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    スパ○72パロ/エウルベ、全年齢
    他ユーザー様のアイディアが始まりのパイロットのエウ、整備士ルベのお話です。
    この世界で生まれ育った2人の出会い以降のお話を繋ぐ内容となります。

    ※時系列(過去から順に)
     「「合うわけ」」
    ▶︎共に巡る世界は
     蒼い流星
     また明日

    ##パロ時空

    共に巡る世界はあの日を境に、帰投したエウリノームを出迎える様々な言葉の中に「おかえり」の一言が増えた。
    それは、たった一度の例外を除いて変わることはなかったという。


    バールベリトの部隊合流が済んだ頃、
    当初はフライナイツ所属のエリート野郎が何の用だ?と警戒する者も少なくなかった。
    数ある部隊の中でも戦果は群を抜いているものの、
    実態が不明瞭でブラックボックスのような集団と認識されているため警戒されるのも無理はない。

    しかし、開口一番の「バールベリトだ。よろしくな!」という軽やかな挨拶、
    「え、すっげぇ……!何それどーなってんの?俺も知りてぇ。教えろよ!」
    と誰にでも声をかけ素直に学んでいく姿、人の輪に自然に溶け込む人柄に古参メンバーの警戒も次第に緩み、そこまで時間を要することなく部隊に馴染んで行った。


    一方のエウリノームは以前ベルゼブフに言われた通り、
    特別扱いをすることもなく周りの整備士達と同じように接している。

    バールベリトの問いに答えつつ、ベテラン達と共に機体のコンディションを共有。
    帰投後は感触や不具合をフィードバックの上、再調整を依頼する。
    出会った時の態度から予測して何かと反発してくるかと思いきや
    案外バールベリトも不満は無いようで、両者の間には淡々としたやりとりのみが積み重なって行く。

    昼時の食堂では、
    「バべちゃんは細すぎるのよ!もっと食べないと。ほら、隊長みたいに!」
    と勝手に大盛りサービスされた皿を抱えながら、バールベリトは毎日のように仲間たちからの質問攻めに合っている。

    戦艦フライナイツの蛇口は捻ったらジュースが出てくるという噂。
    盟主直属の隠し部隊が暗躍しておりその頂点には猫将軍なる豪傑が君臨しているらしいという噂。更に、あの盟主は実は影武者であるという噂。
    世界初の超高圧洗浄ジャグジー、通称イレーザーに浸かるとヤワな人間は文字通り抹消されて二度と朝日を拝めない……といった胡乱なネタの真偽を問い詰められたり。

    結局、唯一信憑性があったのは
    ベルゼブフは盟友サタンとかつて地を揺るがす大喧嘩をした事があり、
    瓦礫しか残っていない北の遺跡はその血で血を洗うような戦争の傷痕らしい……
    という突飛な伝説のような噂だけだった。

    日々憶測が飛び交う無法地帯かと思えば、
    至極真面目な戦況と各部隊の動向に関する情報交換が始まることもあった。
    戦況は膠着状態にあるようで、現状では無理に攻勢に出ることはせず戦線維持が重要だろう、というのが皆の共通認識となった。

    そんな賑やかな様子を尻目に、エウリノームはいつものように部隊長達の輪の中で粛々と大盛りの食事を済ませては自室へ戻って行く。
    その背中をこっそりと追いかけるようなバールベリトの視線に、彼は気づいていないようだった。

    ◆◆
    『装甲損傷率72%を超過!
    エウリノーム隊長、撤退命令が出ています。応答願います!』
    コックピットに鳴り響くアラートと耳障りな音割れが喧しい通信を無視し、エウリノームは追撃を継続する。

    当初想定されていたフォトンスポットにおける迎撃作戦は、多数の敵増援によって部隊も疲弊。
    体勢の立て直しを図るべく撤退を余儀なくされている
    ……筈なのだが、エウリノームは迎撃のみに留まらず敵部隊の殲滅に向けて単騎で追撃を仕掛けていた。

