アイスふふふん〜いつにもましてご機嫌な簓に、左馬刻は眉をしかめた。
「何ニヤニヤしてやがる」
「え〜へへへ」
左馬刻から言わせれば、薄気味悪いと思わせる笑みで簓はじゃん!とスマホの画面をかざす。
「アイスの無料チケットが当たってん!しかもダブル!」スマホの画面を確認して、左馬刻は笑う。ははっ!
「くだらねぇ」
いつもなら食ってかかるところな簓だけれど、今日は違う。なんたってアイスが無料なのだから、ダブルな。
「毎日スクラッチしてようやく今日当たってん。プレミアムなんやで、きっと」
知らんけど〜と簓は鼻歌を奏でる。そして何にしよかなぁ、と本気で悩み始めるのだ。
左馬刻はおもしれぇと表情がコロコロと変わる簓を眺めて、思う。むかぁし、よく似た猿のおもちゃがあったなぁ。
「チョコミントは外されへんやろ。あとはチョコバナナにする…?それともあっさり美味しいヨーグルト…」
真剣な顔でブツブツ、本気で悩んでる簓に左馬刻は言った。
「ピーチソルベ」
「へ?」
現実に帰ってきた簓が、口を開ける。それを見て、左馬刻は思わず吹き出した。なんやねん、と簓は口を尖らす。
「ダブルなんだろ?」
なら、と左馬刻はにやり。
「それなら、お前の一番好きなフレーバーと俺の好きなピーチソルベで良いじゃねぇか。一緒に食べられるだろ?」
「…せやな」
左馬刻の意見に簓も、頷く。
「ならさっさと引き換えに行くぞ」
おぅ。一旦スマホをしまって、簓は首をひねりながら。
「なんか…悪いオトコに騙された気分やわ」
なんて囁く。聞き捨てならねぇな、簓の肩に腕を乗せて左馬刻は顔を覗きこんだ。
「俺様と一緒に食べるのは嫌だって、言いてぇのか?」
にやり笑う左馬刻の顔を見て、やれやれ。簓は両手を軽く上げる。
「不満なんて、ございません!」
それでよし、きっとこれが幸せ。
一つのアイスカップをシェア出来るほど、特別な存在に出会えた奇跡に今は心を沈めよう。甘い甘い小さなラッキーに、左馬刻は満たされる。
あの頃流行ったおもちゃを、手に入れることはなかった。けれど今、それ以上に欲しいと思った簓がそばにいる。
それが、すべて。
「今日飲みに行くか」
何気なく呟いた左馬刻に、簓は答える。
「ええけど、今日はナシやで?」
にやりと笑った簓のかすかな仕返しに、今度は左馬刻がまいったと両手を上げた。