12月月寿新刊進捗 夜の談話室は、今年から合宿に参加している中学生の談笑で、例年ではあり得ないほどの賑やかさに包まれていた。そんな和やかな雰囲気から外れた片隅のソファで、月光はひとりラケットの手入れをする。
グリップテープの傷みやガットの弛みを確認しつつ磨く作業は、プレイの質の向上やラケットを長持ちさせるために必要不可欠なものであるが、そもそも月光はラケットの手入れをするという時間そのものを好んでいた。
その日の己の練習や試合を見つめ直し、己の心と向き合う、謂わば精神統一をする時間を設けるための大切な日課であった。
だが今の月光は、どれだけ手を動かして精神統一に没入しようとつとめようが、周囲の音から耳を閉ざそうが。頭の中に思い浮かぶ歳下の男の子ことでいっぱいになってしまう。
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