「くだらない」
そう言って話を聞きもせずサスケはくのいちに背を向ける。
「サスケくん、私」としか言えなかった彼女は呆然とした顔で立ちすくんでいた。
ポケットに手をつっこんでスタスタとその場を後にするサスケが商店街に入ったところで話しかける。
「よ、買い物?」
「ああ、何が安いかなと思って」
先程のやりとりなどなかったかのように野菜を物色する姿を見て、人間無視されるのが一番こたえるのにねぇ、と少しだけ同情する。
「こっちのトマトの方が赤くない?」
「完熟よりも少し硬めの方が料理には使いやすい。」
籠の中にみっつトマトが入れられる。続いて玉ねぎ、ピーマン……。
「ねぇサスケ、何で俺にはくだらないって言わなかったの?」
肉屋に足を向けながらサスケはまっすぐに俺の顔を見る。
「こんな所で言わせんなよ。……つーか見てたのかよ。」
少し不機嫌そうに眉がひそめられた。
不快だったのはどっちだろう。見ていたことだろうか。それとも俺の問いだろうか。
一週間の間二人きりになった隙を狙ってはサスケが好きだと言い続けて、鬱陶しい気持ちを隠そうともせず「もういいわかったよ!」と受け入れてくれた。
その後も折を見ては「サスケは俺のことどう?」と聞き続けて二週間で「好きだと言えば満足するのかあんたは」とため息混じりに答えてくれた。
はたから見たら俺の方がよっぽど「くだらない」と一蹴されてもおかしくないことをしているのに、めんどくさそうな顔をしながらも否定するような言葉は口にしなかった。
さっきの彼女と比べると酷い差だ。
「あんたもたまにはくだらない事言うんだな。」
ケースの中にある挽肉を覗き込みながら顎に手を添える。
「いやぁ、それほどでも。今日は豚コマの方がいい色じゃない?」
「豚は今日はそんなに安くない。おじさん、挽肉150g。」
「俺が出すんだから値段なんて気にしなくていいのに。ほらたまには黒毛和牛でも……」
サスケは包まれた挽肉を受け取り買い物袋に入れる。
「安くうまいもん作るのがいいんじゃねえか。高いもんはうまくて当然だろ?あ、おじさん牛脂つけてください。」
確かにサスケの手料理はうまい。
少なくとも出来合いのものばかり食べていた俺にとっては、はじめて手料理を振る舞われた時、飯ってこんなに美味かったっけと思ったものだ。
うまいうまいと言いながら食べる俺を見て気をよくしたのか、それからサスケはちょくちょくこうして夕食を作りに来てくれるようになった。その後泊まってくれたら最高に嬉しいんだけど、今のところは食事の後片付けを終えるとさっさと帰ってしまう。
「今日こそは泊まっていってよ。俺一緒に寝たい。」
「しつこいな。明日も任務だろ。飯食ったら帰る。」
今度は何週間言い続ければ折れてくれるだろうか。
「いいじゃない一日くらい。お泊まりしてってよ。ね?」
惣菜屋の前で立ち止まって漬物を見つめるサスケの背中に話しかける。
「……しょうがねえな。と言うとでも思ったか?それともあんたも言われたいのか。」
「何を?」
サスケは振り向いて、ふっと笑った。
「くだらないことばっかり言ってんじゃねえよ、ウスラトンカチ。」