【桐智】ここでキスして「つかぬことをお伺いするんやけども」
「はあ」
「要くんは、キスしたことあるん?」
「その質問、俺が答えるメリットあります?」
「そうやなあ、特に思いつかんし、大した影響はないな。要くんってキスしたことがない坊やなんや、って俺に思われるくらいや」
「別に桐島さんにキスしたことないって思われるぐらい、大した影響はないですけど、俺は坊やではないですよ?」
「ほお、大人の男アピールか」
「わざわざ大声で言うようなことでもないですけど、普通に成人してますよ。大学生ですから」
「ほんなら、大人の要くんにお願いがあるんやけど」
「おねがい……?」
「要くんと違て、俺はお子ちゃまやから、キスしたことないねん。やり方を教えてくれへんか?」
「はあ?」
「大人やって胸はって言うとったくせに、頭下げて頼んどる男の頼みは聞けへんのか。冷たいなあ。残念やわ」
「俺が人の頼みをばっさり切り捨てたみたいな言い方はやめてもらえますか?事実無根ですし、名誉毀損です」
「ほな、ここにキスして」
桐島は人差し指で、自分の唇をちょんちょんと軽く叩いた。
ここやで、ここ。ちゃんと見えとる?
そんな気持ちを込めて。たぶん、いまの自分は、悪い顔をしている。
一瞬は怯んだ気配をみせた。しかし、桐島が視線を逸らさず見つめていると、要はおもむろに桐島の肩を掴んだ。そして静かに瞼を閉じる。綺麗な形のまつ毛が街頭に照らされて黒く光った。ふっと鼻から息を吐き、そろそろと要は桐島に近づいた。
チュ。
小鳥が花を啄ばむような、軽く、優しく、ごくささやかな口づけだった。
──え。かわいすぎんか、これ。
戸惑いと興奮の入り混じるまま、桐島は胸の鼓動が激しく脈打つのを感じていた。が、その直後、唇を強く噛まれ、深く吸われ、食べられそうなほどの勢いに、桐島の戸惑いは増した。興奮だって天井知らずだ。正直なところ吸い方が乱暴で少し痛かったが、興奮もあいまって、その痛みすら官能的な刺激となった。決してスマートなやり方ではなかった。でも、桐島を食い尽くしてやろうという情熱は感じた。その熱が桐島の胸と下半身に響く。はあ、からかうだけのつもりやったのに、どうしてくれるん。
てか、要くん。きみは、キスは初めてなん?百戦錬磨なん?
ほんまはどっちなん?
〆