練習終わったしアイス食べて帰ろうや「なあ、暑いしアイス食べて帰ろうや」
「はあ、」
要は気の抜けたサイダーみたいにスカスカの返事をよこした。こちらを振り向くこともない。
「いらん、て思てるやろ」
「いらないっていうか、水でよくないです?」
「水じゃあかんやろ。練習終わりのほてった俺の指には甘くて冷やっこいアイスしか効かへんもん」
「じゃあ、お好きにどうぞ」
「ええやん、バッテリー二人で帰っとんねんから二人で食べたい」
「はあ、じゃあまあ、それでもいいですよ」
こちらを見上げる顔には「しかたないんで、つきあってあげます」という気持ちが、くっきりと刻まれていた。
やっぱこいつ、おもしろい奴っちゃな。
心の中でほくそ笑んだつもりだったが、愉快な気持ちをどうにも抑えきれなかったらしい。なんだか気持ち悪い含み笑いが漏れ出てきた。デュフッ。
「なんでそんな上からなん?」
「桐島さんだったらいいかなって」
「なんやそれ、全然返事になってへんやん」
そうですか?という要は全くわかっていないようだった。
「ほんなら、キスしてって言っても、俺やったらええんか?」
困った顔を見れるのだと予想していた。もしくは、怒りを含んだ眉間の皺を。あるいは、無表情を装いながら、こめかみだけは震わせているのが見れるのかもしれないし、なんなら「バカじゃないですか」と呆れられても、それはそれで見ごたえがある。
でも、俺の前にいる要は、垂れ目の奥から自信ありげに俺を見つめ、口元には不敵な、それでいてどこか涼しい笑みを浮かべていた。
いや、だから、なんでそんなに上からやねん。エロいやろ。
俺たちの唇の間に流れる汗は練習あがりで土臭い。それでも俺の中に溶けゆく要の舌はひどく甘く感じた。たぶん、それは、アイスよりも俺の指に効くんやろう。
〆