石榴ザクロとは、ギリシャの神々と深い関係があるのだとか。名前は長ったらしくて憶えていないのじゃが(かなり失礼なのだがな)、大地の女神の娘が冥界の王にさらわれた。そしてその地でザクロの実を食べてしまったことで、彼女は毎年数ヶ月間を冥界で過ごすことになったのだとか。そんな話があるなかで、ザクロの中身はいっぱいの粒々が入っていて、それが子孫繁栄の象徴になるのじゃ。おいおいまるごとかぶりつくのはダメじゃ。毒がある。吐き気とかめまいとか麻痺とか起こすのじゃ。しかし中身は毒より大事なものがいっぱい入ってる。人間界では癌の治療にザクロが期待されているのじゃ、なんと!あとは美肌とか記憶改善とか...うむむ、良いことが多すぎるのじゃ!栄養満点!美しくなれる!
...しっかし、これまでの人間は味は好みじゃないと言っていたな、好みじゃないだなんて信じられないのじゃ...こんなに美味しいのに。儂が人里に広めてやろうかの!ザクロの魅力を語るのじゃ!(決して押し付けるつもりはない、好みが分かれるからの。)
そう呟いて彼女は次々とザクロを切っていく。最近はジュースにすることにハマっているのだ。ザクロを大量に買い占めた所為か、つまずいて紙袋からザクロをぶちまけるハメになった。最悪なのじゃ。
「ほれ、トーストにでもしてみるか」粒を一つ一つ取り出していく。トーストは現在実験段階だ。これで味が最悪ならザクロを乗せてでのトーストはもうしない。
「試しに今日買ったザクロの味見でもしてみるかの」実をスプーンでプチプチ取る。光に反射して、宝石のように輝いている。
「...美味しい...けれど...」少し言葉が詰まった。何かを思い出したようだ。それは切なさでもあり、怒りに分類される感情でもある。
「...昔の味がする...儂は...あいつは...なんであんな言い方で巧みに誘ったのじゃ...」
約数万年前だろうか、儂はとある島にいたのじゃ。そこで儂はせっせと狩りをしていた。どんな者でも必ず振り切って逃げられる能力を持っていた。だから儂は島の人々に「捕らえられない運命を背負ったキツネ」と呼ばれてきたのじゃ。
島の人々は大いに悩み、人々は「決して逃がさない猟犬」を島に呼び出した。しかしだな、お互い存在が矛盾しているのじゃ、儂はどんな制止も振り切って逃げられる。猟犬は“絶対に”決して逃さない存在。その二つが対峙して、事態はマズい方向に向かっていた。その時の事じゃ。とても偉い神様が介入して、猟犬と儂を石にした。そして何かしらの審判が下されたのだろう、地上に落とされたのだ。落とされる前、最後に食べたのがこのザクロっていう訳じゃ。...自業自得ではあるが、儂にとっては大事なことだったのじゃ。
こんな嫌~なザクロに出会ったのも天界のいたずらと言うものじゃろう。
この懐かしい、怒りの味をどう残して置こうか。食べるのも勿体無いから、自分の戒めとして残すつもりじゃ。決して他人には食べさせない。儂はこれからも、千年、一万年、一億年と罪を背負い、罪の足枷を引き摺って破滅までを過ごしていくのじゃろう。
さて、儂の友達にザクロの魅力を押し付けて行くぞ!きっと喜ぶだろう!!