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    MUNI

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    エウルベ/全年齢
    ステージ121の道中で悪夢をくらった団長を見て書いてみたいなと思ったものの導入のみ
    (9/14追記しました)

    ##本編時空

    悪いユメ「あ?エウリノームが目を覚まさねぇ?」

    アジトに顔を出したバールベリトは耳を疑うような報告を受けた。

    「うん。2日前の依頼に同行してもらったんだけど、実はその時から……」

    不安そうな表情を浮かべたソロモン王から詳しい状況を聞く。

    依頼の内容はシンプルな幻獣の討伐。
    対応できる人数が限られていたため、単独でも柔軟に対応できるエウリノームとソロモンを含めた別働隊で各個撃破という作戦を執ったらしい。
    しばらく待っても戻ってこないエウリノームを探しに行くと
    事切れた幻獣の残骸に突き立てた剣に身体を預けてしゃがみ込み、いくら呼びかけようが肩を叩こうが応答のない彼を発見したのだと言う。

    「ゆっくりだけどちゃんと呼吸はしているし、大きな怪我もないんだ。
    アンドラス達に診てもらっても特に異常はないみたいで、今は眠っているだけとしか言えないって」

    とりあえず団長は生きている、
    ということが分かりバールベリトは強張っていた表情をすこし緩める。

    「なんだよ、それ……なぁ、アイツ今どこにいんの?」
    「自分の部屋で休んでもらってるよ。医療班が交代で様子を見に行ってる」

    療養といえば医務室、かと思っていたが、
    原因不明とは言え容体の安定しているヤツなら部屋で寝かせておいた方が良いこともあるんだろう。
    ちなみに、あのでかい体躯を移動させる時はブネに頼んで運んでもらったらしい。

    見慣れた部屋の扉の前に立ち、早まる鼓動を深呼吸で落ち着かせる。
    なんとかの仲にも礼儀あり、ということでひとまずノックしてみる。

    「エウリノーム?」

    当然ながら返事はない。
    ちゃりちゃりと片手で弄んでいた合鍵を差し込み、
    慣れた動作でかちりと回すと廊下に予想外の施錠音が響き、驚きで動きが止まる。

    日中は鍵をかけていないと聞いたのを早速失念していた。
    軽く跳ねた鼓動を落ち着け、もう一度鍵を回してから静かに扉を開く。

    「入るからな」

    見慣れた光景の室内にはベッド、小さな収納、簡素な机とその上の小さな水差しとカップ、二脚の椅子しか置かれていない。
    元々部屋を飾りつけることに特段興味を示すような奴ではなかったので、それは大した違和感ではない。

    細く開けられた窓からは穏やかな風が吹き込み、
    高く昇った太陽の陽射しを浴びてきらきらと輝くカーテンを揺らしている。

    あまりにも平和な空気で満たされたその部屋の主は、ベッドに埋もれて静かな寝息を立てている。
    聞いていた通り、ただ穏やかに眠っているようにしか見えない。
    『なんだ、戻ったのかバールベリト』
    ……なんて言いながらむくりと起き上がることも期待しながら、枕元に歩み寄る。

    「エウリノーム?いつまで寝てんだよ」

    「おーーい?大寝坊にもほどがあるぜー?ソロモン王達も心配してんぞ」

    残念ながら、バールベリトの期待通りには行かないようだった。
    耳元ででかい声を出して呼びかけてみるものの、応答はない。

    「いやマジでさぁ……何してんの?起きろって、ほら!」

    休息に支障をきたすコートは綺麗に折り畳んで椅子の背もたれに預けられているため、筋肉質な上半身が毛布から覗いている。
    その肩をすこし乱暴に揺すり、苛立ちを含んだ声色で呼びかけてみる。

    応答はない。やはり、これは本格的におかしい。
    このメギドがここまで無防備なツラを晒すなんて普通ならありえない。

    「……」

    手近にあった椅子を引き寄せ、顔が見える位置に腰かける。
    枕元に肘をつき、物言わぬ穏やかな寝顔を見つめながら珍しく解かれて片側に流された長い髪に指を通す。
    艶やかなその漆黒は変わらぬ手触りで、違うのはその主が『あまり触るんじゃない』と手を振り払ってこないことだけだ。

