春を待つ 久し振りに開いた書斎の扉の向こうには、本の位置さえ同じなのではないかと思うくらい、何一つ変化のない埃っぽい部屋があった。
部屋には誰もいないが微かに話し声が聞こえる。
書斎の奥、書庫に繋がる入口が開いたままになっており、その明るい部屋に、仲睦まじく頭を寄せ合っている親子の姿が見えた。
二世が書庫に足を踏み入れたのと同時に、分かっていたように友人がこちらを振り返った。その手には分厚い本が開かれている。
「やぁ、久し振りだね、メフィスト二世。」
「久し振り真吾くん。」
友人の隣に立つひょろりとした青年に目を向ける。青年は思考の読めない大きな目で、メフィスト二世を観察していた。
「一郎くんも久し振り。暫く見ない内に随分と成長したね。」
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