ショートホープキキー!プシュン…シュー…
俺の乗っている地下鉄が慌ただしく停車する。
まったく、いつ乗っても運転が荒いな。
やや不機嫌な思いを抱えながら、俺は他の乗客達に混ざってビートスクエア駅に降り立つと、いつもの場所に視線を移した。
っと、まだ来ていないか。
端末で時間を確認すると、18:00と表示されている。
もう少し待っていたらあいつが来るかもしれない、だが、これから急いで職場に戻らないといけない。
俺はやや後ろ髪を引かれる思いで、視線を向けた反対側にある、地上に通じる階段に向かって走り出した。
一気に階段を駆け上がったところで、目の前から聞き慣れた声がした。
「よぉ、随分急いでんな。危うくぶつかるところだったぜ。」
「…エド!」
俺は思わず声の主の名前を呼んだ。
橙の街並を背にして、エドがそこに立っている。
「なんだエド、今から地下鉄に行くのか。」
「まあな。あんたこそ珍しいな、用事でもあったのか?」
「おう、昼間ちょっとな」
夕陽が眩しくて思わず目を細める。逆光でエドの表情はよく見えなかったが、声の調子からして、いつものように少し煙たげな様子だった。
「悪ぃなエド、急いで職場戻んなくちゃいけないんだ。今日はファイトは無し、じゃあな。」
俺はエドの表情を伺いながら駆け出した。
しかし…
「あっ!?」
足がもつれてコケそうになるところを、何とか踏ん張った!
「っと、あぶねぇー」
「…っはははは、ダセェそれ」
振り向くと、からからと笑うエドの声がする。
「うわ、見てんじゃねーよ…」
「ははは、悪ぃな、面白いもんが見れたぜ」
逆光の中で、微かにエドの表情が動いているのが見える。目を凝らして見ていると、また煙たそうな様子に戻って言葉が飛んできた。
「んだよ、いつまでも人の顔見てんじゃねぇ…じゃあな」
どうやら俺は、無意識のうちに、探るようにその表情を見極めようとしていたようだ。
エドは後ろを向いて、地下鉄の階段を降りていってしまった。
エドは、俺に会うといつも煙たそうにしてくる。
それでも…いや、だからなのか…俺はエドのことが気になって仕方がない。
俺はエドとのファイトが楽しいし、それに、でかい目標を見据える芯の強さに惹かれてもいる。
エドさえ良ければ、俺はいつでもエドの力になりたいと思っている。
でも、俺の密かな思いなんて、そんな事はあいつは知らない。
あいつは、いつかこの街を離れて、大勢の仲間たちの先頭に立つ男になる。
俺とエドがこの地下鉄の駅でファイトできる時間なんて、一瞬でしかない。
橙の街並は先刻より赤味を一層増して輝いている。
永遠なんて無いことは知っている。それでも。
煙たがられてても良い、俺との時間がエドにとって、ほんの少しでも何らかの希望になる事を願わずにいられない。
俺は沈む夕陽に急かされるように、職場への道を急いだ。