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    saku_wb1027

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    saku_wb1027

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    すおさく 🌸愛され
    悪夢を見ると幼児退行しちゃう🌸のお話

    4話完結でしたが力尽きたので途中までで供養、

    遥くんを救いたい1

    真っ暗な暗闇の中で、誰かの声が聞こえる。
    そちらへ行こうと、動こうとするのに何かがオレの足を止める。
    顔も名前も知らない、覚えていないやつらが、オレにまとわりつき離れない。
    まるで現実を、過去を忘れるなと言わんばかりに。
    どこへ行っても、お前は変われないのだと、お前の居場所など無いのだと、そう言われているようでオレは必死になってもがく。
    振り解けないそれは、オレをずっと過去へと縛りつける。
    ああ、また戻ってしまう。

    〜〜〜

    桜さんは、毎月一回ほどのペースで幼児退行する。
    簡単に言えば、小さい子どもの姿に戻る。
    分かっているのは、桜さん自身はそのことを知らないし覚えていないこと。
    悪夢を見た日に起こること。
    子どもの姿で眠ると元に戻ること。
    年齢が5.6歳であること。
    この時から虐待や暴力など様々な嫌がらせがあったこと。
    『ごめんなさい』が口癖のように出てくること。
    同年代の子どもと比べると自我が少なく、でもとても素直で優しいところは今と変わらないこと。


    初めて小さな桜さんと対面したのは数ヶ月ほど前のことだった。
    桜さんと蘇枋さんは付き合ってから2人で毎日一緒に登下校している。
    オレはそれまで3人一緒だったから少し寂しくなりながらも、学校内で2人きりになれる機会なんてないに等しいから2人の時間を大切にしてほしくて、2人で帰ってはどうかと提案したのだ。
    そしたら2人は、何と3人でいる時間も大切にしたいからと言ってくれて週に何回かは3人でこれまで通り登下校している。
    その日は3人で登下校する予定で、朝から桜さんの家へ迎えに行った。
    オレが着く時にちょうど蘇枋さんがアパートの階段を登ろうとしているところだったのでそのまま一緒に上がった。
    相変わらず鍵のかかっていない部屋に入ると、
    そこには桜さんはいなくて、代わりに小さな子どもが部屋の隅っこでうずくまっていた。
    オレ達が入ってきた気配であげられた顔。慌てた様子に恐怖と緊張が分かる表情。
    よく見るとその子どもは桜さんがよく着ている白のTシャツを着て、黒と白に分かれた髪に、琥珀色のオッドアイ。まるで桜さんをそのまま小さくしたようだった。
    ただその体は標準体型とはかけ離れて細く、痩せているなんて言葉じゃ足りないほどガリガリだった。
    Tシャツから所々見える肌は怪我や痣の跡が残っていた。
    とりあえずまだ少しだけ冷静な頭で1-1のグループに3人共休むと連絡を入れておいた。

    「えっと、桜、遥くん?」
    蘇枋さんの問いかけに彼は驚いた顔をした後、迷いながらもゆっくりと頷いた。
    「え、、どういうことでしょうか、?」
    「桜くん。ちょっと質問してもいいかな?分かる範囲で構わないから教えてくれる?」
    慌てるオレとは対照に蘇枋さんは落ち着いて桜さんに聞いた。
    後から蘇枋さんはこの時内心すごく驚いていたし戸惑っていたと話したが、そんな感じは一切なかった。やっぱりすごいなこの人。
    蘇枋さんの質問に、桜さんは口を開こうとしては閉じてを繰り返し、そこには迷いと怯えがあった。
    「桜くん。大丈夫だよ。話せなかったら話さなくてもいいし、無理する必要はないんだよ。」
    落ち着かせるように蘇枋さんが言った。
    「そうです。桜さんが話せたらで大丈夫です。あ、もしかしてまだ話出来ない年とかですかね?見た目は5歳くらいですけど、、」
    そんなことを言っていると桜さんが口を開いた。
    「話、しても、いいの?殴らないの?」
    まだ声変わりをしていない高くて幼い声だった。
    言葉の衝撃が強くてオレ達は何も言えなくて、そんなオレ達を見た桜さんははっとして「ごめんなさい、、」と小さく呟いた。
    「違うよ桜くん。びっくりしただけなんだ。怖がらせてごめんね?
    話してもいいんだよ。オレ達は桜くんとお話したいし、桜くんのことが知りたいんだ。もちろん殴ったりなんて絶対しないよ。」
    「オレもです。驚いて黙ったりしてすみません。
    話していいんですよ。オレも桜さんとお話したいです。」
    オレ達はすぐに桜さんに優しく言った。
    「ごめんなさい。オレが話すとみんな嫌だって、喋るなって殴るから、黙ってろって、いつも言われるから、、」
    桜さんの過去や事情を詳しく聞いたことがないから何とも言えないが、この頃から家庭環境や周りの人に問題があったことは分かった。
    こんな幼い頃から1人で耐えてきたことに苦しさが込み上げる。
    隣を見れば蘇枋さんも同じ様子だった。

