明るいポップなスタジオの真ん中に千と百は立っていた。今日は音楽バラエティ番組にゲストとして出演させてもらうことになったのだ。
今Re:valeは波に乗り始めている。新人俳優として頭角を現し始めた千、ゲストたちへの話の振り方が絶妙でバラエティ番組で評価されだした百。正反対の二人ではあるが、今は絶賛夫婦漫才で売り出し中だ。きっかけは些細なことだった。
ある日いじわるで有名な司会者が千に対して「アイドルとして売り出してるけど、実は何股もしてるんじゃないの?」と話を振ってきたのだ。案の定、千は不愉快な感情を隠そうともせず綺麗に整えられた眉をスッとひそめてしまった。
音楽で評価されたい千は自分の顔のおかげで女性との関係が途切れないと言われることをひどく嫌っているのだ。百の知る限り、今の千は誰とも付き合っていない。普段帰ってきた千からは甘ったるい香水の匂いがしないからだ。たまにそういう匂いがする時があるが、千いわく「断りも無しにマーキングされた」と不機嫌な様子を隠そうともせずシャワーを浴びに向かうことはよく見る光景だった。もし付き合ってるなら、とっくに岡崎から怒られている。
このままではマズい。千が不快そうな顔を見た司会者が意地悪な顔で笑った瞬間を百は見逃さなかった。千がどんな反応をするか見たくて、わざと言っているのだ。千が傷つく姿を見たくないし、正直そんなことはないと叫びたい。だが、ここで躍起になれば相手の思うツボだ。焦った百は賭けに出ることにした。
百は小声で千に謝り、胸を押しつけるように腕にしがみついた。
「もー! ダーリンはオレ一筋だから浮気なんかしません! こんな可愛いハニーがいるのに、浮気したら許さないんだからねっ!」
自分で言って恥ずかしくなってきた。スベった気がして百の顔が熱くなる。
千は何のことか分からないのかキョトンとした顔をしていたが、すぐに理解して微笑みながら顎に細い指をかけられて無理やり目線を合わせられる。すると、グイグイ顔が近づいてきた。
まさかこんなことになるとは思わなかった百は頭が真っ白になってしまう。近づいた千の息がかかる度に百の理性は工事現場にあるような重機が地面にある土を掘るかのように削られていく。
形の整った薄い唇が弧を描き、そっと開かれる。
「……そうね。僕にはもったいないくらい可愛いハニーがいるのに、浮気なんてするわけないじゃないか。今日も可愛いよ、モモ……」
前までは透き通った水晶のように美しくも無機質な冷たさがあった灰青色の瞳は、今は温かみがあり見つめられるだけで蕩けそうになってしまう。あまりのイケメンっぷりに思わず気絶しそうになった。これが万理も話していたホワイトアウトかと実感する。うっかり気絶しそうになったが、なんとか踏ん張った。後で自分を褒めてあげようと思う。偉い、偉いぞ百瀬。
「ダーリンこそ、今日もイケメンだよぉ……後光がさしてるみたい……」
予想以上のイケメンぶりに百は熱で溶けたアイスクリームように蕩けながら言葉を紡いだ。
百の言葉に笑いをこらえきれなかった千は先程の整った顔から一転して、白目を剥きながら吹き出した。
「ぶはっ! 僕は仏様かい」
「だってだって! こんなイケメンに見つめられたら、オレいくら心臓があっても持たないよ~!」
その後、ネットでの評判はたちまち広がり、夫婦漫才が定着するようになってしまった。