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    かがみのせなか

    @kagaminosenaka

    主に悪魔くん(平成・令和)の文と絵を作っています。作るのは右真吾さんばかりですが、どんなカプも大好きです。よろしくお願いします。

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    かがみのせなか

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    二埋夏休み企画に参加させていただいた物です。
    独占欲つよつよな二世さんが理想です☺️

    X→https://x.com/MtkX4UJQZm96451?t=hzwknpkdK9q0ze7sVoFj8g&s=09

    企画サイト→https://www.canva.com/design/DAGtA1XUiww/1DYOgKs3y3BSv

    #平成悪魔くん
    heiseiDevil-kun
    #二埋
    secondBurial

    宝石の雨 白く霞んだ視界に、真吾は溜め息を吐いた。
    「参ったなぁ」
     強い風と雨に、公園の木々はその枝を大きく揺さぶられている。降り始めてたった数分で水浸しになった地面には、小さな川ができていた。
     こんな雨では、たとえ傘を用意していたとしても、きっと役に立たなかっただろう。
     筒型に丸めて手に持っていた画用紙を広げ、もう一度念入りに濡れていないか確かめる。雨が当たりふやけた所があるが、なんとか庇い切れたようだ。
     途中で止まっている鉛筆の下描きに、真吾はあともう少しだったのになぁ、と残念そうに呟いた。
     画用紙には、川沿いに煉瓦を敷き詰めた遊歩道が描かれていた。最近作られたのだろうか、置かれたベンチや足元を照らす照明が新しかった。
     橋を渡る時に見た、水の綺麗な川と、川の中の飛び石と、石に影を落とす百日紅の赤い花の光景がとても涼しげで、ここを描こうとすぐに決まった。
     さっそく描き始めて調子が上がって来たところへの、急な雨だった。
     お腹が空いたなぁと呟く。
     今日は朝ご飯を食べてすぐに家を出た。昼ご飯には帰るつもりだったので、リュックサックには水筒しか入っていない。
     どこを描くのか全く当てもなく、とりあえず歩き回れば何かあるだろうと考えて出てきたので、家には行き先を伝えていない。
     どうせなら普段行かない所へ行ってみようと夢中で歩いている内に、思ったよりも遠くまで来てしまっていた。
     画用紙をクルクル巻き直しながらぼんやり外を眺めていたら、突然空に亀裂が入った。あっと思ったその時、轟音が響き渡り地面をビリビリと震わせた。
     雷が落ちた場所は近そうだ。
     普段は平気でも、屋外に居て落ちた場所が近いとあればさすがに不安になる。
     真吾はじっと空を見上げると、数歩奥へと下がった。
     真吾は今、咄嗟に逃げ込んだ小さな公園の、大きな象のすべり台のお腹の中にいた。象のお腹の部分がドームになっており、子供ならば四、五人くらいは余裕で入れるほど広い。
     しかもありがたいことに、床部分もコンクリートで盛り上がるように舗装されているので、雨が中に流れ込んで来る心配はなかった。
     リュックサックと画板、絵の具セットを隅に置いてある。降り始めて直ぐに行動したつもりが、だいぶ濡れてしまっていた。
     真吾もそこに混ざって体育座りをした。
     歩き回った疲れが急に出てきて、真吾は組んだ腕に額を乗せた。
     お母さんは心配しているだろうか。今頃百目はお昼を食べているかな。
     メフィスト二世は…
     百目と並んでラーメンをすすっている二世を思い浮かべて、真吾は口をへの字に曲げた。
     ここ数日、真吾はメフィスト二世にデリケートになっていた。
     それはこの二日間、二世が遊びに来なかった事が理由ではない。寧ろ会えないでホッとしていた。
     真吾は長いため息を吐いた。


     先週、真吾は二世と百目の三人で、読書感想文の本を探しに図書館へ行った。
     無事に本を決めて、百目が持ってきた絵本と一緒に借りようと、他愛ない話をしながら貸出カウンターに並んでいた。
     順番が来て、司書に本を渡した時だった。
    「埋れ木君?」
     急に呼ばれて振り向くと、クラスメイトの女子が三人並んで立っていた。
    「埋れ木君も宿題?」
    「うん…読書感想文の本を探しに。」
    「百目ちゃんも来たのね。」
    「ボクも本を借りるんだモン!」
     すっかり学校で当たり前の存在になっている百目は得意気に答えた。
     女の子達は、百目にニコニコ笑いかけながらチラチラと、百目の隣にいるもうひとりに、しきりに視線を送っていた。
     気付いた二世は照れながらも少し立ち姿を気取った。
     司書から本を受け取った真吾に、女の子のひとりがもじもじと訊いてきた。
    「ねぇねぇ、この子は埋れ木君のお友達?」
    「そうだよ」
     そうなのね、と三人は安心すると、さっそく二世を質問攻めにし始めた。
    「外国の人?どこに住んでるの?」
    「埋れ木君と仲いいのね。いつも遊んでいるの?」
    「変わった服装ね、暑くないの?」
     あまりの勢いに二世は仰け反るが、悪い気はしていないようだ。
    「俺はこの国の人間じゃねぇけど、悪魔くんとは大概一緒に居るな。これはタキシードと言って紳士が着る服だ。着慣れてるからちっとも暑くないぜ。」
     シルクハットの鍔をクイッと抓んだ。気障な二世の仕草に、三人はきゃっきゃと喜んだ。
    「君も、埋れ木君のこと悪魔くんって呼ぶのね。」
     一瞬不思議そうな顔をするが、二世は得意気に「悪魔くんはひとりしかいねぇからな」と笑った。
     嘘はつかず上手く誤魔化している二世に、さすが悪魔だなぁと感心していると、女子のひとりが身を寄せてきて、こっそり真吾に耳打ちした。
    「あの子、とってもかっこいいのね。」
     それを聞いた百目が口元を両手で押さえて、クスクス笑った。
    「メフィスト二世、モテモテだモン!」