    「じゃあ、桜くん。質問していくね?」
    気を取り直した蘇枋さんが桜さんに言った。
    「あ、あの、、オレ、桜遥だけど、今、名前違う、、」
    「そ、そっか。そうだったんだね。」
    「ごめんなさい、、」
    「謝ることなんて何もないよ。」
    「で、でも、あのね、名前、変わっても、どこの家も、みんなその名前を使うなって、、同じ名前なのが、嫌なんだって、、
    だから、桜も、他の名前も、オレは言っちゃだめなの、、」
    桜さんを引き取った新しい保護者ということだろう。
    話的に既に何回も苗字が変わっているようだし、そのどの引き取り手も桜さんに自分達と同じ苗字を名乗るのも許さないほどに大切にしなかったようだ。
    「えっと、じゃあ、今は何て呼ばれてるんですか?」
    「誰も、何も呼ばない、、」
    何と呼べばいいか分からなくて迂闊に聞いてしまった自分を殴りたかった。
    「あ、ちが、、ごめんなさい、、あのね、だから、名前、呼ばれたの、嬉しかったの、、」
    言葉に詰まったオレに桜さんはそう言ってくれた。
    どんな時も優しいのは変わらないんだな。
    少し恥ずかしそうにするのはいつもの桜さんと変わらないけど、小さい桜さんはより素直で可愛らしかった。
    「伝わる、?オレ、話すの、久しぶりだから、上手く出来ない、、変なこと言って、ごめんなさい、、」
    こちらを不安そうに見てまた申し訳無さそうに謝る。
    相手の機嫌というか、自分の存在が邪魔にならないよう、そんな細心の注意をはらって生きているみたいだった。
    そんなこと、こんな小さな子どもが覚えることじゃないのに。
    「大丈夫。伝わってるよ。オレも桜くんが喜んでくれて嬉しいよ。」
    「オレにもちゃんと伝わってますよ。たくさんお話出来て嬉しいです。」
    オレ達がそう言うと桜さんは安心したように少し体の力を抜いた。
    「じゃあ、下の名前で呼んでもいいかい?」
    「それいいですね!」
    「下?」
    「うん。遥くんって呼んでもいい?」
    そう蘇枋さんが聞くと桜さんは嬉しそうな顔をした。
    「いいよ。」
    「ありがとう。遥くん。」
    「オレも遥くんって呼びますね!
    あ、自己紹介がまだでしたね。オレは楡井っていいます。」
    「そうだった。オレは蘇枋だよ。よろしくね。」
    すると遥くんはきょとんとした顔をして聞いた。
    「名前、オレも呼んでいいの、?いやじゃない、?」
    「「もちろん(です)!」」
    オレ達が声を揃えて言うと遥くんは少しだけ笑った。
    「にれと、すお。覚えた。」
    遥くん可愛すぎる、、

    「じゃあ、遥くんはどうしてここにいるか分かる?」
    可愛さへの悶絶がやっと落ち着いてから蘇枋さんが聞いた。
    「分からない。でもね、オレが寝てて、嫌な夢見てね、でも誰かがオレに、もしあいつらがいてくれてたらって、言ったの。
    そして起きたらここにいた。」
    「誰か、は桜さん自身でしょうか?」
    「んー、まだ分からないことだらけだね。分かりやすいことだけ聞こうか。
    遥くんは今何歳?」
    「えっと、、多分、5歳か6歳くらいだって、言ってた。」
    また衝撃を受ける。
    この歳で自分の年齢を知らないことなんてあるのか。
    本当に、誰も桜さんに興味を示さなかったのだろう。
    「そっか。保育園とか学校とかって行ってる?」
    「?分からないけど、今の家になってからは、ほとんど外出たことない、、
    部屋真っ暗だから、出たいけど、出ちゃいけないの、怒られるから、、
    たまに外に出されて、家入れなくなるけど、そんな見た目で、どこも行くなって、言われた、」
    「そうだったんですね、、」
    拙い言葉でも、その残虐性が伺える。
    これ以上は聞けなかった。