    この世界における有限なエネルギー資源であるフォトンの確保は両軍における最優先事項となる。ここで撤退すればこれまでの努力は水の泡だ。
    自由は効かなくともまだ機体は動く。
    であれば自分だけでも追撃を仕掛けて全て殲滅してしまえば良い。

    独断で動く最前線のエウリノームに対して通信のみで何かを強制できる訳でもなく、今更圧倒的に不利な戦場への出撃に許可が下りる訳もなく。
    皆が固唾を呑んで見守り続けてどれほどの刻が経っただろうか。

    『て、敵生体反応、全て消失を確認。ご無事で何よりです……隊長』

    信じられない、という畏怖を含んだような声色を隠しきれていないオペレーターからの報告を聞く。

    『バイタルは正常範囲内……ですが、その損傷で無理に動くのは危険です。
    収容部隊を派遣しますので、そのまま安静にしてお待ちください。
    周囲の警戒はこちらにお任せを』

    エウリノームは背もたれに首を預けると深く長い息を吐く。
    相当な無茶をしたという自覚はあるが、また生き延びてしまったようだ。

    目を閉じ、先程までの喧騒から解き放たれて吹き抜ける冷たい風の音を聞く。
    隊長を引き受けたことで自分の中で何かが変わるのではないか、
    という期待を一切していなかったと言えば嘘になる。

    部隊を率いる者として寧ろ自らが先陣を切ることが増え、
    自分より前に出て死ぬ者がいるかいないかの違いは大きいはずなのだが、
    それはエウリノームの瞳に映る景色を塗り替えるほどの変化ではなかったらしい。

    この日々があと何十年続くのか、それともある日突然ぽっくりと逝くのか。
    どちらが良いとも嫌だとも感じることはない心は相変わらず空っぽなのだろう。

    輸送隊と合流し、
    自力で動くことは難しいレベルでボロボロになってしまったエウリドゥームと共に格納庫に運ばれるまでの沈黙も、命令違反に対するお咎めも、圧倒的に不利な戦況をひっくり返す常人離れした手腕に対する称賛も、特に何の感慨も呼び起こさない。

    誘導に従ってゆっくりと着陸し、ようやく開放されたコックピットから地上に降り立つ。

    「流石に今回はオーバーホールが必要かもしれん。手間をかけるが、よろしく頼む」

    特に表情を変えることなく淡々と話し始めるエウリノームに対し、ズカズカと大股で歩み寄る人影があった。

    「解析用の戦闘記録は回収済みだ。あとはオマエ達に」

    任せる、と続けながら立ち去ろうとしたエウリノームは、突然口内に広がった鉄の味に僅かに目を見開いた。
    ふと視線を下げると、これまでに見たことのないような激情を湛えた紫の瞳とかち合う。

    「いきなり何してんですか、先輩!ちょっ……落ち着いて!」
    「エウリノームこの……ッこの、大馬鹿野郎!!」

    仲間達に羽交い締めにされて引き離されたバールベリトが物凄い剣幕で怒鳴り散らしている。

    あぁ、俺はコイツに頬を殴られたのだと遅れて気付いた時には、
    バールベリトは拘束を振り切ってエウリノームの胸ぐらを掴みながら再び詰め寄ってきた。

    「なんで撤退命令を無視しやがった!?
    何考えてんだよ!死んじまうところだったんだぞ!」
    「まだ戦えると判断したからだ。オマエ達の整備は完璧だ。信頼している」
    「てめ……ッざけんなよ、適当なこと抜かしやがって!
    いーーや違うね、信頼なんかじゃねぇ。オマエは自分の命なんざどーでもいいって思ってんだろ。
    見てりゃ分かんだよ、そんくらい」
    「……」

    否定はしない。
    改めて考えてみると、確かに、言われてみればその通りなのではないか?
    自分でも捉えきれていない感覚を見透かされるのは妙な心持ちで、
    その点は純粋に驚きだった。

    「おい!聞いてんのか、あぁ?!なんとか言えよこのバカ!」
    その後も散々バカを連呼し続け、
    流石に息が上がったのかバールベリトは黙ったまま睨んでくる。
    エウリノームは特に言葉を発することなく見下ろしており、感情を読み取ることは難しい。その瞳の色は暗く、まるで新月の夜のようだった。

