ちおふれ 促されるままに中に入ると、壁には沢山の布が所狭しと置かれていた。巻かれたり積まれたりしているけど、そのどれもが肌触りの良さそうなものに見える。目立つ場所に置かれた一際大きな布…たしか稲妻の着物?と呼ばれる服だったか…は、一際美しく強い存在感を放っている。置いてある殆どの布地は彼女の出身地を思わせる小花や波をあしらった落ち着いた色合いの物ばかりで、一瞬ここがフォンテーヌであることを忘れてしまいそうだ。
物珍しい物ばかりの室内に目を奪われていると、こほんと目の前から咳払いをする声が聞こえて、はっとして居住まいを正す。
「あ、えっと、フレミネです。き、今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしく」
特に表情を変えずにそう返してきた彼女ー…千織さんはそのままてきぱきとした動きで採寸の準備を始めて、特に話題も思いつかなくて手持ち無沙汰になってしまったぼくはなんとなく居心地の悪さを覚えた。
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