演練十回目のSS判定記念とのことで皆で小さなお祝いをしていた。小さく、とはいうものの刀数が刀数なだけに大宴会状態である。
時間には片付けだよ、と主である彼女は始まる前に念を押したど、三十分も経てば会場は混沌とした状態になっていた。まぁ、仕方ないよねと辺りを見回していたが、ふと目に入った刀がいた。
「桑名くん、何飲んでたの?」
彼女が声をかけたのは桑名江。会の始まりでは江のみんなと固まっていたのを見たけれど、今は単独で静かに飲んでいたようだった。彼女はほんの少しだけ桑名から離れた場所に座る。
「オレンジワインだよぉ。でも明日も早いからもうおしまい」
桑名が手にしていた紙コップをテーブルに上に置く。かん、と乾いた音が中身が無いことを彼女に教えてくれた。
「あ、畑かな?」
「うん。それにみんなでわいわいするのも楽しいしね」
ふにゃ、と口元に笑みを溢した桑名を見て、彼女もつられて笑う。
「いつもありがとう。そうだね、賑やかになったもんね」
そう言って、手にしていた紙コップに入っているお酒をくぴくぴと飲む。薄紅に染まった頬、目尻の下がった瞳は潤み、普段の彼女よりもゆるりとした雰囲気。ごく、鳴った喉を押さえる桑名。
「ねぇ、主は何を飲んでいるの?」
桑名はぐっと身を乗り出して座布団を譲った彼女の手元を覗き込んだ。そして。
「ん?日本酒…だ…よ…」
彼女が言い終わるよりも前に桑名の手が彼女の手と共に紙コップに添えられた。あ、という小さな声が二人の間に消える。
「…うん、美味しいね。いい米と水を使っている」
彼女の杯を一口だけ流し込んだ桑名の唇から、僅かに日本酒が垂れる。それをぺろ、と舐め上げる仕草が彼女の瞳を釘付けにした。桑名の手はまだ彼女の手を包んだまま。
「飲みやすいけれど飲み過ぎ注意だよ、主」
一瞬の出来事に彼女の体まで釘を打たれてしまったかのように動かなかった。酒の力で熱くなっている桑名の手がもう一つ彼女の手に重なり、ぎゅっと強く包み込まれた。
「じゃ、僕は寝るから。おやすみ」
桑名はにこ、と口元を緩めてするりと手を離す。隠れているはずの瞳が揺蕩うた気がした。
「…刀も熱くなるんだ、手」
初めて触れた桑名の熱が、彼女の内側の熱を掘り起こした。紙コップを持つ手が震える。
どうしたんだろう、私。
ドッドッドッと鳴り響く胸の鼓動も彼女は桑名に鳴らされたのだ。