エピソード0 修正版・回想、ティムとの酒盛り「希望」
拷問、処理、消し、脅し、工作。
添哥に命令されたら、何でもやった。
添哥の目が、好きだった。
射抜くように冷たくて、でも俺のことを“使い物になる”と見てくれていた。
添哥の目配せひとつで、何をすべきかがわかった。
言葉なんていらなかった。
だって俺は、添哥の“犬”だったから。
いつだったか、珍しく二人で酒盛りに誘われた日があった。
打ち上げというには静かすぎる、誰もいない組の屋上。
添哥はいつも飲んでるウイスキー──Midlothianを、俺はジン──White Steel。後はコンビニで買ったツマミだけ。
月明かりが白くて、妙に心臓の音がうるさかったのを覚えてる。手持ち無沙汰になると自分の爪を眺めてしまうのは俺の癖だ。
添哥はだいぶ酔っていた。グラスを持つ指がゆるくて、目も据わっていたけど、やっぱり俺を射抜く瞳でこう尋ねてきた。
「お前、いつまで俺の犬を?」
突然そんなことを訊かれるとは思っていなかった。
真っ直ぐ添哥を見据えて、迷いなく答えた。
「…死ぬまで。」
心の中ではこう続けてた。
──添哥に“死ね”って言われたら、喜んで死ぬ。
“生きろ”と言われたら、首を落とされても生きる。
添哥は俺の──
・始まり 山七を拾う天威「迷い猫」
迷い猫がいた。
小さくは無い身体だがやせ細って、毛並みはボロボロで。
横たわりこちらを見上げる虚ろな瞳は近付くなと訴えているようだった。
抱き上げるとあまりにも軽くて息が詰まる。
家に連れ帰り、一先ず水を差し出す。
警戒してこちらを睨みつけたまま味を確かめるようにひと舐め、危険はないと判断したのか与えた水を飲み干してくれた。
次は汚れた身体を洗ってやろうとシャワールームに連れて行く。
怯えていて暴れたり引っ掻かれたりしたが、力が残っていなくて傷も浅くて、痛いよりむしろ切なくて。
洗い終えたらタオルで包んで乾かしてやる。まだ暴れるものだから大変だった。
寝床に横たわらせ、横に飯を置いておいた。
暫くして様子を見に行くと少しだけ食べて眠ってしまったようだ。すうすうと寝息を立てて丸くなっている。毛布をかけてやった。さらに小さく丸くなった。
野良猫を拾った。