あるよる「北さん、順番につくりますんで、もうちょっと待っとってくださいね。はいこれ、いちばん美味しいとこ」
おにぎり宮。
治はひっきりなしに入る注文を切り盛りしながら、焼きたてのだし巻き玉子や、炙ったたらこ、漬物などの端っこを綺麗に盛り合わせた小皿を信介に差し出した。
「ありがとう。よう繁盛しとるやんか」
「ありがたいことです」
「こんな忙しい時に寄ってもうて、すまんな」
「いえいえ、いつでも気にせんと、どんどん寄ってくださいよ」
「俺のことは気にせんでええよ。メシ食うたら帰るから」
半分ほどになっていた信介のグラスに冷たい麦茶を注いだところで、若いスタッフによってほくほくと湯気を立てるお櫃が運ばれてきた。
カタン
手早く、そして丁寧に。櫃にしゃもじがもどされる心地よい音に信介は聞き耳を立てた。
1394