    「どうしちまったんだよ、団長」

    先ほどソロモン王から聞いた話では、
    眠ったままということは夢というものが深く関わっている可能性も高い。
    軍団内にも何名か詳しい者のアテがあるらしく、次の手としてはその者達の力を借りることを考えているそうだ。
    とにかく詳しい原因が不明な状態でアテもなく夢に手を出すと両者に危険が及ぶ懸念もあるため、まずは医療班を中心に外的な要因を慎重に検証。
    おそらく最も付き合いの長いバールベリトにも話を聞いてから進めようと考えていたらしい。

    まだ手はある、と聞いたから良いものの
    これまでに見たことがないほど反応がないエウリノームの姿を目前に突きつけられると、どうしても不安に駆られてしまう。
    過去にこのような昏睡状態に陥った様子を見たことはなく、そうなり得る可能性にも残念ながら心当たりはない。

    もしコイツがこのまま目覚めなかったらどうしよう?

    何百年と言う歳月を共に過ごし、振り回されながら生きてきた。
    つい最近もしばらく離れて行動する期間もあったが、なんだかんだどこかで自由に振る舞っているのだろう……という予感もしていたので
    その間に色々な感情は、本当に色々な感情は蓄積されたものの離別の不安に駆られるほどではなかった。

    しかし目の前に居て、触れられるのにも関わらずその存在に手応えがなく希薄に感じられてしまうこの状況が掻き立てるのは悪い想像ばかりだ。

    散々押し付けて放置して勝手に動いてフライナイツも戦場も心も何もかもを引っ掻き回したくせに、『充実した楽しい暮らしをするのだ』などと宣言して異世界まで共に来ることを当然だと考えていた思考回路には呆れたものだ。

    「自分から誘っといて、オマエの方がどっか行っちまうのかよ?」

    別にオマエなんか居なくたって俺は生きていける。
    寧ろその方がせいせいするのかもしれない。
    でも、コイツがいない世界は、なんというか。

    「今さら、ひとりにすんじゃねぇよ」

    己の一部が欠けてしまったかのような寂しさを感じるのと同時に、
    ひとりは面白くないという気持ちが一番大きいのかもしれない。
    無意識に髪を梳き続けていた手を止め、眼帯、そして頬へと手を滑らせていく。
    指先で触れた唇は渇いてしまっているようで、少し引っかかりを感じた。

    ふと思い立ち、机の水差しから注いだ水を口に含む。
    自身の唇をひと舐めして湿らせてから渇いた唇にそっと重ねてみると、そこはあたたかく、ゆっくりと深い吐息を感じた。
    僅かに開かれた隙間から舌を滑り込ませて押し広げ、含んだ水を少しずつ流し込んでやるとエウリノームの喉が鳴る。
    湿った舌を何度か滑らせてやると、かさかさした感覚は薄れてきたようだ。

    バールベリト自身も喉を鳴らし口内に残った水気を飲み込むと、乗り出していた身を再び椅子に預ける。

    そもそも相手は純正メギドであり、更に数日間の飲まず食わず程度で死ぬタマでもなく水分補給を心配してやる必要もない(何よりもその辺はもっとヴィータ体に詳しい奴らに任せるのが良い)と理解はしているのだが、かさかさに渇いた唇はちょっとだけ苦しそうで、なんとかしてやりたいと思ったのかもしれない。

    互いの同じ部位を重ね合い、相手の領域に戦争を仕掛けるような行為はこれまでにも経験があるものの、こんな穏やかなやり方もあるんだなぁとその余韻に思いを馳せるがそんな気付きを共有したい相手は静かに眠り続けている。


    もどかしくはあるが今の自分にできることをしよう、とバールベリトは席を立つ。
    ソロモン王達に所感を伝え、その次の手とやらを試してもらうのが良いだろう。

    じゃあ始めよう、とすぐに進む話ではないのなら
    少なくとも何か動きがあるまで離れず傍にいてやりたいと思っている。
    長丁場になるのなら自分も今のうちに何か腹に入れておいた方が良いかもしれない。