    「約束しろ」
    先に口を開いたのはバールベリトだった。

    「何をだ」
    「俺は、必ずオマエをここで待ってる。
    オマエは、必ずここに戻って来い。そう約束しろ」
    「理解できんな。なぜ俺がそんな口約束をする必要が」
    「……仮に今オマエが勝手にくたばったら、
    俺はどのツラ下げてベルゼブフん所に帰りゃいいんだ?
    あんたの古いダチは勝手に戦場で死んじまいました。ただいま!……ってか?」
    「む……」

    しばしエウリノームは顎に手を当てながら考え込む。
    それは自分を頼って彼を預けると言ってくれたベルゼブフに対して流石に失礼かもしれない。
    ある日突然ぽっくりと逝くような可能性も改めて考えた今、
    その懸念を完全に否定することは難しいだろう。

    「いいだろう。少なくともオマエがここに留まる間はそう約束してやる」
    「フン、案外物分かりが良いじゃねーか」

    「あの、隊長?バールベリト先輩?そろそろ機体の様子を……」
    なんとか割って入る隙を窺っていたであろう仲間達が居心地悪そうに声をかけてきた。

    「あー……そうだな。
    ほら、オマエはあっち!機体はこっち!
    さっさとバイタルチェック済ませてこいよな。こっちはなるはやで元通りにしといてやるよ」
    「あぁ。オマエ達に任せる」

    先ほど言いかけた言葉を伝え終わると、
    エウリノームは何事もなかったかのように医務室へと向かっていく。
    その背を見送った後、各々準備を進めつつ何人かが声をかけてきた。

    「お前さんがあんなに怒んのも珍しいな。まぁ今回は相当危ない戦い方だったが」
    「おうおう、隊長ぶん殴る整備士なんて前代未聞だぜ!ハハッ」
    「なんつーか、エウリノーム隊長って自己回復機能でも持ってんすかね?
    なんであんなにピンピンしてんだろ」

    バールベリトは特に明確な回答を返すわけでもなく適当にはぐらかす。

    初めてエウリノームの戦闘記録を見た時から感じていた
    『まるで死に場所を探してるみたいだ』という漠然とした不安をこれまでで一番鮮明に突きつけられたことで、正直未だに動揺がおさまっていない。
    アイツがどうなろうが知ったことではない……
    などと言い聞かせながらモニタリングしていたものの、帰投したあの顔を見た瞬間に何故か感情が沸騰して抑えきれず、ガラにもないことをしてしまった。
    未だ激情の尾を引く激しい鼓動が治まらない心臓を、
    バールベリトは誰にも気づかれぬようこっそりと落ち着けるのだった。

    ◆◆◆
    夜も更けた頃。
    命令違反の独断と作戦リカバリーの功績の狭間で結局は中途半端になった処分を聞いたエウリノームの足は、自室ではなくいつの間にか格納庫へと向かっていた。

    とっくに消灯時間は過ぎているのだが、
    最低限のヘッドライトだけで作業を続けているその背中を見つける。

    ゆっくりと背後に歩み寄ってくる足音に気づきながら、
    振り返ることなくバールベリトは言葉を放り投げてくる。

    「まだ痛むかよ、顔」
    「……そうだな。歯が何本か折れたせいでまともに食事も出来ん」

    弾かれたようにバールベリトが振り向き、
    灯りに照らされたエウリノームはその眩しさに顔を顰める。

    「えっマジで?ご、ごめん
    そんな強く殴るつもりはなくて、なんか思わず手が出ちまって」
    「冗談だ。放っておけばすぐに治る程度の切り傷だな」
    「な!?テメッ、この、人が心配してんのにおちょくりやがったな!
    いや……それでもいきなり殴っちまったのは俺が悪い。うん……ごめんな」

