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    hayaki_sh0ji

    @hayaki_sh0ji
    佐時メインでいろいろとポイポイします。

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    hayaki_sh0ji

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    佐時のさとりときとらが話してるだけ。
    マジの供養。どこにも残さないので、何かあったらここからサルベージする用。

    訳:先輩、受験ですよ。木虎は余計なお世話と自覚しつつも、最近の佐鳥の動向が気になって仕方がなかった。
     六月に入り曇りや雨模様な気候が増え始めた頃から、佐鳥が個人で防衛任務に就くようになったからだ。嵐山隊としての業務は、入隊式の取りまとめや広報活動、防衛任務など、これまでと同様にこなしている。それに加え、ランク戦の時期であればA級ランク戦にも参加している。ランク戦の時期には広報活動が縮小されたり、関連業務が入らないようにスケジュールの調整をしてもらっている。学校のテスト期間も然り。木虎の心配は後者の方だった。
     佐鳥が在学している三門第一高校は、現在一学期中間試験の真っ只中である。そんな中、試験勉強の時間を割いて、個人で防衛任務に就くなんて。自分の学力に自信があるのであれば様子を見るだけで済むのだが、そうともいかないのだから余計な心配をしてしまう。
     ちなみに、今回の中間試験は高校最終学年となった佐鳥にとって、大学入学に直結する重要な考査となっている。今の時代、大学全入時代と言われるようになってきているご時世、本来であれば、一年生の時から要所要所のテストは押さえていく必要がある。入試の形式が推薦だろうが一般だろうが、大学進学を考えているのであれば当然だ。それは二年生の木虎にもわかる。そして、三年生になった佐鳥は、なにがなんでも良い成績を残さなければならない。それが受験生の宿命である。
     個々で防衛任務に入ることは特に問題ではない。玉狛第一のように、ランク戦に参加していないチームは、むしろここで防衛任務に入っていることの方が多い。その他の本部所属のチームでも、十八歳――といっても大学進学後の話だが――になると、夕方よりも遅い時間帯の防衛任務に入ることができるようになり、講義の空き時間という隙間時間を有効活用することの許可が下りる。防衛任務に入るのがチーム単位に限られると、年齢層にばらつきのあるチームは必然的に防衛任務に入れる時間帯が限られてしまう。場合によっては、防衛任務に就く回数も少なく成り得ることもあり、近界民の撃破数で報酬が決まるB級隊員からも、任務シフトの柔軟性に強い要望が多かった。
     個人任務の許可が下りたのは、高校生以上。夜から早朝にかけての深い時間帯は大学生以上。
    これまで、必要性を感じていないような口ぶりだった佐鳥が頻繁に個人任務を入れている。何かしらの事情があるだろうとは分かっているものの、どういった心境の変化だろうか。
    「じゃ、行ってきま~す」
     片手をあげて挨拶をし、佐鳥はハッチの向こうに姿を消した。それを見計らった木虎が、本日の新入隊員の訓練実施報告書を記入している時枝に声をかける。
    「佐鳥先輩、大丈夫なんですかね。」
     今回の中間試験は、どれか一つでも赤点を取ってしまうと、ボーダーからの推薦枠がもらえなくなってしまうリスクを持ち合わせている。目の前に座って淡々と業務をこなしている時枝は、ボーダーからはもちろん在籍校の推薦枠をもらうことも容易だろう。
    だが、果たして佐鳥はどうだろう。ということなのだ。木虎が通う星輪女学院は来週から試験期間に入る。テストの重要性はどの学校に通っていても、学生であればみな同じのはず。机に向かう時間を極端に増やすわけではなくとも、試験範囲を洗ったり出やすい箇所を抑えたりと、試験対策の勉強の仕方にシフトする。
    「どうだろうね」
     佐鳥の様子を見守っていたと思っていた時枝にしては、冷たさが含んでいる言い方だった。その声色に木虎も口を噤む。これまでの経験則から、時枝が怒っているわけではないことはうかがえる。どこか拗ねたような声色にも聞こえたが、俯き加減の時枝の表情ははっきりと見えないせいで判断が難しい。これ以上詮索しても生産性のない会話になってしまう可能性が見え、それ以上時枝に言葉を投げることをやめた。木虎はハッチを一瞥し、心に決める。
