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    まじでザクザク書いただけ

    叔父ちゃんの、夢「継承だか承継だか…仰々しいなぁ」

    都内の大学から帰ってきたとかで、本格的に家業を引き継ぐため忙しなく動いている真を横目に、慎一たちがいない間も日課になっていた結の家の雑用手伝いをしていた律弥がぼんやりと呟けば、近くで弓の手入れをしていた中吉が気づき手を止めずに話に乗る

    「真は跡を継ぐ為に今まで頑張ってくれとったからな、そん時が目の前に来て気張っとるんやろ」

    そうどこか誇らしそうに笑う中吉に、何となく目を合わせられずに律弥も手馴れた動きで矢の整理をすれば、記帳してから他の防具に手をかける

    「ふーん、俺には分からんな。そんなデカイ責任背負いたいもんかねぇ」

    と出したくもない欠伸を興味無いと装うためにわざと出せば、中吉に睨まれているのが背中からでも感じて苦笑する

    「給料を受け取らんのはそういう事か?」

    やはりその話か……
    夕食や慎一達の子守りの礼にと始めた草むしりがいつの間にかお手伝いさんのちづの手伝いになり、道場の子供たちの世話をしそして今では道場の片付けや大会の手伝いにまで駆り出されるくらいになった律弥に何度も中吉は給料を、手渡そうとしてきたがそれを拒み続けてきた。

    「そういうのはええって…雇用関係になったらめんどくさいしガキども来たら世話してくれたらそれでええ……ついでに、あの子らになんかあった時の隠れ蓑になってくれたら申し分ないわ」

    本当にそれだけでいい…優しくて情の厚いこの家にしがみつく理由は、甥たちの為と…今となっては可愛くて仕方ない真と善のそばに居たいから、それだけなのだ。
    金なんて無粋なものを手に入れようなんて考えていない。
    そんな律弥の心中を察したのか中吉はため息をついた。分かっている、こんな事しなくても懐の深いこの男はきっと2人の男の子くらい受け止めてくれると、そして自分まで受け入れてくれそうなこの人に甘え切る訳には行かないので線引きをしなくてはいけない

    「ちゅーことで、後継者さん冷やかしてくるわ」

    いつの間にか自身の仕事を終えた律弥はその場を任せて中吉の元を離れていけば

    「夕方には戻ってこいよ」

    と声をかけられた。
    つまり…息抜きに連れ出していいということだろう。気の優しい人なんだなと自分との違いにため息を着く…
    きっと自分がサボるための口実だと言ってもいい風にしか受け止めてくれないのではないかと、自惚れたことまで考えてしまう。

    「真、ドライブ行かん?くそじじぃの許可は貰っとるで」

    そう言って書類整理をしていたであろう真の首筋へと、冷えたポカリスエットを押し当てながら聞けば不意打ちだったからということもあり、真は妙な声を上げながら飛び跳ねて律弥の方へと振り返る

    「びっくりさせんといてや、おっちゃん」

    そう言いながらもポカリを受け取った真はこちらへと帰ってきた時から目の下のクマが目立ち、疲れているのは明白だった。
    あまり見てはいけないだろうとポカリを渡すと数歩離れてから自身の軽自動車の鍵を軽く振りながらにまっと笑う

    「ほら、行くで。」

    そう言うが真は少し迷いつつも時計を見れば

    「あーあと10分待ってくれん?そしたらキリのええとこになるんよ」

    と、ドライブには行く気がある返事に律弥は真の隣へと行きペンを引き抜くとペン立てへと戻してしまい、代わりに動き回ったからかぐしゃぐしゃになった髪からヘアゴムを外し手ぐしでときながら高い位置に結び治してやる

    「知らんのか?キリのええとこで止めるのは愚策なんやで、キリのええとこ1歩手前で目を離して他のことしてると脳の別のとこでその事を考えて他のアイデアや、気づかんかった落とし穴を見つけてくれるんよ。リフレッシュって大事やでー」

    等とそれらしい事を伝えてから髪を結んだあとの手で真の手首を掴み

    「ちゅーことで、今が絶好の頃合や。行くで」

    と制止の言葉を聞かずに連れていこうと歩き出す。真も疲れてるからか、言われるがままに歩き出せば結家の広い土地に止められた明らかに古い軽自動車に向かいボタンを押して運転席に乗り込んだ。
    助手席に乗り込んだ真を確認するとカーナビへと触れて操作すると発車する。

    「おっちゃん、どこ行くん?」

    地図だけを見れば何となく場所は把握出来るものの、詳しいところまでは分からずにカーナビの画面とにらめっこしている。

    「んーええとこ。」

    はぐらかせば、深いことまでは気にしないのー「そうかぁ」とだけ呟くと何を話すでもなく見慣れた山道を真がぼんやりと見ていると、律弥も特に音楽をかけるでもなくここ辺りの人間にしては珍しく安全運転で目的地に向かう。
    速度を守りのんびりと流れる木々や空などの自然豊かな風景に真が欠伸をしたころ、ピーピーと止まる事を伝える音がもれる。
    携帯を見る事もなく風景を見るだけで数分たったことを考えても疲れているんだろうなと察すると、車を2人で降りて扉の鍵を閉める