    妙にしおらしく目を逸らすバールベリトの様子に
    どこか調子が狂うような感覚を抱いたエウリノームは自ら話題を探す。
    唯一の共通の話題として長身の盟主の存在に思い至り、
    自分がベルゼブフと出会い、ゲリラではなく正規軍として戦いに身を投じることになった経緯をぽつぽつと話し始めた。

    作業の手を止めて聞き入っていたバールベリトも、
    バトンを受け取るような形で自身の生い立ちについてさらりと語ってくれた。

    思えば、業務外でまともに話をしたのはこの時が初めてだったかもしれない。

    それからも皆が寝静まった後、
    特に約束をするでもなく顔を合わせた2人は毎日少しずつ、お互いの話をした。

    過ぎ去った出来事でしかない生い立ちの話は早々に切り上げられ、
    宇宙で見たモノ、地上で見たモノ、美味いメシ、面白いモノのような日々の取り留めもない話を共有するようになっていた。

    各地に任務で遠征した際に見た景色の話にもバールベリトは興味を示した。
    聞くに、物心ついた頃には既にベルゼブフに拾われてフライナイツ内で育った彼は地上に降りて景色をゆっくりと見る機会はあまりなかったと言う。
    確かに宇宙航行が中心の生活ではそれは無理もなく、
    一度も地上に降り立つことなくその生涯を終える者も昨今では少なくないらしい。
    とはいえ、天候や景観の変化も自由自在だという居住空間が整備されていることから当事者達がそれを不幸だと思うことは殆ど無いらしいが。

    「では、今から見に行くか」
    「は?どういうこと?」
    「言葉通りの意味だ。今から外出するか?と言っている」
    「今からって、何時だと思ってんだよ?!
    この時間に俺の外出申請なんかできる訳ないだろ」

    こんな状況でも基本的な決まり事はしっかりと守ろうとする。
    相変わらず根が真面目な奴だ、とエウリノームは感心してしまう。

    「その必要はない。
    付近の哨戒に出ると見張りに伝えておけば済む話だ」
    「えぇ?オマエ、そんなこと言うヤツだっけ」

    その真意は定かではなく、エウリノームは不敵な笑みで応えるのみだ。

    決して広くはないエウリドゥームのコックピットの隙間に潜り込みながら、
    バールベリトは再三の問いを投げかける。

    「こんなことして本当に大丈夫かよ」
    「何度も言わせるな。どうにでもなる」
    「……はは、そーかよ」

    ようやく腹を括ったのか、バールベリトの表情にもいつもの楽しげな笑みが戻ってくる。
    むしろ普段よりも瞳の色が明るく輝いて見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。


    蒼い光の軌跡を空に描きながら静寂の帷を駆け抜け、静かな小島に降り立つ。
    2人が踏み締める地面は一面の砂浜で、
    キュ、と鳴くような音色と穏やかに打ち寄せる波の音だけが響いている。
    ここが戦火の絶えない荒れ果てた世界だなんて悪い夢なんだろ?
    と笑い飛ばしたくなるほどの穏やかな夜だった。

    白銀の月明かりに照らされた海原はあまりにも広く、深い。ずっと見つめているとちっぽけな存在は音もなく吸い込まれてしまいそうな色をしている。
    水平線から目線を上げるとそこには満点の星空が広がっており、眩しいほどの明るさの星たちが散りばめられた空は宝石のように輝いている。

    彼らの所属する拠点付近では警戒態勢が解かれることは殆ど無く、案外夜中でも明るいものだ。
    非戦闘員が地上で自由に外出できるような時代ではない今、そのような人工の灯りの影響を受けずに空を見上げる機会はそうそう得られるものではない。

    宇宙からの景色とは違い、地上から見る星々の瞬きが新鮮なようで
    バールベリトは目を輝かせながら飽きることなくずっと空を眺めている。
    瞬く星に手を伸ばし、このまま掴めるんじゃねーの?と無垢な子供のようにはしゃぐ姿をエウリノームは穏やかに微笑みながら見つめていた。


