雷が怖い青野寺と名津黄②雨の日ver〜名津黄視点〜「……あ、また降ってきましたね……」
オフィスの窓の外は、グレーの空からしとしとと雨。
ぽつ、ぽつ、とガラスを打つその音に、青野寺くんがさりげなく肩をすくめた。
(ああ……今日も、雨か)
そう思ったときには、僕の視線は自然と、彼の横顔に向いていた。
「ねえ、青野寺くん」
「はい?」
「雨、……嫌い?」
「……っ、い、いえ。あの……少しだけ、苦手です。でも、名津黄さんがいる日は……その……」
「ええ?…ふふ」
言葉の続きを聞かずとも、想いは伝わってきた。
たどたどしくて、控えめで、それでもちゃんと心がこもっていて──そんな青野寺くんの言葉が、僕はいつだって愛おしい。
*
その日の仕事が終わって、僕の部屋に寄った青野寺くんはいつもよりさらに静かで、おとなしくて。
部屋着に着替えたあとも、僕の横にぴたりとくっついて、黙ったままテレビを見ていた。
「……雨の音、気になるかい?」
「……す、少しだけ…」
「ふふ、じゃあ」
僕はさりげなく、青野寺くんの肩に腕をまわす。
それだけで、彼の身体がぴくっと小さく反応するのがわかる。
「…こうしてたら、気にならないかな?」
「……はい。あの……すごく、落ち着きます…」
彼の声はくぐもっていて、少しだけ照れているのが伝わった。
僕の胸元に、そっと額を預けてきた青野寺くんが、まるで猫のようにくるまってくる。
(ああ、かわいいなあ)
「雨の日は、甘えたい気分になるの?」
「……っ……た、たまに、です。……ちょっとだけ、特別に……」
「うん、“雨の日だけ”っていうの、可愛いね」
僕がそう言うと、青野寺くんの耳が真っ赤になった。
それでも逃げるような仕草はせず、ぎゅっと僕の服の裾を掴んだまま離さない。
「……名津黄さん、今日も……一緒にいてくれて、あっ、ありがとう…ございます…」
「当たり前だよ。青野寺くんが、雨の日でも笑っていられるように──」
そう言い終わる寸前、僕の言葉がとぎれた。
青野寺くんが、そっと目を閉じたからだ。
「……ッ」
「……キス、してもいい?」
「……はい……」
囁き合うような声のやりとりのあと
唇が、そっとふれる。
甘くて、静かで、あたたかくて──まるで、雨音さえも包み込むようなキス。
何度も、何度もそっと重ねるたび、青野寺くんの身体が少しずつ、僕に寄りかかっていく。
「……雨の日、き、嫌いじゃなくなってきたかも…です…」
「わあ、それは嬉しいなあ」
僕は優しく彼を抱きしめた。
雨の音が続いていても、この空間だけは、静かで、優しくて、ふたりだけの特別な世界だった。
──雨の日だけ、青野寺くんはちょっと甘えん坊になる。
それが、僕にとってのささやかな、幸せの証だった。