    もう一度髪や毛布を整えてやり、「また後でな」と声をかけて部屋を後にする。

    残されたエウリノームの眉が僅かに動いたように見えたのは揺れるカーテンから溢れた陽射しのせいか否か、それを観測出来たものはここには居ない。


    「……リト、おい!バールベリト!」
    「んぇ?」

    ふわふわしていた意識を苛立ったような声で揺り戻されると、眉を顰めて不機嫌そうな顔と眼帯が視界に入る。

    「なんだ、ガギゾンかよ」
    「なんだ、とはなんだ貴様……何を呆けている?手元を見てみろ」
    「あ、やべ」

    誰でも飲めるようにと用意されていたスープを貰い席についたものの、
    上の空で口に運ぼうとした液体は上着の袖を濡らしてしまっている。

    「例の幻獣の残骸は俺の方で特定を進めている。
    ヤツがもっと形を残して討伐していればここまで苦労はしなかったんだがな」
    「だよなぁ……手間かけちまって悪いが、よろしくな」

    仕方あるまいとでも言いたげに、フン!と鼻を鳴らしてガギゾンは去っていく。
    おそらく検体の元に戻って行ったのだろう。

    明日の朝から本格的な夢へのアプローチを始めるとのことで、
    今晩はバールベリトが常にエウリノームの傍につくことに同意をもらっていた。
    医療班の中でもバティンは大変不服そうな表情を見せていたものの、何かあればすぐに報告することを約束し、数百年もの年月を経て傍らで培われた観察眼は専門家のそれにも匹敵し得る……ということでなんとか納得してもらうことができた(はずだ)。

    残った食事と器の後片付けを手早く済ませ、汚してしまった上着を洗い場に持ち込みじゃぶじゃぶとすすいでから洗剤を垂らしてつけ置き、その待ち時間に自身の入浴を済ませてしまう。
    この後に外出するつもりもないので、髪は結えず乾かしておくことにした。

    揉み洗いとすすぎを終え、ぐいぐいと絞った上着を持って自室に戻る。
    日中に干したいところではあるが仕方ない。
    風通しの良い窓際に吊るして袖と襟の重なりをよく伸ばしておけば明日の日中にはなんとか乾いているだろう。

    特に持っていくようなものも無いので、そのままエウリノームの部屋へと向かう。
    髪は解き、上着は纏わず半袖のインナーという軽装でアジト内を歩くのは少し不思議な気分だった。

    日中と同じ扉に歩み寄り、ノックをして声をかける。

    「おう、バールベリトだ。入るからなー?」

    依然眠り続ける主しか居ないはずの室内、
    眩しい月明かりが差し込む窓際には見慣れないシルエットの人影。

    考えるより先に身体が動いていた。
    右の眼孔から一直線に飛び出した触手で、人影の喉元に鋭利な刃を突きつける。

    「動いたら、殺す」

    一瞬で取り払われた眼帯が床にぱさりと落ちる音を掻き消すように発せられた唸るような声は低く、背筋を凍らせるような冷酷さで満ちていた。
    ガラが悪いとも評される見目と不釣り合いな平時の言動に慣れた者が聞いたらその耳を疑うほど感情の一切が削ぎ落とされたような声。
    それは彼のかつての姿を追憶させるモノであった。

    「バールベリトか」
    「……は?あァ?!なんだよ、目ェ覚めたんじゃねーか」

    バールベリトはその声の主の正体に気づくと一気に脱力してしまった。
    眩しい月光が原因の逆光で分かりにくいが、よくよく見れば髪を解き上着を纏っていないだけのエウリノームではないか。

    「んだよ、起きてたんなら返事しろよなー?
    こりゃ心配して損しちまったかぁ?」

    とんでもない肩透かしをくらったような、
    でもそれはたまらなく嬉しくて安堵する結果であったような、無事なら無事で散々心配をかけた割にあっさり目覚めた彼に対して少し怒りを感じるような。

    色々と言いたいことはあるが早速医務室へ向かわねば。
    バールベリトは自身の触手を音もなく眼孔に収めると、床に落ちた眼帯を腰を曲げて拾い上げる。

    「俺、誰かしら呼んでくるから。大人しく待ってろ」

    今の時間ならバティンが医務室に居るはずだ。
    数多の屈強な軍団員達ですらその苦痛に悲鳴を上げるという診察と治療を間近で拝んでやろうじゃないか、
    とほくそ笑みながら扉に手をかけたところで背後から伸びてきた腕で包み込まれ、力任せに上半身を引き戻される。
    その左手は右肩に、右手は左腰にぐるりと回されて身動きが取れなくなった。