    初めて2人で空を駆けたあの日から、
    作戦行動の合間を縫っては薄明の空、突き抜けるような眩しい青空、雷鳴轟く大荒れの空、黄昏の空、宵の空…数え切れないほどの空を共に視た。
    共に巡る世界は、かつてひとりで観測したソレよりもずっと色鮮やかで
    ひとつひとつが輝くような記憶として胸に刻まれていく。

    過去に訪れた土地であっても、その後の戦闘に巻き込まれたことで新たな地形が露出するような変化が生じることも少なくない。
    それは虚しい喪失ではなく新しい発見であり、エウリドゥームにその景色を鮮明に映し取り、臨場感のあるデータとして保存するスキャン機能を自腹で搭載したい……とこっそり伝えた時のベテラン勢のぽかんとした表情はいつ思い返しても笑いが込み上げてくる。

    傍目にはこれまで通りの日常を送っているように思えた隊長の変化は、なんだか悪くない違和感として拠点内にもいつの間にか広がっていた。

    そんな変わらないものと変わったものが穏やかに馴染んだ日常が永遠に続くかと思えた頃、ベルゼブフから近いうちに2人で艦に顔を出してほしい、と声がかかった。

    ◆◆◆◆
    約束の日が近づくにつれていつもの会話は途切れやすくなり、
    居心地が悪そうにしていたバールベリトはある日完全に押し黙ってしまった。

    「なぁ」
    腰のポーチをゴソゴソと弄りながらバールベリトは自ら沈黙を破る。

    「いつか、渡そうと思ってたモンがあるんだ」
    目当てのものを取り出すと、ずいと手を伸ばして来る。

    「ほら、これ。オマエに似合うと思っててさ」
    差し出された手の中には、
    シルバーの装飾の中央に真紅の宝石が埋め込まれた耳飾りが収まっている。

    彼が常に身に着けているそれと同じ煌めきを放つ飾りを受け取ったエウリノームは、光に翳しながら目を細めて静かに眺め続けている。

    いつまで見てんだよ、と笑うバールベリトはエウリノームの背中をこつんと小突く。
    「着けてやるから、そっち向きな」

    その言葉に従いつつ、配置を試行錯誤して耳たぶに触れる手にくすぐったさを感じて思わず身じろぎすると動くなよ!と怒られる。
    ちゃり、と鳴る音が完了の合図となったのかようやく解放されると
    『今はイヤリングになってるから、ピアスとして使いたい時はこっちに付け替えるんだぜ』と細々した道具も一緒に押し付けられた。

    「うん、良いんじゃね?よく似合ってるぜ、エウリノーム」

    手近に置かれていた金属板を鏡代わりにして耳元を見ると
    なるほど、案外サマになっているではないか。

    感心しながらじっくりと眺めているエウリノームを横目に、バールベリトはぽつぽつと言葉を紡ぎ続ける。

    「……あのさ。オマエの瞳の色って宵の空みたいで綺麗だなーってずっと思っててさ。あの空がいちばん好きなんだぜ、俺。
    で、さ?その飾りの色とオマエの色が混ざるとなんか俺みたいな色になるなーとか思っ……いや、それはちょっと無理があっかな」

    終始はにかみながらゴニョゴニョと話し続けるバールベリトの何気ないその言葉が、エウリノームの脳内にガンガンと反響して鳴り止まない。

    「まぁ、なんだ。その、俺がいなくなっても時々ソレ見て思い出してくれよ、なんてな!へへ……」

    この感情をどう形容したら良いものか?
    優しく穏やかな風が吹き抜けるように、じんわりと心が温かくなるのを感じた。
    ずっと空っぽにしていたはずの心はきっと、いつの間にかバールベリトの言葉、表情、思い出……たくさんの形で満たされていたのだろう。
    その漠然とした感覚は今、確信に変わった。

    その感情、感覚の名前はよく分からないまま、エウリノームの身体は自然に動いていた。
    手を伸ばせば届く距離に居た彼の頬に触れると、優しく流れるような口付けを捧げる。

