The Butterfly in Heaven天国地獄は実在するか、死語の罰はあるのか。
それは何百年何千年何万年も人々が語り継いできたことだ。
私はそれを愚考だと思っている。罰なんて当たり前じゃないか、人間は悪い行いをすると罰が当たるだなんて言われているのだから。
私は死後の人々の制裁、裁きをしている。白い、なにもない空間。こういうのを「天国と地獄の狭間」とは言わないかね、正にそれだ。そんな思想的な話は人によるけれど。
この場所では、人々の魂は蝶となって私の所にくる。ほら、見えるだろう、普通は前世の行いを見て、天国か地獄に行かせて、まだまだ希望のある人達を転生させる
...いやいや、そんな簡単な仕事じゃない。
______こんな狭間で魂を別けるって、すごく難しいよ。
地獄、天国、天国、地獄地獄地獄。下上上下下下。
容赦なく蝶を隔たり無しに別けていく。この列は今月中に死刑になった犯罪人が沢山いた。犯罪人が怖い訳じゃない。天国地獄を別ける神様、それが僕は怖かった。にこにことした笑顔で指で別けていくのが、見ていて恐ろしかった。
周りにそんな人間はいないし、サイコパスも見たことがない。
...なんでこんな話をしているかって?僕は今、絶賛魂になって列を待っているいるから。死因は分からない。一瞬の出来事だったから。他殺でもないのかな、病気もなかった。...事故かな?
もうすぐ僕の番。神様はさっき通り笑顔で痛いところを突いてくる。時々、遠くからでも殺気が伝わってくる場合もある。
そりゃあこんな変な相手してるからだよね、僕の三つ先で今、聞こえない何かで口論してる。神様がイライラしてたり呆れたりしているから。ここにいる蝶は喋れない。せめて神との会話は出来るが、並んでいる蝶には聞こえない。
これで黒歴史暴露は避けられる。プライバシーを尊重してる狭間だなと思った。
「だから言ってるでしょ、転生は出来ないって。稀にあるけど、ほとんどの場合転生しないから。何度言えば分かるかなぁ...」あぁ、転生で呆れてる。あれでしょ、異世界転生したいって話でしょ、多分。ステータスバグの話でしょうね。そういう本読んでたから何となくわかるけど、死後に転生もクソもないよ、死んだら死んだでショックだし。...そんな死について語ってるけど、本当に僕は死んでるの?分からないのは何故?
彼は僕の羽を撫でながら悩んでいた。すごいくすぐったい。
「君ねぇ...うーん...実を言わせてもらうと死んでー...ないんだよね...どうしてここに来れたのかなぁ...三途の川はもっと前なんだけどなぁ...彼処で決断をしたら此方来れるんだけどね、何でぇ?」
予想は的中。僕は死んでいなかった。何故ならば僕が神様の元に向かった時、物凄く険しい顔をしていた。
この蝶、何者?...何蝶?
蝶から見えたものは、昏睡状態の大学生だった。親も友達もいない。何て言うことだ、友達がいない?...裏切られた、か。見えたよ、この子の過去が。ショックすぎないか?彼、なにもしてないぞ?
昏睡状態のガイドライン...昏睡状態昏睡状態...
記載されてないだと?なんてことだ、杜撰すぎないか?過去に昏睡状態で狭間に来た人間は誰一人いなかったのか?だからとして地獄天国に転送させるのも無理がある。そして転生も彼にとっては死ぬほどキツいものだろう。
だってほら、過去のこの子泣いちゃってる。
「もう嫌ぁ...皆なんて消えちゃえばいいのにぃ...」
辛いな、それは。生かすのも大変だ。人間の姿の彼もぐったりしている。
...あぁ、あまり良くないが、思い付いたことがある。天国の使者や地獄の使いが何を言おうと構わない。
「そういうことで、君を側に置いておきたい。いやいや、そんな変なことをする訳じゃないんだよ、そこ分かって欲しい。」
神は変なことを僕に対して言った。判定も難しいらしいし、生かすのも大変だろう、そう言う話を僕にした。
やはり、過去を見破られては生きる気力も失せる。
「君の賛否を聞きたい、嫌なら嫌で構わない。ほら、ここに蔦があるだろう、そこで休んでも構わない。良いと言うなら、人の姿に戻してあげるよ。好きなだけここにいてほしい。ほら、助手というのが今の私には欲しいんだ。」
助手、という言葉が胸に響いた。助手、助手。何度もエコー再生される。生きるもの嫌、地獄にも天国にも行きたくない。そんな我儘な願いが今これから、通る。そう考えたら...
『はい!』と僕は大きな声で返事をした。それが周りに聞かれることはない。
人の姿に戻って七日目。人間界では百日経っている。
人間界が恋しいと思うことはもうない。なんならこの世界の方がとても楽しいから。そして報酬もありがたいものだ。人生で初めて抱き締められたのも、この狭間で、だ。初めてな事が多い中、大変なこともいっぱいある。転生をしたがっている人を宥めたり、過去に悪い行いをした人に説教をしたり。人生経験が少ない僕でも、やれることはいっぱいあるんだ。
これからも頑張ろう。