「だから、貴様は視野狭窄に陥っている」
「は、どこが」
スプリガン隊長とグリムリーパー副隊長の口論はもう見慣れた。
はじめはドキドキしながら見たものだけど、時間を遡った分を含めて何度も見た結果、今は微笑ましい気持ちで、ひとつのエンターテイメントとして見ていられる。
──などと言うと二人とも怒るだろうから、それを口に出すことはない。
今日も、きちんと通路の端に寄って言い合う二人を見かけて「やってんなぁ」とつい近寄ってしまった。
そして、彼女の口からその言葉が飛び出すのを聞いてしまう。
「そんなふうに、コロッケはじゃがいもです! と決めつけるような考え方が視野狭窄だと──」
『コロッケはじゃがいもです』から先はよく聞こえなかった。素朴な単語の並びに殴られた頭を立て直すのに必死だった。
今来たばかりで二人が何を言い争っているかは知らない。ただ言わんとすることはわかる。一口にコロッケと言っても中身は様々だから、コロッケと聞いて中身はじゃがいもだと決めつけてかかってはいけないとか、そういうことを彼女は言いたいのだ。
「コロッ……」
ただ、その高貴な女騎士のごとき声と口調で、高らかにそんなことを言わないでほしい。絶対、もっといい例えがあったはずだ。口を押さえながら見ると、彼の肩も震えていた。
「貴様はコロッケを買ってこいと言われたら疑いもせずじゃがいものコロッケを買ってくるのか? 違うだろう。クリームコロッケやかぼちゃコロッケも選択肢にあるのだから」
コロッケを連呼しないでほしい。
彼の咳払いが響く。両手を腰に当てて堂々たる態度で言い放つ彼女の姿を見て、それから商店街の肉屋でコロッケを買う彼の姿を想像して、胃の辺りが引きつりそうだった。
「さっきからコロッケって……腹減ってんのか……ひっ、ふ……ぶふッ」
彼はブルブルと震えながらもそう返して、いよいよ吹きだした。
彼女があからさまにはっとした顔をして、それからその首が、顔が茹でたように赤くなっていく。
このままこっそりと、この一幕を最後まで見届けたくて、口を両手で押さえた。