《メチス》を持って戦うことに嫌悪を示す人達が居たってお父さんが言っていた。
だけれどそれも昔の話で、今ではお父さんが《メチス》を持って戦場に立つだけで皆が安心するんだって。
組長や隊長や副隊長、千さんは武器を持たない。それどころか《ソウル》すら使う気配もない。臆すること無く敵に向かっていって軽々と殲滅するんだ。
騎羅組の組長さんが言ってた。
あの六人は誰と組んでも戦える。
かつての《ドラゴンソウル》だって。
「恋白」
「あ、壱華さん…」
その《ドラゴンソウル》に匹敵するやもしれない未来の星、千さんの息子の壱華さんだ。彼はボクより二歳年上で、ボク達が通う学園では後期の生徒会長を務めている。
とても、とても強くて…ボクの憧れの人だ。
「この間、《エネミー》が大量発生しただろう。その時の資料を確認したい」
「あ、はい! 少しお待ち下さい!」
宙に映し出されたタッチパネルを整理する。この間の《エネミー》大量発生事案は確か…、昨日磨緒さんの解析を手伝った時にこの辺に入れた気が…、
「あ、ありました。コレですね。
発生源は8番街の本部モニターの前辺りです」
「死傷者は」
「死者は64名、重傷者77名、軽傷者130名です。現在軽傷者は全員現場復帰、重傷者77名のうち、41名が現場復帰。10名が自宅療養。26名が今もカプセル内で療養中です」
「………、死亡者の中に身元不明のものは」
「…えーっと、身元不明の遺体はありませんね。あ、でも」
「どうした」
「…大量発生事案から行方不明になっている方が1名。カワヤギ サトル。杖道組に所属する医療担当の組員です」
ボクの言葉に壱華さんは考え込む。
杖道組って、騎羅組の傘下にある組だよね…。戦闘担当の組員は殆ど居なくて、医療の為の組だって言われてるぐらい…。
「…、そうか。分かった、恋白。助かった」
「ぁ、いえいえ! また何かありましたらお手伝いしますよ」
暫くして壱華さんは合点がいったみたい。
そろそろ見回りの時間だし、後で考える事にしたのかもしれないけどね。
さて、利亞君と斗眞ちゃんもそろそろ帰ってくるし、適当な所で切り上げないと。
ウィンドウを操作して画面を消したボクはため息を吐く。
「出来る事を増やしていこう」と言ったお父さんは何にも悲しい顔をしてなかったのに、ボクだけが色々考えてしまう。
ボクも見回りに行きたい、利亞君や斗眞ちゃんに守られるだけは嫌だ、この、大きくて優しい砦から抜け出して、思いっきり深呼吸をして、
―――、そうして皆の役に立ちたい。
戦闘用の《ソウル》は身体に合わずに何度も吐いた。医療用の《ソウル》は身体に馴染んだけれど。本当に馴染んだだけだった。皆の役に立つようには動いてくれなくて。無理に動かそうとして何度も何度も《ソウル》を壊して…。
何の才能も無いとボクが気付いた時には、彼らは…、自分のすべき事を見つけてしまっていた。
何とか見つけた自分の居場所も、ボクが居なくても成り立つような場所で。
「はぁ…」
見慣れた監視モニターやエネミー情報を眺める日々。誰かが作った資料を何度も読み返す日々。
やりたくも無い努力をして、役にも立たないことをして。
そうして過ごして行くんだと、大して生きてもない癖に。未来を見越して心の中で泣く事しか出来なかった。
―――――――――――――――、
そんな僕に、彼はどうして。
「壱華さん…?」
「頼む、恋白。
お前の目を俺にくれないか」