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    ヲしお

    @310osio
    メモとかプロット、デジタル(ペンタブ&クリスタ)自主練とか。
    ※一次&二次創作、今は二次創作が多いです。

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    ヲしお

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    ひとまず前半か三分の一かな~?
    今週の平日は更新しんどそうなので、開放しておきます。
    ■■■
    お巡りさんと花屋さんです。

    「パラレル」&「年齢操作」
    ヨコハマ警察署・地域課(交番)の巡査長・25歳 ✕ フラワーショップの店長・29歳

    ここは、雑多な街角の、どこにでもあるような変哲のない交差点である。
     なにかひとつ特徴を上げろと問われたならば、交番と花屋があるということぐらいだろうか――。

    『PとF』

     入間銃兎は、ヨコハマ警察署の地域課・○○○交番に勤務する警官だ。
     階級は巡査長。今日も後輩の警官を伴って近隣のパトロールの最中だった。
     この交番が担当する地域は歓楽街から離れていることもあり、喧嘩の仲裁だとか酔っ払いの介抱などがほとんど無く、比較的楽な勤務地ではあった。
     横を歩いていた後輩が、小声で話しかける。
    「……でも、本当なんですかね。この地域に、例のホシが潜伏しているんじゃないかって噂……」
     入間は正面を向いたまま歩き続ける。
     最近、この周辺で暴行事件――性的暴行に類する事件が多発していた。
     犯人が身を潜めているのであれば、人の多い歓楽街か、周辺の閑静な住宅街なのでは、と言われていた。とはいえ具体的な容疑者は割り出されておらず、こうやって日々のパトロールを強化するくらいしか、末端の警察官にできることはなかった。
     交番の前の信号が赤を示し、横断歩道の前で入間たちは立ち止まる。
     ふと振り返れば小さな花屋があり、店先へ出てきた人物と目が合った。形のいい唇が小さく開いたかと思えば赤毛が揺れ、会釈した。入間も制帽に手をやりそれに応える。それを見た彼はにっこりと笑みを浮かべて、もう一度頭を下げてきた。
     交番の向かいにあるフラワーショップの店長、観音坂独歩だ。入間がこの交番へ配属された頃からの顔見知りの住民であり、最近は職質以外の話題を交わす間柄になっていた。
    「……入間巡査長?」
     信号が変わっても歩き出さない入間に、後輩が訝しげな声を上げた。
    「! 君は先に交番へ戻って、休憩に入ってください」
     花屋へ寄っていきますと続ければ、いつものことかと後輩の巡査はそのまま横断歩道を渡っていった。
     店の前に歩みを進め、入間が微笑む。
    「こんにちは、観音坂さん。それ運ぶの手伝いましょうか、重いんでしょう?」
     花いっぱいのフラワーポットを抱えた独歩は、慌てて、
    「いえ、そんな! 大丈夫です」
    「う~ん。道路を私有物で占有されては困るんですよ、手伝いますね」
    「あああっ! すみません、すみません!」
     手伝うための方便を並べ、歩道に置かれたままの花桶を手に取った。水も入ったトタン製の花桶はやはり重く、日頃鍛えている入間の腕にもずしりとした感触を与える。
     独歩も男で、これは彼の仕事なのだから余計なお世話なのかもしれないが、その細腕には難儀な作業であろうことは知れていた。
     人気店ということもあって花の入荷は常に大量で、入間がときどきこうやって荷物運びを手伝うようになってから、しばらく経つ。
    「すみません、お巡りさんに手伝って頂くなんて……。でも、助かりました」
     入荷物を店内へ全て運び終わると、独歩は何度も頭を下げてきた。
    「自分の休憩中に勝手にやっているだけですので、お気になさらず」
    「きゅ、休憩中!? ますますすみません!」
     気にしないでくださいともう一度繰り返してから、笑顔の入間は、
    (鈍いくせに、そういうところばっかり拾いやがって……)
     と心の中で毒づいた。

     大ぶりの派手な西洋花、仏花に好まれる菊花、若い女性に受けそうな鉢植えの小さな観葉植物――決して広い店舗ではないが、所狭しと並んだ花々のラインナップは絶妙で、駅から離れているわりに客足が絶えることはない。 
     今日もショップの中は花の香りに満たされていた。制帽を胸に抱え、入間は大きく深呼吸をした。
    「いい香りです。……ああ、この花ですね」
     大きなユリが天を向いてほころんでいて、そこから芳しい花の香りがする。この店で常に見かける花で、入間は顔を寄せてまたひと嗅ぎした。
     花束を作りながら、独歩がにっこりと笑う。
    「オリエンタルハイブリット系のユリですね。真っ白なオリエンタルリリーが有名ですけど、それはスターゲイザーっていう別の品種です」
    「へぇ……。色が違うだけじゃないんですね」
    「はい。天文学者とか占星術者、星を見つめる人って意味だそうです」
    「…………星、ねぇ」
    「警官だけに、ホシ(犯人)を見つめる人ですね」
    「……ちょっと。私も自分をツッコんだんですよ、声に出して言うのやめてください」
    「はっはは……ッ!」
    「観音坂さん、どうしました?」
     独歩がビクリと身体を震わせた。その拍子に手元から花束が落ちそうになり、入間はとっさにそれを掴んだ。作業台へ花束を置くと、独歩の傍らへ立った。
    「大丈夫ですか?」
    「……あー。ちょっと、棘が……」
    「見せてください」
     己の指先を握る独歩の手を取った。だが思いのほか強い力で腕を引かれ、独歩は胸の前で★
    「観音坂さん、見せてください。手当しましょう?」
    「大丈夫です、いつものことなので!」
    「おひとりでしたら自分でやれば良いですけど、他に人が居るんですからやってもらった方が早いでしょ。ほら」
    「……――」
     しばらく視線を逸らしていた独歩が、ゆっくりと入間を見る。そして怖ず怖ずと入間の方へ手を伸ばした。
    「あの……でも、ほんと、大丈夫なんで……」
     さきほど負ったであろう傷ももちろんあるのだが、差し出された独歩の指は絆創膏だらけで、肌はちょっとだけかさついてもいた。思ったより酷使されていた手を掴んだまま、入間は思わず喉を鳴らしてしまった。
    「大量注文のあった薔薇の棘の処理をして……それで、その……。あんまり触らないでください、入間さん。恥ずかしいです……」
    「……ッ 失礼しました」
     手早く血の滲む傷に消毒液を掛けて、絆創膏を貼る。処置が終わると独歩は直ぐに腕を引き、胸の前で指を組んだ。
    「あは……。傷だらけでドン引きでしょ……?」
    「いえ! そんなことは……。水も、硬い茎も枝も扱いますものね。出過ぎた真似をしました、すみません」
    「…………いいえ」
     独歩は困ったように八の字に眉を下げた。
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