    結局何も解決せずにどうすればいいか悩んでいると、遥くんのお腹がなった。
    遥くんは顔を真っ赤にしながらも「ごめんなさい、、」と呟いた。
    「お腹空いたね。何か食べよっか。」
    「買いに行こうにも、この姿の桜さんが外に出たらさすがに騒ぎになりますよね、、」
    「今の遥くんにこれ以上人を増やしてもかわいそうだからね。」
    「あ、そういえば、昨日桜さん結構商店街の方から差し入れ貰ってましたよね?まだ残ってないですかね?」
    「ああ、多分台所にまとめてそうだね。にれくんの分までは余裕であるんじゃない?」
    「ちょっと取ってきます!」
    オレ達の会話を黙って聞いていた遥くんはオレがパンやお菓子を抱えて戻ったことに少し驚いた表情をした。
    「遥くん。何か食べれそうなのある?」
    「これ、、オレが食べても、いいの、?」
    蘇枋さんが聞くと遥さんは不安げに聞き返した。
    「もちろんだよ。」
    「これは元々桜さんが貰った分なので、遥くんの分でもあるんですよ。」
    オレ達がそう言うと遥くんは言った。
    「でも、今まで、ご飯、用意されたこと、ないから、、」
    もう絶句である。
    「いつもはどうしてるの?」
    「えっと、誰もいない時にね、ゴミ箱の中にあるのは、食べてもいいって、そこしかだめなの。何も入ってなかったら、我慢する。あとは水は飲んでもいい、、」
    遥くんに質問すると、言って大丈夫なのか、こちらが不快に思わないか、と戸惑いながら不安そうにしながらも全部素直に答えてくれる。
    それをただ、自分の当たり前だと、普通のことだと教えてくれる。
    ご飯すら、満足に食べたことがないなんて。
    今の遥くんにオレ達が出来ることなんて何もなくて、遥くんを救うことも出来ない。
    桜さんが夢の中で思った、もしオレ達がいてくれてたらと、そんな願いを叶えられていたらどんなによかっただろう。
    「遥くん。オレ達は遥くんに美味しいものをたくさん食べてほしいだけなんだ。
    誰も怒らないし殴らないよ。遥くんがよかったらオレ達と一緒にご飯食べてくれないかな?」
    蘇枋さんがそう持ちかけると遥くんはゆっくりと頷いた。
    目の前にあったカレーパンを恐る恐る掴み、オレ達を見る。
    「これ、で、いい、?間違ってない、?」
    おそらく初めてちゃんとしたご飯を目にしたのだろう。
    きっとカレーパンがどんな味かも分からない。
    何かを自分で選ぶこともしたことがない。
    まだ遥くんと会ってから少ししか経っていないのに、分かったこと全てが悲しくて苦しかった。
    「大丈夫だよ。美味しいから食べてみて。」
    蘇枋さんが優しく言った。
    恐る恐る口に入れた遥くんは一口食べると目をキラキラと輝かせた。
    いつもの美味しいものを食べた時の桜さんと同じだが、遥くんの年相応の顔は見ていてほっこりする。
    「遥くん。美味しいですか?」
    オレの言葉に何度もコクコクと頷いた。可愛い。

