恋愛関係における倫理的ジレンマの現状と課題、及び解決へのアプローチについてその大学教授は大いに悩んでいた。
難解な研究対象にではない。
年季の入ったこの研究室にでも、潤沢とは言えない研究費用にでも、不真面目なゼミ生にでもない。
…いや、最後のは当たらずとも遠からずだろうか。
研究室と同じく年季の入った机に肘をつき、眉間に拳を当てて思考を巡らせていると、
コン、コンと、扉をノックする音が小さな研究室に響いた。
「…どうぞ」
「失礼します」
部屋の主から許可を得ると、ギィ、と金属音を軋ませながら扉が開かれ長身黒髪の男がズイと入ってきた。
彼こそが――先ほど自分が呼びつけた悩みの種。
「お疲れ様。そこに座ってくれるかな。――アオキくん」
アオキと呼ばれた男は促されるまま、予め用意されていたパイプ椅子に腰掛けた。
ぎしと金属の軋む音を最後に、静寂が研究室を包む。
(…さて、)
大学教授――カブは、
この男をどうすべきか、大いに悩んでいた。
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続くのか…?