璃月旅行するりりみね(仮)最近任務続きだったぼくたちへ、お父様からのご配慮で休暇がいただけたので3人で璃月観光をすることになった。
璃月……隣国ではあるけれど、フォンテーヌの水を越え、海を越えた先にある国。
フォンテーヌもそれなりに長い歴史のある国だけれども、千年にも及ぶ長い期間を岩神とともに生きてきていたこの国には様々な独自の文化が根付いている。
観光がてらマジックについても学べるところがありそうで、リネとリネットにも…そしてこれからアシスタントに参加するつもりのぼくにとっても良い旅行先と言えるだろう。
そんなわけでルミドゥースハーバーを越え、翹英荘を越え、中心地である璃月港に足を踏み入れる。
港町だけあってわいわいと活気があり、周囲を歩く人々はなんだか忙しそうだ。
人、建物、衣服…工芸品に道端を歩く猫にさえ興味をそそられてしまう。
珍しい光景ばかりで各々がきょろきょろと目移りしていると、ふと先頭を歩いていたリネットが、あれ、と言って指を指した。
見ればそこは璃月のレストランのようで、店主が威勢よく声を出してどんどん客を捌いているのが遠くからでもわかった。
きっと庶民に人気な大衆店なのだろう、活気に満ち溢れているのが感じられる。
近づいてみると、魚や肉の焼ける香ばしい香りが鼻腔をくすぐってきて、たしかな空腹を思い出した。
「ぐぅーー………いい匂いがする…」
「ははっリネット、お腹ぺこぺこみたいだね?……かくいう僕もこの美味しそうな香りを前にしたら今すぐにでも注文したいくらいだけど。フレミネもそうだろう?」
「うん…ぼくも空いてきた、かな」
「……決まりだね!」
顔を見合せて頷いたところでウェイトレスの女性だろうか、水色の長い髪をした不思議な雰囲気のひとが話しかけてきた。
「お客さん、ご注文はお決まりか?」
「注文…あいにく璃月に来るのは初めてでメニューがわからないんです。おすすめの料理はありますか?」
「魚料理だと嬉しい…」
「そうだね…せっかく港町だし」
女性は、幻想的な水色の瞳をぱちぱちとさせて一瞬静かになる。
ややあって、表情を変えないままに口を開いた。
「……それなら、黒瀬スズキの唐辛子煮込みはどうか?注文する人が多い」
「なるほど、じゃあそれを1つと……あとは適当におすすめのものをいくつか、取り皿もお願いします 」
「承知した。……そうだ、先に席を確保してもらってから注文をとるのであった。今回はこちらで確認するので少し待っていてもらえるか?」
「はい、お願いします」
スタスタと店の裏手に歩いていく女性。
……なんだかウェイトレスをするような雰囲気のひとではない気がするけど、普通に注文をとってたし、気にしすぎかな。
リネも似たようなことを考えていたらしく「なんだか不思議な雰囲気の人だね」なんて小さく耳打ちしてきた。
すぐに確認が取れたらしく、女性が戻ってきて「こちらへ」と案内をしてくれる。
オープンテラスなその席は、机も椅子も石で出来ていて、またフォンテーヌとの違いを実感する。
わいわいと賑やかな雰囲気のなか、3人でこれから出るであろう料理について話していると、しばらくして先程の女性が料理の盛られたお皿を木製のトレイに載せてやってきた。
「お待ちどうさま。黒瀬スズキの唐辛子煮込みに、こちらは水晶蝦だ。他の料理はしばしお待ちを」
「ありがとうございます」
「……ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
3人で口々にお礼を言うと、小さく会釈をしてまた戻って行った。
料理と一緒に人数分の取り皿に箸と白い陶器製のスプーン、それに水が置かれたのを見て、改めて料理を眺めてみる。
……黒瀬スズキの唐辛子煮込み…は見るからに真っ赤で辛そうだけど、すごく食欲をくすぐる香りがする。
水晶蝦は、エビが包まれた料理なのかな?どんな味がするんだろう。
3人で声を揃えていただきます、と言ってから取り皿を手に取り、さてどうしようかと考える。
黒瀬スズキは少しスープを味見してから食べようかな、なんて思ってふと横を見ると、リネットが自身の取り皿によそった大きな固まりを口に運ぶところだった。
「あっ…リネット、」
「あーむっ…………、!!!!!!」
リネの止める声も届かず、お腹をすかせたリネットは大きく1口黒瀬スズキを食べて、すぐさま目を白黒とさせた。
耳と尻尾をピンと立てて涙目になっているリネットに、慌ててリネが彼女の分の水を差し出す。
「………………っ!!!……からい…………」
「あぁ…1歩遅かったか……リネット、大丈夫?」
「…………むり……」
一気に水を飲み干したリネットは、小さく舌を出して手で仰いでいて、可哀想なくらい汗をかいて顔を真っ赤にしている。
見るからに耳をへたらせている様子を見て、まだ口をつけていないぼくの水も手渡す。
今度はちまちまと舌を冷やすように水に浸して、う〜…と唸り声をあげていた。
「リネットの口には合わなかったみたいだね。フレミネ…しょうがないからこれは2人で食べようか」
「…うん。でも、ぼくは水を新しくもらってからにしようかな」
「はは、それもそうだね」
リネの言葉に頷いて、まずは水晶蝦の方に目を向ける。
手元の白い陶器のスプーンですくって、自分の取り皿に乗せてからよく観察してみる。
白いぷるぷるした薄手の皮に包まれたその料理は中身の赤い具材が透けて見えて、頑張れば一口で食べられそうだ。
ただ、さっきのリネットみたいに実はすごく辛いなんてことがあったら大変なので、スプーンを使って慎重に半分に割ってみる。
すると嗅ぎなれた海鮮の香りがふわりと広がったので、少なくとも辛すぎることはなさそうだ。
そのまま口に含んでみると、エビのプリプリとした食感が口の中で弾けて美味しい。
…これならリネットでも食べられそうだ。
「…リネット、こっちはエビが甘くて美味しいよ。食べてみて」
「ん……」
未だ舌を冷やしているリネットが訝しげにしながらも静かに頷いて、器用に箸でつまんでわずかに口に含む。
途端にぱあっと明るい表情になって頬を上気させてもぐもぐと口を動かし始めたので、よかった、と思った。
リネの方は黒瀬スズキの方に挑戦してるみたいで、わずかに汗をかきながらも美味しそうに食べている。
やっぱり、辛味は凄そうだけど味自体は美味しいんだろうな。
と、そんなところで先程の不思議な女性が新たな料理を運んできた。
「お待ちどおさま。四方平和と揚げ魚の甘酢あんかけ、それにミントの和え物だ。おすすめの品は以上になる。他に注文はあるか?」
「あ、お水を追加でもらえますか?無くなってしまって」
「む…外国のお客人には黒瀬スズキの唐辛子煮込みは辛いのだと伝えなくてはいけないのだった。すまない、すぐに持ってこよう」
「ありがとうございます」
「…そうだ、口内の辛味が収まらないようなら四方平和やミントの和え物を食べると紛れる。…水はしばし待っていてくれ」
そう言うと女性は素早くトレイに水さしと新しいコップを載せて持ってきてくれて、これならしばらくは水に困ることは無さそうだ。
メモ
璃月旅をしてたらしいけど望舒旅館でやっと箸に慣れたのはじゃあその間どうしていたのか
あーんしてたのか(重要)(いやフォークとか使ってたんだろうけど)