    (日を改めて、直接佐鳥先輩に聞こう。)
     明日、狙撃手の合同訓練があることは知っている。
    二人の仲を取り持つわけではないが、最近の様子に思うところがある。仲が良かった二人が、変にお互いに気を遣っている。それが目に見えてわかる時の居心地の悪さと言ったらない。隊員みんなが和気藹々としていなければいけない決まりはないが、ただ、佐鳥と時枝には変わらずそうであってほしい。木虎はそう思っていた。
    翌日。合同訓練を終えて戻って来た佐鳥を捕まえ、木虎は問い質した。
    「先輩、今日も個人任務に就くんですか?」
     まどろっこしいことは必要ない。木虎は単刀直入で切り込んだ。その問いかけに、佐鳥の頬が引きつった。ぎこちない愛想笑いを浮かべているが、完全に「やべっ」と書いてあるように見える。
     後ろめたさ満載であろう反応に、木虎の口はだらしなく開いてしまった。
    「なんですか、その反応は。気付かれてないとでも思っていたんですか?」
    佐鳥は何やらきょろきょろと辺りを見渡すような仕草をしてから口を開いた。
    「いや、気付かれていることには気付いてたけど、ついに釘を刺される日が来たか、と……」
    「自覚あるんですね」
    「しかも、その役目が木虎ってあたりね。もうね、退路を断ってきてるよね」
     そこまで分かっているなら、と木虎は小さく息をついた。
    「……いつまで小銭稼ぎするんですか?」
    「おお、そこまでバレてる」
     さすが、と言わんばかりの表情の佐鳥に、木虎は今度こそため息をついた。
    「あの……A級で固定級が出てるのに、それとは別に任務をこなすということは、つまりそういうことなんですよ」
    「頭が良い人が相手だと弁明の余地もないんだよなぁ~」
    「中間、大丈夫なんですか?」
    「大丈夫ではないから、もうテスト期間に個人任務は入れてないよ」
    「……そうですか」
    今の言葉を聞いた木虎があからさまな反応をしたのを佐鳥は見逃さなかった。余計な世話を焼かせてしまったな、という反省一つ、分かりやすいほど勉強の心配されているな、という哀しさ一つ。佐鳥はばつが悪そうに後頭部を掻いた。
    「とっきー、なんか言ってた?」
     やはり、と木虎の脳裡にとある回想が浮かび、それが佐鳥の今の言葉と繋がった。
    「時枝先輩と海行きたいって、言ってましたよね。もしかしてそのためですか?」
    「記憶力すごすぎじゃない⁉」
    「いえ、私のこの行動が時枝先輩起因だと思っての発言だとしたら……と思っただけです。ちなみにこの行動は、私の独断によるものです」
    「あっ、そうなの⁉ てっきり、とっきーからの指示の元かと……」
    「あの時、海の良さを熱弁してる先輩と、それを聞いている時枝先輩の温度差が両極端すぎておもしろかったので。それで印象強く残っているということはあるかもしれません」
    「なんかそれ、ちょっとディスってない?」
    「気のせいです」
    「オレ、悪意には敏感だからね!」
     佐鳥が変に胸を張って言っているが、それならば、と木虎も反論をする。
    「悪意に敏感なのもいいですけど、時枝先輩のことも察してください」
    「あ~……うん、それは分かってる」
    「本当ですか?」
    「うん。だって、木虎は独断で動いてるって言ってたけど、それってとっきーが動かない代わりに、ってことでしょ? とっきーがいつも何か言いたげなのは分かってるけど」
     佐鳥はそこで一度言葉を区切った。小さく頷いて、顔の前で両手を合わせて木虎に嘆願するように言った。
    「お願い、このことはとっきーには内緒にしといて!」
    「言われなくともそのつもりです」
     そう言った後、良い事を思いついてしまった木虎は、さらに一言添えた。
    「『全教科赤点回避できたら』ですからね」
    「な、なんも言えねぇ……」
     自信の頬を両手ではたき、佐鳥は気合を入れた。
    「よぉし、明日からテスト勉強頑張る!」
    「それ、明日以降もやらないやつですよね?」
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