キコルから譲られたチケットを手に、カフカは思案する。キコルからは「レノでも誘ったらどう?」と言われたものの、市川には既に予定があることを告げられており候補からは除外。他に誘えそうな人……と思考を巡らせ、副隊長の顔が浮かぶ。あの人なら、とダメ元で足を彼のいるだろうトレーニングルームへと向けた。
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保科が誘いを受けたのには二つほど理由がある。一つはカフカを採用した当初の目的のため。もう一つは、ここで断ったら亜白隊長を無遠慮に誘うだろうという懸念から、であった。そして見事二つ目の懸念は大当たりで。
「断られたら亜白隊長を誘おうかとも思ってたので、良かったっす!」
清々しいまでの笑顔で応えるカフカ。その様子に若干苛立ち背中を強めに叩いてやる。
「そら、誘いを受けたんは正解やったな!」
といつものようにやり取りをする中ではたとカフカが黙る。
「……もしよかったら、副隊長、このチケット譲ります。まぁ、貰い物なんすけど……」
カフカの言葉の意図を汲めず、思わず顔を見つめる保科は一呼吸置き、なぜと問う。
「なんや、僕に譲るて」
「いや、俺と行くより亜白隊長との方が副隊長も良いかと、思っ、て……」
俺じゃ他に誘う宛もないし、と続く言葉は尻すぼみになり呑み込まれた。保科の様子が、どこか恐ろしく感じたからだ。
「僕なんかが忙しい亜白隊長のこと外に連れ出せるわけないやろ、アホか」
一瞬の後、おどけた雰囲気でカフカの首を絞めにかかる。先の恐ろしく感じた気配はなんだったのか。
(なんや今の。びっくりしたわ……僕が亜白隊長に恋慕しとるとでも思ったんか?そんな穢れた情なんかないわ)
保科は自身の腕をペチペチと叩くカフカを解放し、壁際に設置されているベンチに腰掛ける。
「観覧車やったか?僕も断る理由ないし、チケット譲られたとこでお前と同じやからな」
アラサー野郎二人で観覧車。保科は想像しかけて頭を振る。カフカはチケットを無駄にせずに済むことに安堵しているようで、表情はさながら遠足を待つ子供のようだった。