に微笑んだ。主人を亡くしたウェスタ神殿が崩れ落ちようとした時、六つの流星が聖域に向かい飛びたったのだった。

     火柱に囲まれた美穂は黒煙を吸い込み倒れ込んだ。絵梨衣が火柱の外側でしゃがみ込み、息苦しそうに呻いていた。絵梨衣は自分の心と身体の中に忍び寄ろうとした、黄金の林檎を持った邪神を振り払おうとしていた。
     「嫌……来ないで!」
     絵梨衣は頭を抱えて左右に振り拒絶した。
     『怖がらなくてもよい。ちょっとお前の身体を借りるだけ……』
     邪神は絵梨衣の耳元に囁いた。
     「やめて!」
     絵梨衣は泣き叫んだ。
     『泣いたって無駄。お前は私そのものなのだから!』
     クスクスと邪神が笑い、絵梨衣の耳朶を噛んだ。すると絵梨衣は意識を失い、カッと絵梨衣の目が開くと澄んだ瞳からビー玉のような目に変わり、青白く輝く唇が歪み不敵な笑みを浮かべ立ち上がった。すると火柱が二つに分かれて、倒れたウエディングドレス姿の美穂が現れた。絵梨衣の身体を乗っ取ったエリスは美穂の側に歩み寄り冷たく見下ろす。
     『この娘はペガサスの心臓。いつか完全にこのエリスが復活した暁に憎きペガサスの前で嬲り殺す為の私の獲物。ヘスティア、お前の好きになどさせぬ!』
     エリスが美穂を抱き上げると火柱が消え、そのまま教会の外に歩き出した。
     教会の中に、美穂と絵梨衣がいると聞いて駆けつけた消防隊員が、美穂を抱いたまま教会の外に向かい歩く絵梨衣を見つけた。
     「君、大丈夫か?」
     絵梨衣は放心状態で、消防隊の問いかけに返事をしなかった。その身体にエリスの魂はもう存在しなかった。
     「おい⁈」
     消防隊が更に声を掛けると、美穂を抱いたまま絵梨衣がその場に倒れ込み意識を失った。
     教会に火が回る中、必死で参列者や子供達を避難させる事に必死だった星華は震えながら、美穂と絵梨衣の無事を祈る事しか出来なかった。
     教会の中から担架で運ばれていく美穂と絵梨衣の姿を見えると、
     「よかった……二人共助かったのね!」園庭で見守っていた星華は胸を撫で下ろし、その場にへたり込んだ。子供の頃から自分の家のように親しんだ教会が、燃えさかり音を立てて崩れ落ちていく様子に星華は涙が止まらなかった。

     数日後、日本に戻った星矢が星の子学園を見舞った。七月になったが梅雨がまだ明けない海辺の街は朝から雨が降っている。美穂は負傷して入院しているが、絵梨衣は病院に搬送されたが不思議と傷一つなく、一泊で退院しすでに保母としての仕事に復帰していた。
     星の子学園の教会はグラード財団が全額費用を負担して再建される事となった。跡形もなく燃え尽きた教会の姿に星矢は言葉を失った。
     雨が降り、園庭で遊べない子供達は保育室で本を読んだりゲームをしたりして過ごしている。廊下にいた星矢に気づいた絵梨衣と星華が星矢の元に向かった。
     「絵梨衣ちゃん。体調はどうだ?美穂ちゃんを助けてくれて本当にありがとう」
     星矢が絵梨衣に頭を下げた。
     「星矢さん……私、あの日の事が全く思い出せないの。急に地震が来たと思ったら、美穂ちゃんの周りに火が上がって、そこから記憶がなくて気づいたら病院にいたの。その事を思い出そうとすると、頭の中に黒いモヤが掛かるようで頭が痛くなるの……きっと美穂ちゃんを助ける為に無我夢中だったのかもしれないわ」
     絵梨衣は星矢を気遣い、戯けて笑ってみせた。そんな絵梨衣の気遣いに星矢はホッとした。
     大きな火事で教会が全焼した為、動揺している子供も多く星華も絵梨衣もそのフォローに追われていた。
     「星矢。私達の事は気にしなくていいから、今は美穂ちゃんの側にいてあげなさい」
     星華が強い口調で星矢に諭すと「わかってるさ……」と呟いて、星矢は星の子学園を後にした。

