ハロパロ /未完むかしむかしあるところにもう千年と生きた最強の吸血鬼が森の奥の屋敷にひとりぼっちで住んでいました。その吸血鬼は左目には呪われた火傷があります。決して近づいてはいけません。
「なあにが最強吸血鬼様だ」
「悪い、カツキ」
「ほんっっっとに、散らかすだけ散らかしやがって」
もう100年以上前のことである。狼男のカツキは自我が芽生えてから強くなることに執着していた。いつか最強の吸血鬼様とやらに打ち勝つと鼻高々に話していた。しかし、その吸血鬼様には誰も会ったことがなければ、会いに行かない方がいいとまで言われていた。
カツキの母親であるミツキもさすがに吸血鬼のところへは行かすまいとなんとかカツキの気を逸らそうと頑張っていたが、その努力は儚く散っていくのであった。
「おい、吸血鬼、そこにいるんだろ、おれと勝負をしろ」
森の奥の屋敷には吸血鬼様がいる。結界が張ってあるから安易に近づかない方がいい。殺される。そんなことを口酸っぱく言われていたが、全てを無視して屋敷の前に堂々と立っていた。
門の前でめいいっぱい叫んでみるがうんともすんとも言わない。
吸血鬼に無視されているのだろうか、しかしカツキは絶対めげない子供であった。
「勝負するまで毎日来るからな」
聞こえてんだろ、絶対来るからな
そう言い残して屋敷を後にする。
そもそもその屋敷に吸血鬼がいるとは限らないのに。カツキはまだそこまで考えていなかった幼い子供であった。
・
屋敷に来ること2週間。
今日こそは、と屋敷の前に立つ。
めいいっぱい息を吸って声を出そうとした時、銃声の音と共に足に鋭い痛みが走る。
打たれた、誰に、吸血鬼か、いや、
「あれ、子供?でもこの銃弾に当たったということは人ならざるもの、、狼男か」
「にんげんか」
そう、人間だよ。とニコリと笑いながら出てきた男に後ずさる。
足が痛くて走れないどころか動けない。
「君も吸血鬼様に会いに来たのかな」
吸血鬼のついでに狼男も連れて帰れる、しかも子供。最高な収穫だ。男は声高々に話しながら近付いてくる。
なんとか噛み付いて逃げたい。相手は人間。肉体戦に持ち込めば絶対勝てる。そう思い、動こうとした瞬間、再び銃声の音が鳴り響く。もう片方の足も打たれた。
「動いたら危ないよ、銃弾たくさんあるから」
「………こんなところで、死んでたまるか」
死にたくない。痛い。まだ吸血鬼と戦っていない。
子供だから治癒能力がまだ低いが時間さえ稼げば歩ける。しかしそんな猶予なんてなかった。
人間は銃をこちらに向けて、近付いてくる。
「威勢があっていいね」
手を伸ばしてくる腕に噛み付こうとした瞬間、1匹のコウモリが目の前を通った。
なんだ、と思った瞬間眩い光が解き放ち、目を強く瞑った。
「ッ、なんだ、これ、」
目を開けると、足元に黒い革靴が見えバっと顔を上げる。
「大丈夫か」
覗き込んできた男は、赤と白の髪の毛、黒いマント、喋った時に見えた牙を持っていた。吸血鬼に違いない。こちらを覗き込んでくる瞳は片方は黒、片方は緑のような青のような色をしていた。
動けずにいると、今治してあげるな、と吸血鬼は銃弾を受けた足に手をかざしあっという間に傷口を塞いでいった。黙ってその様子を見ていると、何を思ったのか吸血鬼は己を抱き上げた。
「まだ痛いとこあるか?」
「ッ、おろせ!!」
突然浮遊した身体に驚き、手足を動かし暴れる。
なんとでもない顔をした吸血鬼は表情を変えずに喋る。
「うん、元気だな。良かった。もうここには近づいたらダメだからな」
人間がよく来るんだ。あとあの屋敷はフェイクなんだ。本拠地は別にあるんだ。
話しながら地面にゆっくり下ろされる。
地に足がついた瞬間、後ろに飛び退き、下から睨みつけ威嚇する。
吸血鬼は傲慢で勝手、敵だ。なんでもない顔で傷を治して、こちらを暗示する顔にムカついた。優しいことをして騙そうとしているのではないか。
「お前が噂されてる最強吸血鬼様だろ!おれを助けて舐めてんのか!勝負しろ!」
「お前が大きくなったらな」
「いやだ!」
また逃げるだろ、それか本当は弱いんじゃねぇのか!
そう言葉を放つと、その場の空気が変わった。
吸血鬼が怒ったのか、やっと勝負する気になってくれたのか、そう思うと口角が上がった。
「悪ぃな、今溶かしてやるからな」
「う、る、せぇ!」
勝負はと言うとあっという間に凍らされて動けなくなって終わった。本当に一瞬であった。
寒さで鼻を啜っていると炎で氷を溶かされて、再び吸血鬼に抱き抱えられた。
「おろせ!」
「送り届けてやる、危ないから」
まだ近くに人間がいるかもしれない。家の近くまでな。寒いだろ、暖かくするから待ってな。
どうやら吸血鬼は氷と炎の魔力を持っているらしい。吸血鬼の左側は炎を使えるらしく、左側に抱き抱えられているおれは無様なことに暖められながら帰路についたのであった。
自身の群れの近くに降ろされた時に再度「もう来るなよ」と言われた。誰が言うことを聞くか。
家に帰ったときには日が落ちつつあり、母親であるミツキにどこに行っていたのか怒れた。
吸血鬼のところに行きました、負けました、というのはプライドが許さなかったから適当に森で遊んでいたと伝える。
「あんた、森には行くんじゃないよ。最近人間が彷徨いているかもしれないから」
聞いてるの!?と怒鳴る母親に適当に返事をし、明日こそは吸血鬼に勝つんだと意気込んだ。
「来るなって言ったよな」
「誰が聞くか、勝つまでくんだよ」
「威勢がいいな…」
屋敷の場所は分からないが昨日いた場所で再び叫んだ。するとスっと出てきた吸血鬼は目を見開き驚いた様子を見せた。
昨日と同様にあっという間に氷に閉じ込められて身動きが取れなくなった。今日は昨日より2回避けられた。
「大丈夫か、暖めるな」
「いらねえ!」
いらない、自分で壊せると暴れていても炎を手から出して近づけてくる。ジワジワ氷は溶けていき、身動きが取れるようになってから自力で壊して氷から出た。
溶けてついた水をぶるぶる、振り落としていたら、頭上から声がした。
「長いこと誰かと話してなかったからな、なんだか良いな」
表情は1ミリも動いていないが、声色はなんだか楽しそうであった。最強すぎて暇なんだこいつは、と思った。
「おれがお前に勝って1番になるんだ」
「あぁ、わかった。でもここは本当に危ないから屋敷の場所を教えてやるな」
勝負して帰る、だけのつもりが、毎日通うことになるとは今に思っていなかった。
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