    初めてお腹がいっぱいになったと言う遥くんは食べ終わると眠たそうに目を擦った。
    「目擦っちゃだめっすよ。痛くなりますから。」
    「遥くん。一緒にお昼寝する?」
    「んん、、でも、楽しいのに、寝るの、いや、」
    遥くんが甘えたようにデレた。可愛い。
    この数時間で随分と心を開いて懐いてくれたようだ。
    「じゃあ横になってオレ達とお話しよう。」
    「ん。いいよ。」
    子どもらしく素直な遥くんは快く了承してくれて横になった。
    3人で川の字になって床に寝転ぶ。
    遥くんは嬉しそうに小さく笑った。
    「目が、さめても、今日のこと、忘れない。もっと、いい子に、なるから、また、すおとにれに、会える、?」
    寝落ちする直前に遥くんはそう言った。
    「大丈夫。オレ達も絶対忘れないし、遥くんはすごくいい子だからまた会えるよ。」
    「遥くんはすごくいい子ですから。大丈夫です。絶対また会いましょうね。」
    完全に眠ってしまった遥くんに優しく言い聞かせるように言葉をかけた。
    すると、眠った遥くんは突然光だして、桜さんの姿に戻った。
    信じがたい現象に蘇枋さんと目を合わせてその様子を声も出せずに見ていた。
    桜さんはゆっくりと目を覚ますと、オレ達の存在に気づいて飛び起きた。
    「なっ!お前ら何してんだよっ!」
    どうやら記憶はないみたいだが、長い夢を見ていた気がすると桜さんは言った。
    過去の夢を見ていたはずが、そこにオレ達が現れたと。
    少しでも桜さんの夢の中が安心出来るものでありますようにと、慌てる桜さんを見ながらオレ達は笑顔を浮かべた。

    こんな不思議な体験は、これで終わりだと、あの時は思っていた。
    遥くんと再会したのはあれから意外とすぐのことだった。



    2

    遥くんと再会したのはそれから一ヶ月と少し過ぎた日のことだった。
    その日は学校が休みで特に予定のなかったオレは家でいつものようにノートをまとめていた。
    突然蘇枋さんから電話がかかってきた。
    今日は確か2人はデートに行く予定だったはずだ。昨日の教室で色々と予定を立てていたことを知っている。
    オレは少し不思議に思いながらも電話に出た。
    「蘇枋さんおはようございます。どうしました?」
    「にれくんおはよう。それが、今桜くんの家に行ったんだけど、桜くんが遥くんになってるんだ。」
    「え?遥くんが?」
    「うん。デートするために迎えに来たんだけど、部屋に入ったら遥くんでね。
    この前の記憶はあるみたいで、オレのこと見た瞬間『すお、?』って名前呼んでくれて、、いや可愛かった。さすが遥くん。」
    「蘇枋さんちょっとは隠しましょうか。落ち着いてください。」
    遥くんが可愛いのは分かる。あれ以来蘇枋さんとはたまに遥くんの可愛かった話で盛り上がっているから。
    「ああ、ごめんね。それでにれくん、今日は予定ある?」
    「いえ、何もないです。」
    「もしよかったら桜くんの家に来てくれないかな?遥くんが『にれはいないの?』って聞いてるんだ。」
    可愛すぎる。出来れば生で聞きたかった。
    「今すぐ行きます!」
    返事なんて遥くんが来た時点で決まってる。