    「あ……?」
    照れ隠しなのか、耳飾りの細かな装飾について独り言のように
    つらつらと話し始めていたバールベリトは困惑し、間抜けな声が漏れてしまう。

    「オマ……」
    「……ずっと、オマエに返せるモノはないかと考えていた」

    姿勢を戻し、真っ直ぐに紫の瞳を見据えてエウリノームは語り始める。

    「俺はオマエからたくさんのモノを貰った。
    では俺からはオマエに一体何を返せば良いのだろう、と」
    「……ん?俺が直接なんか渡したのはこれが初めてじゃねーか?」

    エウリノームはゆっくりと首を振り、再び言葉を紡ぐ。

    「あの日の帰り際にベルゼブフから言われたことがある。
    俺達さえ良ければそのまま共に過ごしても構わない。何なら俺がフライナイツに来ることも歓迎する、とな」

    目を丸くしたままのバールベリトは黙ってエウリノームの次の言葉を待っている。

    「俺はこのままオマエと共にいきたい、と思っている。
    オマエはどうだ、バールベリト」
    「……」

    先程までの言動から察するに、間もなく自分が艦に帰ることを確定事項として考えていたであろうバールベリトは明らかに動揺している。

    少し間を置いてからモゾモゾと座りなおすと、
    不自然なほど頻繁な瞬きを繰り返しながら視線を落とし、口を開く。

    「ま……まぁ、オマエやっぱ色々危なっかしくてほっとけねーし?
    もうしばらく付き合ってやってもいい、けど?
    それに、俺がいないと何にもできないだろ」
    「いや、それに関しては余計なお世話だ」
    「あ、テメ……!今言ってんのは戦闘の話だからな!
    オマエは機体にすっげぇ無理させてる自覚を持ちやがれ、マジで!」

    それは善処しよう、と応じながらエウリノームは思わず頬を緩めてしまう。

    「おい、何笑ってんだよ。こっちも真面目な話だっつの」
    「オマエもこのままが良い、という理解で良いな?」
    「あ?……うん、まぁ……
    そうだな。いいぜ、好きなだけ付き合ってやるよ。
    もうたくさんだって弱音吐いても簡単には出てってやらねーからな!」
    「フフ、望むところだ」

    当面はこの部隊に残って研鑽を続けたいという本人の希望を改めて確認し、今夜は解散とする。
    初めて出会った日とは真逆の宣言をするバールベリトを見たら、ベルゼブフはどんな顔をするのだろうか?
    まるで互いの関係性が此処に至ることを予測していたかのような当時の口ぶりに謎は残るが、今はこの日常を失わずに済むことに感謝せねばなるまい……とエウリノームはそのように考えることにした。

    2人は耳元から同じ音色を響かせながら、軽やかな足取りで各々の自室へと向かうのだった。

    Fin.
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    MUNI

    DONEスパ○72パロ/エウルベ、全年齢
    他ユーザー様のアイディアが始まりのパイロットのエウ、整備士ルベのお話です。
    ブフ様も多く喋ります。
    引き続き、ふんわり設定でお楽しみください。
    ※時系列(過去から順に)
    ▶︎「「合うわけ」」
     蒼い流星
    「「合うわけ」」戦場では、共に戦い抜こうと誓ったはずの仲間達の命も呆気なく散っていく。

    平穏とは程遠いこんな世界で死は珍しいものでも何でもなく、
    最早隣人のような存在ですらある。
    どんな実力者であろうともほんの些細な油断、慢心、不運……
    自らの手でコントロールすることは叶わないような理不尽で命を落とすこともあるだろう。
    最前線に立つ者たちであればそれは至極当然であるし、
    軍事拠点に籍を置く以上はオペレーターや整備士のような非戦闘員であってもソレは他人事などではない。

    エースパイロットとして最前線で活躍を続けているエウリノームも、
    これまで数えきれないほどの別れを経験してきた。
    優秀な戦果を評価され昇進していく彼を妬んで一方的にライバル視してきた元上官、仲良くしてくれと頼んでもいないのに馴れ馴れしく声をかけてきた同期、多くの戦場を共に乗り越えて来た戦友、弟子にしてほしいとキラキラとした瞳でずっと後ろを着いてきた後輩、世話になっていた整備班の親父さん……
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