叔父ちゃんの誕生日「なあ、叔父ちゃん…なんか欲しいもんある?」
侑がスマホを見て何かを思い出せば、いつも通り夕食後に善とするゲームの準備するためテレビの前にいた律弥に近づき聞けば、一瞬怪訝そうな顔をした律弥だったが直ぐに自身の誕生日が近いことを思い出した。
「あー、そういやもうすぐ誕生日やったなぁ。忘れとったわ」
自身の誕生日の話だと言うのに煩わしそうに大きなため息をつけば、聞き耳を立てているのか各々好きにしていた全員がいつもよりも静かになっている。
快楽主義者に見えて自身の欲望は特に言わずに、周りの世話を焼き続け必要以上の好意を受け取らない律弥の欲しいものが気になるらしい。
「じゃあ、あれ…ユニバにでも連れてってや。ゾンビのやつ」
と思いつきで適当に伝えれば侑が反応するよりも先に真が携帯を取りだして
「ほな、チケット取るからおっちゃんの誕生日空いとるやつおる?」
とチケットを早速購入するためか操作したまま挙手を求めれば侑が手を挙げながら拗ねたような口調で口を挟みつつ、スマホ操作を続ける真の方へと寄る
「いや、俺が買うつもりやったのに奪うのずっこいで」
そう言う侑を無視して慎一と善が手を挙げて中吉と珠は「若い子らで行ってきい」と見送るつもりでいるらしい
「この人数のチケット代馬鹿にならんで?こういうのは大人に任せとき、侑は当日の道案内頼むわ」
と笑いながらチケット購入した画面を見せつければ次に律弥を見てにんまりと嫌な笑みを浮かべた
「おっちゃんも悪い人やなぁ…高校生には難しいもん強請るやなんて」
そう言うと律弥は明らかに面倒くさそうにため息をついた
「お見通しかい…断られ待ちやったのに、お前らのお守りせなあかんくなったやんけ」
既に長い付き合いになってるのと、他の子供たちと比べて成人済の真にとって律弥の狙いや対処法等はお見通しで先回りされれば律弥もお手上げだと予定を携帯のメモに入れる。
その後はユニバの何に乗りたいかやフードメニューを見たりと盛り上がっており、全員であれやこれやと相談したり慎一が服装を合わせようと張り切ったり善はゲームがあると聞きはしゃいだりと賑やかなひと時を過ごせば、あっという間に時間は過ぎていき20時を時計が知らせると律弥が立ち上がる
「もう帰るわ。遅くまで邪魔したな…慎一、侑帰るで」
そう言うと慎一達を連れていこうとすれば善が少し不満そうに唇をとがらせた
「泊まってけばええやん。もっと遊ぼうや」
と、引き止めるが流石に世話になりすぎやと律弥がため息つきつつポニーテールを崩さないように軽く頭撫でてから荷物を持つと、中吉が当然と言わんばかりに口を開いた
「客室用意してるから3人とも泊まってき。もう外暗いしな」
「余計なことすんなやくそじじぃ、それに男3人に夜道もクソもないわ」
中吉の言葉を即座に返すが、中吉もまた真と同じく律弥の事をある程度理解しているのか
「用意してもらったのにちづさんもガッカリするやろな」
と言えば直ぐに律弥は降参した。
この家に来て何度目かの大きなため息つくと慎一たちを見て
「着替え、真に借りやぁお前らは」
と伝えたとこでお泊まりが決定して子供達は喜んで先程のユニバの計画の話し合いを続けると、もう疲れたとばかりに律弥は中吉の隣へと移動して保護者たちで少し向こうのソファではしゃぐ子供たちを眺めながらお茶を飲む。
「で、ほんまは何が欲しいんや」
子供達の笑顔を眺めている律弥に中吉が切り出せば、珠はニコニコと二人の会話を眺めながら軽く頷く…きっと夫婦で贈り物をしようと決めていたのだろう
「タバコでも恵んでくれたら嬉しいなぁ」
そう言いながらジェスチャーで軽くタバコを口元から離して息を吐くような事をすると、そうやないやろと軽く小突かれればいたたまれないような嫌そうに眉間に皺を寄せる
「ンなもん、この歳でないわ」
そういえば目線を横に逸らす、この男は嘘をつく時いつも目線を逸らす癖がある。それは見事に慎一や侑にも引き継がれており、3人とも嘘をついたり気まずい時はこういう事をする。
我慢しがちで上手く頼れない3人の分かりやすい信号を見逃さないようにするためか誰にも指摘された事が無いのだろう、これはいくつになっても直らない
「なんでもええ、いつも給料受け取らんからな。」
そう言って真っ直ぐ見れば、これは聞き出すまで離してくれないだろうと察すると律弥は目線を外したままゆっくりと顔を背けて
「ミシン………」
とぽつりと小さな声で呟く
「……ドレス、作んの中学の時憧れててん。」
それだけ言う律弥の耳は赤い。
本音を話すのが苦手なのだろう、直ぐに立ち上がるとドタドタと足を鳴らし逃げるように
「やっぱ俺は帰る!慎一達はゆっくりし」
そう照れ隠しに大きな声で宣言して、誰の返事を聞くでもなく靴を履き玄関から出ていってしまった。
何も知らない子供達はぽかんと不思議そうに中吉達を見たが夫婦は苦笑した。
「甘えんの下手すぎるやろ。あの男は」