ルカ・バルサーの居室は呪われている。
そんな話がまことしやかに囁かれ始めたのはいつからだったか。噂の出処も不明、しかし実際誰もルカの部屋に入ったことがないとなれば、噂好きの間から荘園中に話が広まるのはあっという間だった。そうして、「ルカの部屋の呪い」はいつしか誰もが知る噂話になったのだ。
いつだったか、噂好きの中の数人が直接ルカに噂の真相を尋ねたことがあった。渦中の本人は呆気にとられているようだったが、話の全容を聞くと心底おかしそうに笑った。
「本当に呪われているのなら、私が寝起きできるわけがないだろう? 大方、話に尾ひれがついて呪いだなんてことになったんだろう」
言われてみれば確かに、と誰かが頷くのを見て、ルカは続けた。
「恥ずかしい話だが、私の部屋は散らかり放題で酷い有様でね。単に人を上げられるような部屋じゃないだけさ」
流行りの怪談の面白みのない真相を聞いて、なんだそれだけかとがっかりする人、恐ろしいことはないのだと明らかにほっとする人、反応は多種多様だった。ともかく本人の口から事実無根であると証言が得られ、ここで噂話は立ち消えるかと思われた。しかし、その本人であるルカがこの呪いを面白がってしまった。「むしろ広めてほしいくらいだ」とまで笑いながら言いだしたのだ。そんなわけで、「ルカの部屋の呪い」は荘園の都市伝説と化したのだった。