     美穂の入院先のグラード財団療養所に星矢が見舞った。
    ICUから一般病棟の個室に変わったばかりの美穂は心が落ち着かない様子で、星矢が入ってくるなり瞳いっぱいに涙を溜めて俯いた。
     「美穂ちゃん、大丈夫か?俺、結婚式にいなくてごめん……」
     「星矢ちゃんこそ、大丈夫?……また戦いだったんでしょ?」
     「……ごめん。俺さ……」
     星矢がそう言いかけた時「星矢ちゃんが無事で本当に良かった!」と美穂が星矢の言葉を遮るように言い、両手で顔を塞いで泣き出した。
     顔や腕に火傷を負い、包帯やガーゼが当てられていた美穂の様子を見ているだけで、胸が抉られそうになった。これほど大きな怪我をしているのにも関わらず、自分の身を案じてくれた美穂に星矢はいじらしさを感じた。
     「ウエディング姿、星矢ちゃんに見て欲しかったな。私凄く気に入ったデザインだったの。でも煤だらけでボロボロになっちゃった。きっと仏滅の日に結婚式を挙げたからね。やっぱり別の日にすればよかったんだわ……」
     ガーゼの当てられた手の甲で涙を拭こうとした美穂を見て、星矢が咄嗟に自分の指で美穂の涙を拭った。
     「美穂ちゃん、俺さ、仏滅とかどうでもよくて、どうしても六月二十九日に結婚式を挙げたかったんだよ」
     星矢が美穂の顔を覗き込んだ。
     「どうして?星矢ちゃん」
     「六月二十九日は丁度一年前に俺が美穂ちゃんにプロポーズした日なんだよ。俺にとって家族の意味が変わった日なんだ。だからどうしても六月二十九日に結婚式を挙げたかったのさ」
     星矢が微笑んだ。その言葉を聞いて飛び上がるくらい嬉しくなった美穂の瞳からは、また涙が溢れ出した。
     「ヘスティアが見せた幻影で、美穂ちゃんのウエディングドレス姿見たよ。本当に綺麗だった。俺隣に立って見たかったよ」
     そう言って俯く星矢は悔しそうに拳を握った。
     「美穂ちゃんがこんな目にあったのは、俺のせいだ」
     星矢の瞳から涙が溢れた。
     「違うわ!星矢ちゃんのせいじゃないわ。私、煙を吸って意識が朦朧とした時に星矢ちゃんが『美穂ちゃんは俺にとって一番大切な家族なんだ』って叫ぶ声が聞こえた気がしたの。私嬉しかった。きっと星矢ちゃんは私やみんなを守る為に戦ってくれるって思ったの」
     美穂の顔に笑顔が戻ると、星矢が急に美穂を抱き寄せた。
     「俺は美穂ちゃんと一緒に生きていく為に戦うから。許してくれ……」
     悔しそうに嗚咽を漏らす星矢の背中に、美穂はそっと腕を回した。しばし抱き合った後、星矢は涙を拭い、ポケットから指輪の箱を美穂に差し出した。
     「遅くなっちゃったけど、これ受け取って欲しい」
     美穂は頬が紅潮し、胸が高鳴った。紺色のビロードの箱を開けると、小さな星のようなダイヤモンドが輝いていた。
     「星矢ちゃん、これ私にはめて?」
     「ああ……」
     星矢が美穂の左薬指にそっと指輪をはめた。美穂はガーゼを当てた左手の甲を見つめると、薬指は星が宿るように輝いて、美穂の胸の中は幸せでいっぱいになった。
     「ありがとう……星矢ちゃん!」
     二人で指輪を見つめていると、美穂は急に何かを思い出したように、ベッドの横の引き出しからスマートフォンを取り出した。何かを検索する美穂を星矢が不思議そうに眺めている。
     「星矢ちゃん!来年の六月二十九日は月曜日だけど、先勝でお日柄は悪くなさそうよ!」
     そう言って美穂が笑った。
     「じゃあ、来年の六月二十九日はちゃんと結婚式を挙げようぜ?」
     二人は額を合わせ笑い合うと、そっと唇を重ねた。
     雨は上がった。梅雨の雲の隙間から日差しが病室の窓へ差し込んだ。その光は心を重ね、手を取り合い共に人生を歩み出す二人を照らしていた。
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