     別に何でもない会話だ。いつもだったら気にも留めない遣り取りだ。
     改めて、メフィスト二世はモテるんだなと思ったら、あまり愉快に思っていない自分に気が付いて、更にその事にショックを受けた。
     そして急に恥ずかしくなってしまった。
     メフィスト二世は素っ気ないところがあるけれど、本当は面倒見がよくて優しい。誰に対しても態度を変えず優しい二世が好かれるのは当たり前で、そういうところを尊敬しているはずなのに。
     いつも側にいて構ってくれるから、いつの間にか、それが自分に対してだけのものだと勘違いしてしまっていた。
     それだけでも大概自惚れが酷いのに、勝手に傷付くなんて我儘が過ぎる。
     僕はちゃんと理解していないといけない。
     だってもし、憧れで騒いでいるのではなくて、本当にメフィスト二世の事が好きだという女の子が現れたら、その子がメフィスト二世の特別になったら…
     ドームの外で雷光が走り、バリバリという音が響いた。少し待てばすぐに止むと思っていたのに、天候は収まるどころか、だんだん酷くなっている気がする。
     胸が苦しい感じがするのは、きっと雷が不安なだけだ。真吾は肩を抱えた。
     今日、メフィスト二世が遊びに来ていたとしても、この雨ではさすがに探しに来たりはしないだろう。行き先を決めていなかったのは、かえって良かったのかも知れない。
     そう考えて、また当たり前のように、二世が探してくれると思っている自分に気が付いて、真吾は唸って顔を覆った。


     「真吾濡れてないかしら。」
     キュウリの漬物を盛り付けた陶器の器をトンとテーブルに置きながら、母親は窓の外に目を遣る。
     白い麺に乗せられた氷を百目が箸で掬い取ろうとするのを、そりゃ無理だろうと笑いながら、二世も窓の外を見た。
     二日振りに会いに来てみたら真吾は生憎の不在で、昼まで待てば帰って来ると、真吾の部屋でダラダラしていたら急に雨になった。
     何処かで雨宿りしているだろうからと、止むのを待って一刻、雨の勢いは収まるどころか一層激しくなった。
     落ち着かなくて下に降りてみると、お昼ご飯が出来上がっていた。
     百目に並んで座り、ツルツルと麺を啜ってみるが、やはりどうしてもソワソワしてしまう。箸を止めて百目を見ると、百目は美味しそうに次々と素麺を吸い込んでいた。いつでもどこでも呑気な奴だ。
    「あの子、水筒しか持っていかなかったからねぇ…」
    「悪魔くんの分はあるモン?」
     大皿に伸ばした箸を戻して、百目が上目遣いで母親を見る。
    「大丈夫よ、また茹でるから。いっぱい食べなさい。」
     ホッとした顔で麺つゆを注ぎ足す百目に、二世はうんと一度頷いて箸を置いた。
    「俺ちょっと探しに行ってくる!」
    「こんな雨じゃ危ないわよ!」
     止める母親に大丈夫と答えてヘヘッと笑うと、二世は直ぐに玄関から飛び出した。
    「全く男の子は無茶なんだから…ちょっとお父さん!」
     母親が廊下を早足で通り過ぎ、地下の蓋をバタンと開ける音がした。
    「うわっ!なんだぁ?」「メフィスト君が真吾を探しに行っちゃったのよ!あと、お昼よ!」「二世君なら心配ないよー真吾もそれなら安心だぁ」「何言ってるの!」
     百目は麦茶をゴクッと飲むとうふふと笑った。
    「メフィスト二世は早く悪魔くんに会いたいんだモン!」
     百目は口を大きく開けて、真っ赤なトマトを頬張った。
     二世は、視界ゼロの雨の中を飛びながら、全神経を集中して真吾の気配を探った。家の付近には何も感じないから、きっと歩くことが楽しくなって、遠くまで行っているのだろう。
     メフィスト二世は満面の笑みで飛んでいた。久し振りに真吾に会えると思ったら、お腹がムズムズして抑えられなかった。
     豪雨なんて大した事ない。雷なんて全然気にならない。
     早く行ってやらないとなぁ、と胸の内で呟く。
     悪魔くん、きっと俺の顔を見たら大喜びだぞ。しかもこの雨で雷だ。きっと心細くなっていて、俺が颯爽と現れたら抱きついて来ちゃうかもしれないよな。
     図書館に行ったあの日から、真吾が妙によそよそしく、何故なのかと二世なりに考えていた。
     真吾のクラスメイトらしい女の子にあれこれ聞かれた時、思わず「(俺の)悪魔くんはひとりしかいない」と答えたからか、と思い至った。
     あの時、悪魔くんはじっと俺を見詰めていた。アレでちょっと照れちゃったんだろうな。
     三人の女子のうちのひとりは真吾に気がある様子だったが、二世はニヤニヤして悪いねぇと呟いた。
     悪魔くんが好きなのは俺だからな!
     二世は嬉しくて思わずクルッと宙返りした。
     その直ぐ後ろで稲妻が走った。
     二世はワハハと笑って手足を思いっきり伸ばした。

