蛍よ、こい「随分と月島くんは古い歌を知ってるのね」
口ずさんでいた歌を音楽の先生に聞かれて、月島は思わず、恥ずかしさのあまりに顔を赤らめてしまった。「誰かに教えてもらったの?」と聞かれて、首を横に振る。
『蛍こい、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ』
この歌は親に教えてもらったわけでもなく、テレビで聞いたわけでもなかった。ふとした瞬間、月島の頭の中でこの歌が流れるのだ。物心ついた時から、薄らと聞こえていたその歌は最近ではちゃんと歌詞がわかるくらいには聞こえるようになっていた。特に風邪を引いた日など、意識が朦朧としている時にはより近くに聞こえる。
あまりにも昔から聞こえるせいか、不思議と怖い気持ちはなかった。しかし段々と近くに聞こえ、遂にはっきりと自分の後ろにいるような距離で聞こえるようになった時、流石に恐怖を感じるようになり、歌をシャットアウトするようにヘッドホンをするようになった。
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