    電話を切って桜さんの家まで走っていると、商店街で桐生さんと柘浦さんに会った。
    どうやら2人もさっきたまたま会ったらしい。
    走っているオレにどうしたのかと声をかけて事情を聞いてきたのでざっくりと遥くんの話をする。
    遥くんのことは不思議な現象だった事もあり、オレも蘇枋さんも誰にも言ってなかった。
    2人は驚きながらも遥くんと会ってみたいと言った。
    だって大好きな桜さんの幼少期の姿だ。
    そんなの1-1、いや風鈴生全員が見たいに決まってる。
    オレは電話で蘇枋さんに説明して了解を得ながら2人と桜さんの家へ急いだ。
    家へ着くと、とりあえず2人には申し訳ないが遥くんがびっくりしてはいけないので玄関で待ってもらう。
    部屋の扉を開けると、そこには蘇枋さんと話す遥くんがいた。
    「すみません。遅くなりました。」
    「にれくんいらっしゃい。ほら遥くん。にれくんが来たよ。」
    声をかけて2人の隣へ座った。
    「にれ、会えた。」
    そう言って遥くんは少し笑った。可愛すぎる。
    笑顔はまだぎこちないが、普段笑うことすら出来ないからだろうというのがオレ達の考え。いつか年相応に笑える日が来ればいいのだけど。
    「遥くん。オレも会えて嬉しいです!」
    「にれくん。2人は外で待ってくれてるの?」
    蘇枋さんの問いかけにはっと思い出す。
    「そうでした!一応中の玄関で待ってもらってます。」
    「ねぇ遥くん。さっきもお話してたけど、今日はもう2人遥くんと仲良くしたいお友達連れてきてもいいかな?」
    「ん、、でも、オレなんかと、いいの、?その人達、嫌にならない、?」
    遥くんは誰かが怖いというより、自分なんかと仲良くなってもいいのかという不安が先にきてしまうようだった。
    「大丈夫ですよ。オレ達のお友達で、2人とも遥くんのこと大好きですから。絶対嫌にならないです。」
    「そうだよ。もちろんオレ達もずっと遥くんと一緒にいるから安心して?でも、もし嫌なことがあったり、怖くなったら遠慮せず言ってほしいな。」
    「分かった。」
    「遥くんはいい子だね。じゃあ呼んでこようか。」
    「オレ行ってきますよ。ちょっと待ってて下さいね!」
    そう言ってオレは玄関の方へ行って2人に声をかけた。
    「待ってもらってすみません。遥くんが驚いちゃうので大きな声はだめですからね?あと、今の遥くんは苗字が桜ではないそうなので下の名前で呼んであげてください。」
    2人にそれだけ伝えて3人で部屋へ向かう。
    「ほんとに小さくなってる〜。可愛い〜。」
    「めちゃくちゃ可愛いなぁ。」
    柘浦さんが頑張って声を抑えて話していた。
    遥くんは蘇枋さんよりも背が高い柘浦さんが怖かったようで、蘇枋さんの背中に隠れてしまった。
    「柘浦くんしゃがんであげて。遥くん背が高い人苦手みたい。」
    「わ、すまんなぁ。遥くんごめんな。怖がらせるつもりはなかったんやけど。」
    柘浦さんはすぐにしゃがんで申し訳なさそうに手を前に合わせて言った。
    「あ、あのね、大丈夫。オレも、ごめんなさい。」
    遥くんはその言葉に反応してひょこっと顔を出して言った。
    「遥ちゃん声も可愛い〜。謝れてえらいね〜。」
    桐生さんが話すと遥くんはじっと桐生さんを見つめた。
    「遥くん何かあった?お話して大丈夫だよ。」
    蘇枋さんがフォローすると遥くんはおずおずと話した。
    「あ、あの、それ、、痛くない、?すおのも、気になってたの。」
    それ、と指差したのは桐生さんのピアス。
    「すおはね、目と耳、痛いしてない?」
    心配してるのすら可愛すぎる。優しすぎる問いにみんなの頬が緩んだ。
    「痛くないから大丈夫だよ〜。」
    「オレも痛くないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
    2人がそう言うと遥くんは「よかった。」とまた少し笑った。
    「あ、自己紹介しなきゃ。すっかり忘れてた〜。
    オレは桐生だよ。遥ちゃんよろしくね〜。」
    「ワシは柘浦や。よろしくな。」
    「ん。きりゅと、ちゅげ、、あっ、」
    噛んだ。ちょっと可愛すぎるんだけど。
    「ごめんなさい、、」
    「4文字長いもんね〜。遥ちゃん。きりゅとちゅげでいいよ〜。オレも柘ちゃんって呼んでるし。」
    遥くんが謝ると桐生さんが笑いなから言った。
    「せやせや!呼び方なんて何でもええんやし、呼びやすいように呼んでや。」
    「分かった。じゃあ、きりゅと、ちゅげ。ちゃんと覚えた。」
    柘浦さんもそう言うと遥くんは安心したように名前を呼んだ。

