【飯P】インクが尽きるまで 悟飯が差し出したのは、一本の万年筆だった。一目でそれと分かる立派なもので、濃い紫の軸に、金であろうペン先がよく映えている。
「これ、受け取ってください。昔、初任給で買って……ずっと使ってたんですけど」
初夏の陽は暮れかけて、窓の外には、気の早いひぐらしの声が響いていた。
「あまり書き物はしないが……」
「僕が死んだあと、僕のこと、思い出したら書いてほしいんです。花を見て、雨が降って、海へ行って、何かの拍子に思い出したら……一緒にこんなことしたとか、言っていたとか……僕がどれほど、ピッコロさんのこと、好きだったか」
悟飯の提案に、思わず動揺を露にしてしまう。いつか向き合うべきなのに、先延ばしにしてきた問題だった。悟飯は先に死出の旅へ踏み出し、おれは現世へ残される。
1956