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    kana_ta1001

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    kana_ta1001

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    オンイベでの展示となります。
    異世界風の設定ですが、勢いで書いたのでがばがば設定ですのでうっすらな目と広い心で読んでくださるとありがたいです。

    お転婆子爵令嬢は冷徹辺境伯に愛される(稲さに) 幼い頃は、よく庭の低木樹の間に隠れて侍女たちから逃げていた。当時はかくれんぼだと思っていたのだが、大人たちからすると肝が冷えるものだっただろう。それくらい彼女はお転婆だった。お転婆お嬢様だった彼女がある日いつものように“かくれんぼ”をしていた時に見つけたのは、低木樹の影に隠れて泣いている男の子だった。
    『どうしたの?』
     彼女は警戒もせず話しかける。漆黒の髪に美しい薄鼠色の瞳を持つ少年は彼女を見上げた。大きな涙がぽろぽろとこぼれる姿は愛らしさを際立たせる。まるで小動物のような雰囲気の少年に、彼女はきゅんとしてしまった。左の頬骨にある黒子がどこか艶やかさを纏っているようだ。手元に木刀らしきものがある為に、どこかの部隊の見習いなのだろうと思う彼女。
    『はい、これどうぞ』
     持っていたハンカチを差し出す彼女。けれど、少年はムッとして受け取らない。
    『いらぬ』
    『すてていいから、つかってね』
     彼女は半ば強引にハンカチを少年に押し付けた。
    『いらぬと…』
    『お嬢様ー!どこにいらっしゃいますかー!』
     どこからか聞こえる侍女の声。
    『あら、いけない。いま、かくれんぼしていたのよ。みつかっちゃう。じゃあ、がんばってね、けんしさん』
     ばいばい、と少年に手を振って走り出した彼女はあっという間に消えてしまった。呆気に取られていた少年はハンカチに視線を落とす。涙は既に止まっていた。
    『…へんなおんなだ』
     へんなおんなから押し付けられたハンカチでそっと涙を拭う。ふ、と香るのは何かの花の香りだろうか。少年の口元が自然と緩む。
    『お嬢様!どこに…イナバ様!どうかされましたか__』
     恐らく彼女を探していたであろう侍女が少年を見たとたん、真っ青になって慌てて膝をつく。
    『お怪我などありませんでしょうか、気付かず大変申し訳ありません』
    『いや…もんだいない』
     イナバ、と呼ばれた少年は先程までうるうると泣いていたことなど微塵も見せず、スゥッと表情が変わる。手にしていたハンカチをしまいこみ、立ち上がった。
    『おせっかいながいただけだ』
     この出会いが彼女の運命を大きく変えることになる。
     

     近辺の国の中では最大の国であるゴウ国の西側に位置するキンタイ国に冷徹辺境伯爵の名を持つイナバがいることは有名である。そこにお転婆子爵令嬢の彼女が嫁ぐことになったのは一ヶ月程前。悪魔の血が流れているだとか死者の血を啜っているだとか、とにかく恐ろしい噂が流れており、嫁ぐ令嬢はいなかった。
     その中で白羽の矢が立ったのが彼女である。
    「お父様とお母様、そしてこの国の民を助ける為ならばわたくし、この身を喜んで捧げます」
     彼女はにこりと麗しい笑みを浮かべた。
     お転婆お嬢様だった彼女は十五年の時を経て美しい女性へと成長していた。城を抜け出し城下町を歩き回ることは随分と減ったのだが。彼女の父親は半分あきれ顔で懇願するのだった。
    「頼むからお前は抜け出したりするなよ」
     天候不順による不作が続いた数年、私財をなげうって領土の復興への手助けをした彼女の家は資金において潤沢では無かった。けれど、領民たちにも愛される子爵家であったのだ。
     キンタイ国の領土は西に位置する。馬車で二週間ほどかけて辿り着いたそこは彼女にとってまばゆい景色ばかりだった。
    「まぁ、海があんなに煌めいているわ。あちらにかけられている橋は異国のようで素敵ね」
    「お嬢様、もうすぐ到着しますので落ち着いてください」
     初めて見る景色にはしゃぐ彼女を戒める侍女。けれども彼女は笑った。
    「冷徹と有名な方だけれど、街はとても賑やかだわ。国が豊かな証拠よ。会えるのが楽しみね」
     しかし、胸踊る彼女の前に現れたのは冷徹という通り名にふさわしい男だった。