    「牧場?」

    のどかな緑が広がる場所に建物は転々と少ししかなく、牛がいるのだろう牛の鳴き声が遠くから聞こえてくる。

    「ここのソフトクリーム上手いんよなぁ。レストランにあるから食うか…あ、牛みたい?」

    慣れたように牧場の方に進む律弥に大人しく着いていくとレストランへ行く道で柵の向こうで元気な牛がじゃれていたり、逆を見るとバーベキューをする親子連れがいる。
    明らかに成人男性2人で来る場所では無い。

    「ほい、ソフトクリーム。ここの美味いで」

    いつのまにか2人分のソフトクリームを手に持っていた律弥から手渡されると、真はお礼を言って1口頬張った

    「うまっ」

    ミルク感が強く、さすが牧場で作られてるだけあってコンビニ等で食べるものよりも格別に美味しく感じる。
    その様子を律弥は微笑ましそうに見つめて自分も頬張る

    「ここな、小さい頃の慎一と侑に連れてきたとこなんよ。適当に遊ばせとこ思ったんやけど、思った以上にはしゃいで喜んでなぁ。やから……お前らも連れてこよと思っててん。善はもう連れてきたけど真には連れてきてないな思って」

    ぼんやりと緑との境界線で雲に挟まれた空を眺めながら懐かしそうに話し始める。

    「俺はガキの事は分からんし興味もないから似たとこしか連れて来れんけどな、疲れてるお前見てたら一緒にソフトクリーム食いたなったんよ。ここは俺があいつらをほんまの笑顔にさせれた初めての場所やから……て、就任祝いには弱いか?やっぱ豪勢にした方が良かったかもな」

    感傷に浸りながらそんなことを言う律弥はソフトクリームを舐めながら少し考えようとするがその暇を与えられないくらいに、真は直ぐに返事をする

    「いや、おっちゃんと慎一達にとっての大事なもんなんやろ?嬉しいに決まってるやんけ!」

    屈託のない満面の笑みでそう言えば最後の一口を食べてしまった。
    その笑顔に、切り替え早いなぁ等と笑いながらからかうように売店の方指さす

    「ちなみに、今のはバニラやけど慎一が好きなのはいちごやで」

    等と言ってみる。
    真は妹と甥たちを可愛がって平等に愛してるように見えて、ひねくれた大人からみたら分かるほどに慎一を特別視してるように見えたので冗談で言ってみたのだが「それはよ言ってや」と言ってイチゴ味を買いに行ってしまったので、さすがにそれは止めた

    「腹痛くなるで!てか、買うんやったら俺に払わせろや!流石に」

    まあ……それは虚しく却下されイチゴ味のソフトクリームをご満悦そうに食べている真を眺める事しか出来なかった。

    暫くして園児たちに混じって牛の頭を撫でたり睨めっこをする事にした。

    慎一達や善も楽しんでたなぁ……まあ、あの子らは子供やったけど

    等と考えていると、楽しそうに牛とじゃれてる真に独り言を言うかのように呟いた

    「人生、サボったり逃げたりするのは大事やよ、特にお前みたいに真面目で強くて包容力あるやつはな。だから出来るとこで息抜きしたらええ…でもな、堕落が得意な俺やから思うことがあるんよ」

    自身から牛じゃれてきて可愛がる真とは違い、牛に完全に警戒されて手を伸ばしてもたまにしか撫でれない律弥は少し凹みながらも話を続けた。

    「どんな日も1つ、自分が苦じゃない事で毎日小さい事をやりぃ…同じ事ばかりでええ、例えば空き缶拾うとか道場磨くとか空気を入れ替えるとか、なんでもええんよ。それを積み重ねたらきっと夢に近づいて自分を後押ししてくれるから」

    最終的に牛を満足に撫でれなかった律弥はウェットティッシュで手を拭いてから真の、頭を撫でて微笑んだ

    「やさぐれてぶっ倒れそうやけど何とか立っとる大人からの助言や」

    そう言うと立ち上がれば服のホコリを軽く払って先に出ていくと、それに続いて真も歩き始める。牛達に惜しまれながら

    「おっちゃんはなにかしとる事あるん?」

    「せやな、俺は誰かと話しとるよ。お前らやったり慎一たちに電話したりな」

    もう遊び尽くしたのか車の方へと向かいながら真の質問に答えていくが

    「おっちゃんの夢ってなんなん」

    その質問にはピタリと足が止まる。
    真が歩みを進めて律弥の前へと立ち止まれば、難しく眉間にしわ寄せて顔をあからめる律弥と目を合わせる

    「そんな恥ずかしいことなん」

    そう聞けば、直ぐに頷かれた。
    こういう時はきっと自分たち関連だと長い付き合いで分かってるのでニヤニヤと笑ってしまうのを抑えながら

    「なんやの?言ってや」

    と聞いてしまう。声までは抑えきれずにじいっと見つめてしまえば律弥は意を決して溜息をつき

    「あのくそじじぃ達には内緒やで」

    と念を押すように言えば真は勢いよく頷いた。

    「いつか、慎一とちづさんが作ったツマミを囲んで笑えるようになった侑や友達いっぱい出来た善に、立派な当主になった真の楽しい話を中吉さんと珠さんと一緒に微笑ましく聴きながら全員で酒飲むことや」

    「それが、今の俺の夢」

    「だから、可愛い俺らの子達には幸せになって欲しい……それが願いや」

    真っ赤になったままそっぽ向いた律弥は焦がれるようにそう呟いたのだった。
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