「アクタル」
ラーマが工場を訪ねると、アクタルは休憩中であるらしく、工場の片隅に座り込んでいた。埃を払い、その隣にラーマは座った。
おいこら、じっとしてろ、とアクタルが小声で抱えた布に話しかける。布の中で何かがもぞもぞと動いている。
「どうしたんだ?」
いつもと違う、どこか困惑した様子のアクタルに声をかける。
「兄貴」
アクタルの円な目が、助けを求めるようにラーマに向けられた。布の中から、ふわふわとした小さな生き物が顔を覗かせる。茶虎の子猫だ。
「拾ってしまったんだ」
カラスに突かれていた子猫を、アクタルは見捨てられなかったらしい。前脚には布が巻かれており、彼が傷の手当てをしたことが窺えた。
「母猫を探さないと」
子猫がアクタルのクルタに爪を立て、腹から胸へとよじのぼる。怪我はしているが元気なようだ。子猫が首元に辿り着く前に、彼は子猫を胸元から引き剥がした。微笑ましい光景に、ラーマはくすりと笑った。
「もうお前が父さんでいいんじゃないか?」
いつもは工具を握る、ごついが優しい男の手の上で、その子猫はクルルと喉を鳴らしていた。