恋人たちの営業トーク燐ニキの場合
「僕がまるまる一個もらっちゃっていいんすか⁉ うわぁい、ありがとうございます! いっただきま〜す! ん〜っ、みずみずしくて美味しいっす! 果肉が甘くてトロットロで、僕までとろけちゃいそう……って、なんで燐音くん顔赤くしてるんすか」
一燐の場合
「……昔、兄さんがこうやって木の実を半分に分けてくれたことがあったね。幼い僕の身長ではどうしても高い枝に手が届かなくて、木登りもまだ兄さんみたいに上手にできなかったから。僕が諦めるしかなかった最後の木の実を、兄さんは分け与えてくれた。兄さんは最初、丸ごと一個僕にくれようとしたんだけど、僕が兄さんに無理を言って半分こにしたんだ。今日みたいに。今はもうどんな高い枝にも手が届くし、狩りだって一人でできるけど──兄さんと過ごしたあの日々が、僕はときどき無性に恋しくなるんだよ」
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