wip 最後の音が消え静寂が降りる。壇の中央でその一瞬間の永い沈黙を聴いていた鷹見項希は、やがて息を吐き出して弦の上から手を退けた。俯いた拍子に眉下で切り揃えられた長めの前髪が鷹見の顔に落ちかかる。明るくやわらかい質感の髪は照明の下でしかし冷えびえとしたをちらつきを残し、右隣の定位置でベースを構える田口流哉の元から鷹見の視線を覆い隠した。歌っている時、鷹見はどこか遠くを見ている。今はその見るものを推し量ることはできない。扉の外から時折聞こえてきていた、他の軽音部員の練習の音やお喋りの声は、既に止んでいた。窓の外はおそらくすっかり暗い。広い視聴覚室には三人分の呼吸だけがあった。不意に、ぱん、と手を打ち鳴らす空々しい音がした。田口が振り返るとドラムセットの向こうでスティックを抱えた鶴亜沙加がにこにこと笑みを浮かべていた。
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