    「え、何。誰かしら呼んでくるって言ったろ!邪魔すんなよ」

    不満を隠さず苦言を呈してみたものの、バールベリトの後頭部に顔を埋めたまま何を考えているのかエウリノームは返事をしない。

    右肩をもぞもぞと動かして無理やり隙間を作ると、左肩でエウリノームの分厚い胸板を押し退けながら反転し向かい合う体勢をとる。

    至近距離でかち合ったその瞳の色は未だどこかおかしい気がした。
    この色は、まさかとは思うが、恐れ?
    いや、このメギドにそんな感情があるとは思えないので却下。

    「オマエは、俺の知るバールベリトか?」
    「は?何?意味わかんねー。寝ぼけてんの?」
    「真面目な問いだ。オマエは、俺の知るバールベリトか?」

    言葉通り、その目は茶化すような様子もなく真剣そのものでバールベリトを真っ直ぐに見つめてくる。

    「……たりめーだろ、他のどこにどんな俺がいるってんだよ」
    「8魔星で副団長のバールベリト、だな」
    「8魔星で!”元”副団長の!バールベリト、だ!」
    「あぁ……そうだったな」

    吐息を漏らしたエウリノームは言葉を切り、今度は首元に顔を埋めてくる。

    「おい、それやめろ。くすぐってーんだよ」

    背中を覆う黒髪の房を掴んで引き剥がそうと試みるも、効果はない。

    「やっぱ変だよ、オマエ……寝てる間に何かあったの?」

    バールベリトは反応が鈍すぎるエウリノームに呆れながら埋められた後頭部と広い背中をその場の思いつきで撫でてやる。
    以前、訪れた村のはずれで幻獣の標的にされたヴィータの子供を助け出した時、恐怖に震え泣きじゃくるその子に似たようなことをしてやると動揺がおさまり普段通りの様子に戻っていったことを思い出したからだ。

    「もしかしてアレ?怖い夢でもみた、とか」
    「……そう、とも言えるかもしれん」

    意外すぎる返答に思わずバールベリトの手が止まる。マジ?コイツが?怖いって?

    「さっきの質問もそのせいかよ」
    「あぁ……間違いなくオマエはここにいる。頭では理解できたところだ」

    エウリノームは埋めていた顔をおもむろに上げ、至近距離で目線を絡ませてくる。
    次の行動が読めた。

    「もう一度、オマエの存在を確かめたい」

    バールベリトの顎に片手を添え、エウリノームが更に顔を寄せてくる。
    背後には扉、身体の自由は殆どなく逃げ場もない。

    もう一方の手で扉を弄るエウリノームは目的の場所に触れる。
    静寂が支配するアジトの廊下に、かちりと鍵のかかる音が響き渡った。
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    MUNI

    DONEスパ○72パロ/エウルベ、全年齢
    他ユーザー様のアイディアが始まりのパイロットのエウ、整備士ルベのお話です。
    ブフ様も多く喋ります。
    引き続き、ふんわり設定でお楽しみください。
    ※時系列(過去から順に)
    ▶︎「「合うわけ」」
     蒼い流星
    「「合うわけ」」戦場では、共に戦い抜こうと誓ったはずの仲間達の命も呆気なく散っていく。

    平穏とは程遠いこんな世界で死は珍しいものでも何でもなく、
    最早隣人のような存在ですらある。
    どんな実力者であろうともほんの些細な油断、慢心、不運……
    自らの手でコントロールすることは叶わないような理不尽で命を落とすこともあるだろう。
    最前線に立つ者たちであればそれは至極当然であるし、
    軍事拠点に籍を置く以上はオペレーターや整備士のような非戦闘員であってもソレは他人事などではない。

    エースパイロットとして最前線で活躍を続けているエウリノームも、
    これまで数えきれないほどの別れを経験してきた。
    優秀な戦果を評価され昇進していく彼を妬んで一方的にライバル視してきた元上官、仲良くしてくれと頼んでもいないのに馴れ馴れしく声をかけてきた同期、多くの戦場を共に乗り越えて来た戦友、弟子にしてほしいとキラキラとした瞳でずっと後ろを着いてきた後輩、世話になっていた整備班の親父さん……
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