鉱山の一幕「また寄ってきたか。鬱陶しい…」
吐き捨てるように言いながら、エスカデは魔物の群れに切り掛かり、蹴散らしてその場に座り込んだ。
背後にはすやすやと寝息を立てて眠る女が1人。
突然連れて来られ、彼女を守ってやってくれと言われてもう半刻になる。
賢人の命令を無視する訳にも行かず、彼はこうして、寄ってくる魔物達を蹴散らし続けている。ただ…ここにはあまりいい思い出がない。
(さっさと起きて貰って帰りたい所だが)
平和そのものといった様子で眠り続けている彼女は、恐らく何かの魔法で眠らされていて、近くで戦っていても起きそうな気配すらない。
…コイツは今何を見させられているんだろう?思うが、考えた所で自分にわかる筈もなく、意識を目の前に切り替える。
鬱陶しいとは言ったものの、魔物と対峙している時の方がましだ。今のこの何もない時間の方が居づらくはあった。
こんな所にいると、余計な事ばかり考えてしまう。
(あの時…)
あの時、自分にもっと力があれば。
様子見なんて生温い事を言わず、奴をさっさと殺しておけば。
マチルダに会わせなければ…。
「う〜ん…」
後ろから声が聞こえ、そちらに意識を向ける。
…そろそろ起きるのだろうか。
「…」
余計な事を考えてしまうのは、コイツのせいでもある。
あの時突然現れた『誰か』…今はもう良く思い出せないのだが…その誰かに、似ている気がするせいだ。
剣を向けられても呑気に自分を見返すだけだった、あの女は一体何者だったのだろう。
彼女は『もしも』の中にいつも居た。
仕様もない考えは捨てるべきだったが、今もって捨てられていないから、あの時、似た雰囲気を持つコイツに声をかけてしまった。
無関係な人間を巻き込んだ。…そんな思いも僅かにあった。しかしもう今更、悔いた所で何の意味もない。
何を考えているか判らない所もあるが、協力する気がある間は、せいぜい利用させて貰おう。
ダナエのように洗脳されて敵対するなら、その時は倒すしかないが…。そんな愚かな判断はしないだろう。
見返りは俺の分の手柄全てだ。名声と…恐らくは一生で使いきれない程の富。充分だろう。
失敗するという懸念は、何故か無かった。
目を覚ましたら…聞いてみようか?
『あの女』と何か関係があるのか。お前は何か知っているのか。何故俺に協力するのか。俺につくのか…ダナエにつくのか。
聞きたい事が多すぎて考えが纏まらない。
「あれ?エスカデ?」
突然声をかけられ、内心で慌てつつゆっくり立ち上がる。
「…気がついたようだな」
目を覚ましたばかりの彼女は、欠伸しながら座り込んでいる。未だ半分は夢の中にいるようで、ここがどこなのかも把握していないようだった。
何を聞くんだった?何か取り繕えないであろう今の内に、早く。
「お前どっちにつくつもりだ?」
…選択を誤った。一番聞きたかったのはこれじゃない。
思ったが今更、取り消せない事は解っていた。
END
×××××
後書き
なんで夢の中で話しかけられたんだろう?
なんで目を覚ました時そこにいたんだろう?
なんで唐突にあんな事聞いてきたんだろう?
なんでダナエの方についても怒らないんだろう?
そもそも「オマエに興味がある」のは何故だったんだろう?
疑問が多いのに情報が少ないので妄想書いてしまいました。
あれは半分夢、半分過去に飛ばされたような状態だったのかな?と思ってて、
「あんまり覚えてないけどあの時見た変な大人に似てるような?」と思って「興味があった」のかも…と
思いついた時に尊死したので
書いた話です。
主人公からすればもう知り合いなので、親しみのこもった視線を向けているのは当たり前なんだけど、エスカデ少年からすると非常に変な事だろうなあ、印象に残るだろうなあ、と思って…。
でもどうも気になるワードが多いので、元々主人公が何者か知っていて声をかけたのかもしれない。
みたいな妄想も…。
幅が広くて色々考えるのが楽しいです。
今回書いたものはエスカデ視点なので、アーウィンこそ悪であり滅ぼすべき存在、としています。
他キャラ視点も書いてみたいような…非常にしんどいので嫌なような。
これに関しては推しなので楽しく書きました。
読んでくださった方、ありがとうございました。
2022.09.06.