今だけは、あんたに与えられたこの立場が憎い「リオセスリ殿、」
「リオセスリ殿…」
「リオセスリ殿…!」
「リオセスリ殿」
あぁ…今だけはあんたに与えられたこの立場が憎い
________________________________
大きな力、圧倒的な力がそこにいる。この国をこの文明を壊さんとする存在が目の前に。
_________________________________
(体が重い、息を吸うだけで苦しい、血を流しすぎた、フォンテーヌの市民は避難を完了したのか…?)
「はぁ、はぁ、くそっ!左肩をやられたか」
そう吐き出し、見下ろした今の身体はすでに傷だらけで所々に赤い血も流れている。
(流石に左肩の処置も今は厳しいな)
そう思い、右手で抑えながら悲鳴をあげる身体に淘汰し、なんとか歩き始める。
歩きながら周りを見渡せば、目に映るのはフォンテーヌが誇る美しい街並みではなく、それらが崩れ落ちた残骸、瓦礫ばかりである。空は淀み
水の国と謳われた美しかった国の影も形もない状態。
__一体なぜこの国がこんなことになったのか__
この地獄のような状況になってしまった始まりの出来事を思い出す。
_______________________________
メロピデ要塞の管理者として、パレ・メルモニアでこの国の最高審判官であるヌヴィレットさんと報告のやり取りを行っていた。
「それでここの欄の医療物資についてなんだが、看護師長が、怪我をする囚人が多いからってことで数を上乗せで欲しいらしい」
「ふむ、承知した。ではそれらについては担当の者に伝えておこう」
「助かる。なにせ看護師長が、「怪我をする子が多すぎるわ!」と怒ってたんだな…」
「そうか。どうかシグウィンにも無理だけはしないようにと伝えて欲しい」
「勿論、ヌヴィレットさんからの言葉だ。
一言一句溢すことなく伝えとくぜ」
「感謝する」
そんな普段通りのやりとりを行っていた、普段通りの1日だった。そいつは突然現れた。フォンテーヌの上空に突如として、得体の知れないなにか、黒く禍々しいなにか。
俺とヌヴィレットさんもすぐ異常に気づいた。
「なんだ…あれ、」
「あれは…………!?」
ヌヴィレットも驚いたような、普段の無表情からありえない険しい顔をして、俺の横を通り過ぎていったので、慌てて俺もヌヴィレットさんを追いかけた。
「緊急だ!最高審判官の権限によりフォンテーヌ国内に通告!すぐにフォンテーヌの全市民の避難を!あまり猶予がないゆえ、この場で動ける者はすぐに避難誘導を!」
今まで聞いたことのないヌヴィレットさんの大きな声に俺も職員も事態の緊急性を改めて理解した。
バタバタと動ける者たちが外に行く姿を視界の端に入れながら、ヌヴィレットさんに駆け寄る。
「ヌヴィレットさん、とりあえず緊急事態なのは理解したが、あの空に浮かんでるやつはなんなんだ?あんたの行動からするにまるであいつの存在を知っているかのようだが…」
「あぁ、すまない見苦しい姿を…。"あれ"については私にも詳しくは分からない。ただ一つわかることがあるとすれば、あれは"世界を壊す者"だ」
「世界を…壊す者…」
「この世界を、この文明を破壊しようとする、強いていうならばテイワットに害なす敵だ。なぜ今このタイミングで、"あれ"が動き出したのかは分からないが、このフォンテーヌを最初の破壊の場所として定めたのはおそらく…」
「おそらく…?」
「おそらく、私だ。私という…存在がいるからなのだろう」
「は…?それは…どういう、?」
「君はとても頭がいいゆえ、もう気づいているのだろうが、私はこの星の水の元素龍王だ。神々を裁き、審判を下す者である。そして私は水神フォカロルスによって本来の力、古龍の大権を取り戻したゆえ、以前よりも強大な力を有している。"あれ"が、ここを最初の破壊地として決めたのは、私という強大な存在がいるからなのだろう」
伝えられた内容を理解しようとするが、あまりにも規模がでかい話で脳が追いつかない。
「すまない。緊急事態ゆえ、どうか君も急いでくれ。海中にあるとはいえメロピデ要塞もおそらく被害を受けるだろう。一度戻り、シグウィンや職員、囚人たちを避難させてもらえないだろうか」
「あ、あぁもちろんだ。すぐにでも取り掛かろう」
思考停止してた頭がヌヴィレットさんの言葉で回転を始める。(とりあえずあいつの正体うんぬんは置いといて今すぐ要塞に行かなければ)
そう思い、すぐに動き出した。