    「大体の話は来る途中でにれちゃんから聞いたけど、今回も状況は同じ感じ?」
    桐生さんが聞いた。
    「多分ね。さっきまで遥くんと話してたんだけど、また悪い夢を見てこっちに来たらしいんだ。今回も桜くんらしき人が出てきたって言ってたよ。
    帰り方も同じじゃないかな。」
    蘇枋さんが答えると遥くんが頷いた。
    一応人見知りもするのか、まだ慣れていないだけなのか、遥くんは蘇枋さんの隣から一切離れず、たまにオレをじっと見ている。この間のことがあったからとは分かっているがやはり懐かれていると感じられるのは嬉しい。
    「前回の一度きりだと思ってたので正直驚きました。もしこれからも何回かあるようなら今後は色々用意したいですね。
    とりあえずは遥くんサイズの服と靴ですかね。あと遊べるようなものもあれば。」
    「そうだね〜。ずっとここにいるのもいいけど、せっかくなら色々楽しいことしたいし。いずれはクラスの子達とも仲良くなれたらいいんだけどね〜。みんな会いたがるだろうし。」
    「今日は休みやったからいいけど、さすがに毎回学校休むのもなぁ。桜くんは気にしそうやし。」
    「んー。せっかくだし、今後の練習ってことでちょっとだけ外に出てみる?
    今日はご飯の用意もないし、人目を避けて少し公園とかで遊ぶのはどうかな。」
    「それ楽しそうですね!ご飯と服と靴だけ先に用意して公園行きましょうか。」
    「せやな。遊ぶならこの服じゃ動きにくいし着替える場所もないやろうし。」
    「とりあえず商店街を通らないように抜けて、学校近くの公園に行こうか。」
    「あの公園なら人もほとんどいないから大丈夫そうだね〜。」
    「じゃあ先にご飯と服と靴だけ済ませて、一旦戻ってきてからみんなで出発しようか。」
    蘇枋さんの提案にみんなが頷く。
    「公園とか久しぶりだな〜。絶対楽しいよね〜。」
    「全力で走ろうや!」
    オレ達が盛り上がっていると遥くんはきょとんとした顔をしていた。
    「遥くん。今からちょっとだけお外行かない?
    遥くんのご飯とお洋服買って、みんなで遊びに行きたいなってお話してたんだけど、どうかな?」
    蘇枋さんが遥くんに聞いた。
    遥くんは遊びに行く、という言葉に目をキラキラとさせたが、すぐに顔を下に向けて黙ってしまった。
    「遥くん。もし嫌だったら全然いいんだよ。オレ達は遥くんと一緒にいれるだけで楽しいから。」
    「あ、ち、ちがうの、、あのね、えっとね、オレ、外で遊んじゃ、だめって、みんなの、めいわく?になるからって、、」
    蘇枋さんがそう言うと遥くんは申し訳無さそうに答えた。
    一体周りは何をしていたのだろう。こんな子どもに、迷惑の意味も理解してないような小さな子に、そんな酷い扱いを平気でするなんて。
    「大丈夫。全然迷惑じゃないよ。ここには遥くんに嫌なこと言う人はいないから。オレ達が遊びたいんだ。遥くんも来てくれたら嬉しいな。」
    蘇枋さんが優しく言うと遥くんはまた口を開いた。
    「あの、あのね、オレも、行って、みたい、、けど、みんなと一緒に行ったら、みんなが、怪我しちゃう、、ごめんなさい、、」
    「怪我?どういうことですか?」
    行ってみたいと初めて自分の思いを口にしてくれたのに、怪我という単語が引っかかった。
    「ん、、オレがね、外歩くと、石が飛んでくるから、、みんな怪我しちゃう、だから、離れないと、危ないから、、」
    おそらく遥くんに石を投げるやつがいるのだろう。それもきっと1人とか数回とかじゃないほどに。
    自分が石を投げられることを当然のように受け止め、自分のせいでオレ達まで当たってしまったらと心配する。
    何でこんなに素直で優しい桜さんが周りから虐げられないといけないのか。
    怒りや悔しさでいっぱいになる。
    「遥くん。今日はきっと、いや絶対飛んでこないよ。それに、オレ達は遥くんを守れるくらいには強いから安心して。」
    「そうそう。オレ達が遥ちゃんのこと守るし、嫌な思いさせないから。」
    「ほんと、?」
    「もちろん。だから大丈夫だよ。嫌なこと忘れるくらい、いっぱい楽しもうか。」
    「うん。」
    2人の言葉に安心したように笑った遥くんにオレ達も微笑んだ。

