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    カピバラパン

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    カピバラパン

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    何故か再編集とかできなかったので、試しに再度アップ。先ほどのとは中身は一緒です(読めてましたらすみません)

    峠前の茶屋所(坤💊売りさんと🌸の会話)町と町を繋ぐ道すがらに、1軒の茶店兼宿屋があった。
    そこは旅人や飛脚などが往来する中間地点にあり、店を構えた当初は細々と商いをしていたが、利用客から「茶菓子もだが飯もあるといいな」「峠を越える手前、泊まれたりもしたら有難い」など様々な声もあり、今では茶屋兼宿屋といった少々珍しい場所となった。
    そんな茶屋兼宿屋には、1人の看板娘がいた。
    幼い頃に両親を天災で無くし、途方に暮れていた際に店主夫婦に拾われ、血の繋がりはないが娘同然に可愛がられ愛し育てられた。それ故かとても明るく、はきはきと。何より仕事対し真面目に、そして楽しく働く娘へと成長した。そんな楽しげに働く姿に、利用客からは「元気で器量ある娘さんだ」「見ていると元気をもらえるよ」と褒めるものが多く、また彼女の結い上げた髪には、薄桃色の椿を模した摘み細工の簪が髪を彩り、利用客の中では「🌸ちゃん」という愛称で親しまれていた。

    梅雨雲が空を覆うとある日、『一雨降りそうだな…』と空の様子を眺めていた🌸は、店先に並べていた床几台(しょうぎだい)が濡れぬ様に軒下に移動していた。すると…
    コロ…カラ……カラ……コロン。
    下駄が鳴る音が耳を掠めたかと思えば
    「少し、雨宿りをお願いできますか?」と🌸の後ろから不意に声がした。耳に下駄の音が届いたと同時に聞こえた声に思わず驚き、弾かれた様に振り向くと、其処には奇抜な色の着物を身に纏い、背中には大きな背負子を背負う男が佇んでいた。自分よりも遥かに背の高い男と奇抜な格好もだが、何よりその男の顔を彩る隈取り…しかしそれがその男の魅力を引き立ててもいる様な姿に、まるで浮世絵から顕現したかの様な出立ちだ…と🌸は暫し口から言葉を発するのを忘れ、ただただジッと見つめてしまっていた。
    「もし…?」と男が再び声をかけたところで🌸はハッとなり「す、すみません!ちょっと驚いてしまったもので…」と謝ると同時に、しとしと…ぱらぱら…と雨が降りだし、次第に雨足が強くなり始めてきた。この様子ならば一刻もすれば止むだろうが、この中を歩くのは厳しいものだろうと、雨宿りを所望したその男を🌸は店内の座敷席に案内した。店内は雨宿りを所望したその男と同じく、利用している客で賑わっていた。席に通された男は背負っていた背負子を降ろすとその隣に座した。
    「何か、ご注文はお取りになりますか?茶菓子以外にもお食事も御座います」
    そう🌸が告げると男は🌸に鮭の握り飯を2つと吸い物を頼んだ。
    注文を受けた🌸はそのまま作りにかかった。
    釜で炊き上げたほかほかの白米の中に、一口大に切り分けた焼き鮭の身を入れ、手早く、そして身が固くならぬ様握る。そして握りながらチラ…と座敷席に座る男を垣間見る。あんなにも大きな荷物を背負っているとなると、行商人か旅芸人の類なのだろうかと見れば見るほど不思議な人だな…と思う矢先、ふと男と目が合い、そして微かに…ふ、と男が笑った。
    『笑った…』と🌸の思考がまた止まったが、「🌸ちゃん、だいぶでかくなってるよ?」と笑いを堪える店主の声に、握り飯が普段よりも大きくなってしまっていたことに我に返った。やってしまった…と🌸は項垂れるも、「さっきのお客さんにだろう?若い人だし、これくらい大丈夫よ」と、はははと笑う店主の妻に背中を押され、少しばかり大きくなってしまった握り飯と吸い物を配膳した。「お待たせしました。すみません、ちょっとおにぎりが大きくなってしまって…」「構いませんぜ、丁度腹が空いてましたからね。いただきますよ」
    運ばれた握り飯と吸い物を前に男は一度手を合わせ、そのまま握り飯を頬張り始めた。
    改めて近くでその男を見ると、本当に変わった人だな…と🌸は配膳に使った盆を胸に抱く様に持ちながらジッ…と見つめていた。
    「…あんまり見られちゃ、穴が開きますぜ」と1つ目の握り飯を持っていた指に残る米粒1つを口に運びながらクスリと揶揄う様に笑った男に、「あっ、すみません!その…あまり見ない格好の方だったので。旅芸人の方…なのですか?」と🌸はまた男を見つめてしまっていたと思いながらも、気になっていた事をつい口に漏らすと、男は「あっしは、ただの薬売り、ですよ」と一言答えると、吸い物を口に運んだ。薬売り…それにしてはやはり派手な姿だな…と思うと同時に、「売るにも、話しかけられるにも、これくらいの格好なら目に止まるでしょう?🌸さんの様に」とまるで自分の心を見透かしたかの様に答えてきた。そういうものなのかと思うがふと、何故私の愛称を?と疑問に思うが、「前の町で此処の茶屋に“看板娘の🌸”という娘がいると、小耳に挟みましてね」と返され、「あぁ、成る程…確かにうちのお店を利用する方はたくさんですし、噂を聞いて来る方もいらっしゃいますよ」と🌸は納得したが、「えぇ。ただ…こんなにも大きな握り飯が出るのは、初耳でしたね」と続いて出た薬売りの言葉に羞恥から、かぁ…っと顔を赤らめた。
    「ふ…くくっ」と口元を手で隠し、思わず笑いをこぼした薬売りに「申し訳ない、ちょいと揶揄ってしまいましたね。お詫びと言っちゃあですが…こいつを🌸さんに差し上げますよ」と謝られ、背負子の1つの引き出しから取り出された、美しい2枚貝に入った塗り薬を🌸の手に握らせてやった。「これは?」と🌸が問いかけると「手荒れの塗り薬ですよ。働き者の🌸さんですが、手が荒れちゃあ水仕事も苦労するでしょう?」揶揄ってしまった詫びですよ、と受け取るのを拒みそうになった🌸の言葉を遮り、薬売りが店の外に目をやり、「どうやら…雨も止んできた様ですね」と告げた。彼の言葉に🌸も店の外に視線をやると、丁度止み始めたのかあんなにも降っていた雨はいつの間にか晴れ、陽の光さえ見えてきていた。彼の前にあったあの大きな握り飯はいつの間にか2つ共なくなり、すっかり彼の腹に収まっていた様で、机に握り飯と吸い物のお代を置いた薬売りは再び背負子を背負い、下駄を履くと🌸の側を通り抜けて店を出て行った。
    「大変、美味しかったですよ。縁があれば、また…」
    そう最後に薬売りは言い残し、下駄を鳴らしながら雨の上がった外へと出て行った。
    🌸はお見送りの言葉すら忘れ、ただ自分のそばを横切った薬売りの香りと、手に握らされた2枚貝の塗り薬の感触をただただ、感じていた。
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