君に花丸一つ 突然だが、今日も牙頭猛晴という男は素晴らしいと思う。いつだってストイックで、自分に厳しく他人に優しくを地で行く。今だってそうだ。本来は完全な休日なのに、店で緊急事態が起きたからと言って出る支度をしている。だから、こうして玄関まで見送りに来たのだが。靴を履いた後に立ち上がってスーツの裾を直した牙頭がこちらを向く。
「悪いな、急に仕事が入っちまったもんだからよ」
「大丈夫だよ。夜ご飯は帰ってから食べる?」
「いや、遅くなるだろうしついでにあっちで食ってくる」
「そっか、分かった。じゃあ、いってらっしゃい」
本来の予定ができなくなってしまった上に夜にも会えないのが年甲斐もなく寂しくて、牙頭の額にキスを落とした。牙頭が目を見開いてわずかに顔が赤く染まる。その姿が無性に可愛くて、顔が緩む。1つせき払いをして恰好を整えた牙頭が、漆原の額を軽く小突いた。
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