    「じゃあオレご飯行くよ〜。遥ちゃん何か食べたいものある?」
    「えっと、、」
    桐生さんが聞くと遥くんはまた俯いて黙ってしまった。
    「遥くん普段からご飯を満足に与えられたことがないみたいで。多分桜さんが食べてるものだと食べれると思います。この前は一緒にカレーパン食べました。」
    オレは桐生さんにそっと話すと桐生さんは頷いて遥くんに話した。
    「じゃあ遥ちゃん。オレ適当に買ってくるから、後で一緒に食べたいの選ぼっか。この前食べたパン美味しかった〜?」
    「うん。あれ美味しかった。」
    「じゃあ今日もパン買ってくるから違う種類食べてみよっか。他にも美味しいのたくさんあるんだ〜。」
    優しく提案する桐生さんに遥くんは嬉しそうに目を輝かせた。やっぱり美味しいものが好きなのは変わらないみたいだ。
    「じゃあオレパン買ってくるね〜。みんなの分も適当に買ってくるよ。」
    「じゃあワシも一緒に行こうか。5人分やったらかなりの量やろ。」
    「じゃあ2人にお願いするよ。ありがとね。」
    「お願いします!」
    「?おねがい、します、?」
    オレ達のまねをして遥くんが言った。
    「可愛い〜。遥ちゃんに頼まれたから行ってくる〜。」
    「遥くん待っててな。すぐ買ってくる。」
    2人はすぐに飛び出していった。遥くんのお願いおそるべし。
    「いいなぁ。オレも遥くんにお願いされたい。」
    「分かります、、」
    「おねがい、は、嬉しいなの?」
    「そうだよ。お願いは、遥くんがしてほしいことを言ったりすることかな。遥くんに言われるのがみんな嬉しいんだ。」
    「遥くんのお願いは絶対叶えてあげたいですからね。だからもしお願いがあったらいつでも言ってくださいね。」
    「わかった。あの、おねがいね、オレ、すおとにれと、もっと一緒に、いたい、って、おねがいになる、?いやにならない、?」
    可愛すぎて死にそう。遥くんおそるべし。
    お願いまで言えるようになったなんて天才なんじゃない?
    「かわ、、じゃなくて、、
    遥くん。お願い出来てすごいね。上手だよ。嫌になんかならない。オレも遥くんともっと一緒にいたいな。」
    「遥くんお願い上手ですよ!すごい上手く出来てる。オレも遥くんともっとずっと一緒にいたいです。」
    「えへ、、よかった。」
    オレ達の言葉に、遥くんはふっと笑った。今までの中で一番自然な笑顔。
    優しさが溶けたような、柔らかい笑顔。
    遥くんが笑うだけで、こんなにも泣きそうなほど嬉しいなんて。
    出来ればもっともっと、笑顔でいっぱいにしたいと強く思った。

    「じゃあオレは服と靴買ってきます。遥くんの大体のサイズは分かったんで。服と靴だけならオレ1人でも大丈夫なのでお2人は待ってて下さい。」
    見ただけで大体の身長や体重が分かるのは、ずっと色んな人を観察して質問して記録してきた結果だ。
    周りからは特技の領域だ、なんて言われることもあるけど、遥くんのために使えてよかったと思う。
    「じゃあお願いしようかな。あ、服は商店街で買うでしょ?怪しまれてもあれだから、そこにいた子どもが川遊びして濡れたのでって理由つけた方がすんなりいくと思うよ。」
    さすが蘇枋さんだ。交渉役を買ってでただけある。
    「分かりました!じゃあ行ってきますね!」
    「うん。いってらっしゃい。」
    「?いって、らしゃい?」
    またしても真似をした遥くんに心臓を撃ち抜かれた。可愛い。

    商店街で服と靴を貰って(いつも世話になっているからとタダで譲ってくれた)桜さんの家へ急ぐ。
    ちょうど家の目の前で桐生さんと柘浦さんに合流した。
    手いっぱいに袋を抱え、どうやらこっちもおまけでたくさん貰ったらしい。
    2人で行って正解だった、なんて話しながら家へ戻った。
    「ただいま〜。買ってきたよ〜。」
    「服も靴も譲ってくれました!」
    「みんなありがとう。じゃあとりあえず、お着替えからしようか。」
    「遥くん。新しい服着るので上脱げますか?」
    オレの声かけに遥くんは頷いてすぐに服を脱いだ。
    それまでTシャツに隠れていた小さく痩せた体が露わになる。
    体には、至る所に暴力の跡があった。殴る蹴る以外にも、物を使ってそうな跡、火傷、切り傷など見るに耐えないものばかり。随分昔のものから最近付けられたようなものまで。
    「あ、、ごめんなさい、、汚いもの見せて、、」
    オレ達が声も出せない中、遥くんが気づいて小さく謝った。
    汚いもの、という言い方も、周りが言ったものだろうか。
    「大丈夫だよ。遥くんは汚くないよ。謝らなくていいんだよ。」
    「遥くんは何も悪くないですから。遥くんは綺麗ですよ。」
    「そうだよ遥ちゃん。大丈夫だよ〜。」
    「遥くんは何もしてへんのにこれは酷いな。」
    オレ達がすぐ否定すると遥くんは少しだけ安心したような顔をした。
    「よし。じゃあ着替えちゃおっか。遥ちゃんこれ着てみて〜。」
    桐生さんが空気を変えるように遥くんに着替えを渡した。
    子ども用のシンプルなTシャツと半ズボンだが、サイズはぴったりで、遥くんによく似合っていた。
    「可愛い〜。似合うよ遥ちゃん。」
    「せやな。よう似合っとる。」
    「遥くん可愛い。」
    「それにして正解でした!」
    遥くんはオレ達の言葉にどう対応したらいいのか分からずみんなをキョロキョロと見てからしばらくして頷いた。
    褒められることすら、されたことなかったんだろうな。
    とりあえず遥くんが頷いてくれたのでよしとしよう。