     漆黒の髪をしっかりと撫で付け、瞳と同じ薄鼠色の襟足がちらりと見える首筋はしっかりとしていて、鍛えた体つきだと容易に分かる。鋭い視線を携えた表情はなるほど、冷徹と呼ばれる所以であると彼女は思った。しかし、それ以上に整った顔立ちの美丈夫であるイナバに見惚れて一瞬ほぅ…としてしまった彼女。ここでしっかり挨拶さなければ、と彼女は美しい所作でカーテンシー行う。
    「お初にお目にかかります。ビゴクニ国第一…」
    「貴様、初めてと言ったのか」
     低く、強い声音。びくりとしてドレスの裾を掴んでいた手を思わず離してしまった彼女。まずいことでも言ってしまったかと嫌な動悸に襲われる。
    「あ…申し訳…」
    「覚えていないのか」
     室内の空気が凍った。イナバの隣に控えていたイシダと名乗っていた薄緑の髪の美しい男性が眉を潜めてイナバを制する。
    「いきなりそのような言葉ではいけませんね、殿下。言ったはずです。その言い方も含めて怯えさせているのだと」
    「なんだと」
    「だから石頭だというのです。きちんと順を追って…」
     後で聞けば、執事長であるイシダとイナバは旧知の仲だという。室内が氷点下になってしまったかという程の気温の中、イナバは彼女をじろりと見る。
    「あ…あの…」
     覚えていないのか、ということは彼女はイナバと会ったことがあるということだ。だが、ここまでの美丈夫との関わりなど全く記憶に無い。背筋が凍るような視線に、彼女は顔を背けたくなる。けれど、自分とて国を背負ってこの場に来たのだと、背筋を伸ばして真っ直ぐにイナバを見た。
    「ご無礼をお許しください。申し訳ありません、伯爵様とお会いした記憶がございません。どこかでお会いしましたでしょうか」
     しん、とした時間。まるで時が止まったようだ。彼女の心臓は、生きてきた中で一番大暴れしていた。時間にして十数秒だったが、彼女にとって数十分かと思うほどの長い沈黙だった。その沈黙を破ったのはイナバ。
    「…もう良い。興が冷めた」
    「伯爵様、あの」
    「貴様はもはやしなくなっただろうからな」
     イナバの言葉に彼女はハッとする。そうして、もう一度イナバの目元を見た。頬骨に位置するところにあるのはほくろだ。どこかで見た記憶が確かにある。自分がかくれんぼをしていたのは幼い頃のこと。かくれんぼをしていたお転婆令嬢などと言われていたのも自負している。では幼少期の頃だ。彼女は「あっ」と声を漏らした。
    『じゃあね、けんしさん』
     ぽろぽろと泣いていた男の子だ。闇のような漆黒の髪に目元のほくろ。愛らしい男の子が、イナバだったのかと、彼女は口元を両手で押さえ、大きく息を吸う。
    「あの時の…!」
     イナバの目元がやんわりと細められる。
    「思い出したか」
    「えぇ…えぇ、お恥ずかしながら。あの時は我が国で訓練をされていたのですね。気付かず大変申し訳ありません」
    「良い。赦す」
    「あの子犬のように愛らしかった伯爵様が、立派になられて」
    「子犬…?」
    「えぇ、愛らしい瞳に涙をためて、まるで子犬のようでしたので」
    「は…」
    「”奥様“、その話、私にも詳しくお聞かせいただきたい」
    「イシダ、貴様」
    「殿下は幼少期に出会った少女を片時も忘れたことはありませんでした。私も暗唱出来る程聞いておりましたので、お会い出来て嬉しいのです」
    「貴様はもう下がれ」
    「まぁ、私も伯爵様のお話を聞きたいです」
    「…」
     にこにこと笑う彼女を見て、大きなため息をついたイナバは手で顔を覆う。それに気付いた彼女はふふ、と笑って再びカーテンシーを行う。
    「こちらに着くまでに街中を拝見しました。活気に溢れていて、素敵な国だと思います。この国に、伯爵様に嫁ぐこと、とても嬉しく思います。至らない点も多々あると思いますがどうぞよろしくお願い致します」
     かくれんぼなど、もう致しません。と付け加えた彼女の手を取ったのはイナバだ。
    「どこに隠れていても必ず我が見つける。好きにしろ」
     壊れ物を扱うような口付けが手の甲に降ってきた。彼女の心臓が、きゅん、と甘くうずき出す。冷徹などと言われていたはずのイナバの行動は、彼女の心に深く柔らかく、優しく刺さった。
     
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