     
     「悪魔くん!見付けたぜ!」 
     ハッと顔を上げると、大好きな顔が雨に打たれてにこにこ笑っていた。瞬間、真吾の表情がパッと明るくなったが、思い直してすぐ引っ込める。
    「どうして…」
    「俺が本気出せば、悪魔くんがどこに居たって直ぐ見付けられるぜ。」
     クルクルっと得意気にステッキを回しながら、ドームの中に入り、真吾の手を取って立ち上がらせた。
     真吾は嬉しさで胸がいっぱいで、ちょっとでも声を出せば感情が溢れ出てしまいそうだった。
     真吾はぐっと喉元でそれをこらえると、俯いて二世の手をぎゅっと握った。
    「こんな雨の中危ないよ…」
    「心細かったろ?」
     小さく頷く真吾の顔は虚ろだった。
     アレ?と思った二世は真吾の顔を覗き込む。
    「そんなに怖かったか?」
     真吾はブンブンと首を横に振った。
    「普通の雨じゃないのに、雷も凄いのに…打たれたらどうするんだよ。雨が止むのを待った方が安全だった。」
     本当はそんな事が言いたいのではないのに、真吾の口から出るのは、気持とは裏腹な言葉だった。
     真吾の怒った様子に二世は焦った。
    「迎えに来なかった方が良かったって言うのかよ。」
     真吾はぐっと口元を引き結んだ。
     一呼吸置いて小さく頷く。
     メフィスト二世は、想定外の真吾の反応に混乱していた。ハグを受け止めるイメージトレーニングをしていたのに。唖然として、目線を合わせようとしない真吾の伏せた睫毛をじっと見詰めた。
    「なんだよ、俺はてっきり…」
     悪魔くんが俺を待ってると思って、とゴニョゴニョ呟く二世に、真吾やっと顔を上げた。
    「…待ってたよ…」
    「えっ?」
    「待ってたけど、来ないでって思ってた。」
     真吾の頬が真っ赤だ。拗ねたように首を傾けている。
    「君はきっと探しに来てくれるって思ってたけど、来ないでって思ってた。」
    「なんだそりゃ」
     真吾はうううと唸ると、離れてと言うように、二世の両肩をぐっと押した。
     真吾の目からポロッと涙が落ちて、二世はぐらりとよろめいた。
     悪魔くんが泣いた!
    「僕だってわからないんだよ。」
     二世は思わず真吾の頰に手を伸ばしたが、それをスルリと擦り抜けると真吾は外へ飛び出した。
    「僕、…帰る!」
    「ちょ、ちょっと待てよ悪魔くん!」
     何が何だかわからない。
     でもそんなのどうでもいい。
     悪魔くんが泣いた!
     とにかく追いかけなければと、振り向きもしない真吾を目で追い、ドームに置き去りにされた荷物を見た。
     悪魔くんが泣いた!
     メフィストは大混乱したままシルクハットを取り、ステッキをグルっと振った。
     公園から象の滑り台が消えた。
     シルクハットを被り、真吾が走り去った方に向き直る。
     悪魔くんが泣いた!
     俺が泣かせた!
     二世は真吾の後を追い必死に駆け出した。
     何が何だかわからないが、今はとにかく追いかけて、捕まえて、それで…
     それで…俺は…
     急に辺りが輝き始めた。
     分厚い雲が切れ、真夏の光が差し込んだのだ。
     降り続ける強い雨が光を受け、大粒の雨粒ひとつひとつが陽光を反射し、雨粒同士がその光を弾き合い、まるで宝石の欠片が降り注いでいるようだった。
     気付かないふたりは、ダイヤモンドの雨が降り注ぐ中、逃げながら、追いながら、追いついて欲しいと思いながら、ひたすら真っ直ぐ走っていた。


                   二〇二五年八月七日 かがみのせなか
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