窓から光が差し込んで、部屋の中を照らす。そうして太陽を意識すると思考と視界が広がった気がした。久しぶりに顔を上げて、そうしてやっとルカは師の部屋に赴く時間だと気がついた。時間といっても、特にふたりの間で約束をしたわけでも取り決めがあるわけでもない。互いにゲームへの参加も他者との約束もなく、かつルカの調子が悪くない日は、アルヴァの部屋で共に作業をしたり書籍に目を通すという流れがなんとなくふたりの間で習慣づいただけだった。最近はただ話したりお茶をするためだけに会いに行く、なんてことも増えたが。合理的な理由もなく会うことを許されているというのは、ルカにとって気恥ずかしいような、くすぐったいような気がして思わず浮き足立ってしまうことだった。そんなルカがどれほどアルヴァの部屋に入り浸っているかといえば「ルカ・バルサーと話したければ居室ではなく、談話室か書庫、あるいはアルヴァ・ロレンツの居室に行けば会える」というのがこの荘園内での共通認識になって久しいほどである。当の師弟たちはこの常識を知る由もないが。
ルカは椅子から下りてぐっと伸びをする。凝り固まった肩が少し楽になる。それから出かける(といっても屋内間の移動ではあるが)支度をしようとして、紙をまとめる手を止めた。
「……あれ?」
昨日書いたはずの手稿が見当たらないのだ。机の上に散らかした大量の紙を探っても、スペースが足りずに足元にまで積んだ本のページの間まで目を通しても、目的のものが見つかることはなかった。どこかに紛れてしまったのか、あるいは置き忘れてしまったのだろうか。なかなかいい閃きだっただけに失くしたことはもったいないが、探し物というのは大抵探しているときには出てこず、探していること自体が意識の外に出たときに見つかるものだ。そう考えてルカは探す手を止め、書類を束ねて数冊の本とまとめた。これでも片手を空けるためにルカにとっては控えめな量だ。