    「まだご飯食べるには早いし、どうせなら公園でパン食べない〜?」
    「ピクニックかいな?ええやん!」
    「そうしましょうか!」
    「遥くん。お外でご飯食べるから、先に公園行こうか。」
    「うん。」
    桐生さんと柘浦さんは先に外に出て周りに人がいないか確認をしてくれた。
    オレ達に合図を送って遥くんがようやく外に出られた。
    靴もピッタリで桜さんが普段履いている黒にした。
    「外、久しぶりに出た。」
    「そっか。お外気持ちね。あ、そうだ遥くん。迷子になったりしたら危ないからオレと手繋げる?」
    蘇枋さんがそう言って遥くんの方へ手を向けた。
    「て?」
    「そう。こうやって、離れないようにするんだよ。」
    手を繋ぐの意味も知らないようだったので蘇枋さんが自分の手で実践しながら教えた。
    「で、でも、、オレなんかと、、手、いいの、?」
    遥くんがまた不安そうに聞いた。
    「オレは遥くんと手繋ぎたいんだ。嫌な訳ないよ。手、繋いでもいいかい?」
    「ん。」
    遥くんは小さい手を差し出した。
    「遥くん。オレも反対の手、繋いでもいいですか?」
    「ん。いいよ。」
    遥くんが反対の手を出してくれたのでオレも手を繋いだ。
    子ども体温で温かい。
    蘇枋さんは遥くんと手を繋げてすごく機嫌がいい。ちょっと怖いくらいに。まあ嬉しいのはオレも一緒だが。
    裏路地を抜けながら公園へついた。

    「遊具とかはないけど結構広いね〜。」
    「たくさん走り回れるな!」
    遥くんよりもテンションが高い2人に思わず笑みが溢れる。
    「何して遊びます?遥くんしたいことありますか?」
    オレの問いかけに遥くんは困ったように沈黙した。
    遊びの名前すら出てこないとは。本当に遊んだことはおろか、何も知らないのだろう。これは遊び方から教える必要がありそうだ。
    「遥くん。じゃあまずは鬼ごっこから遊んでみようか。」
    「おにごっこ?」
    聞き返した言い方は初めて聞いた時のもの。
    「鬼ごっこっていうのは、逃げる人とおにに分かれて、おにの人がみんなを追いかけるの。おににタッチされたら逃げる人はおにになって交代するって感じかな〜。
    今回はおに1人でみんなを捕まえられたら勝ちにしよっか。交代は無しで〜。」
    「桐生さんそれおにやりたくないだけですよね、、」
    「遥くんは逃げるのと捕まえるの、どっがいい?」
    「どっち、、分かんない、、ごめんなさい、、」
    2択でも難しいようだ。まあ今回はやったことないものを選ばせてしまったので仕方ないが。
    「遥くん足速そうですし、オレと一緒に逃げるほうやりませんか?」
    「うん。にれと一緒逃げる。」
    オレが提案すると遥くんは嬉しそうに言ってくれた。
    「ずるいなにれくん。ねぇ遥くん。オレも一緒に逃げたいな。」
    蘇枋さんが参戦してきた。
    「ん。すおも一緒がいい。」
    遥くんのお願いなので3人で逃げるしかない。
    ちなみに蘇枋さんは一緒がいいの言葉で悶絶している。気持ちはすごくよく分かるが遥くんが心配しているのでやめてほしい。
    「オレもオレも〜。遥ちゃん一緒に逃げよ〜。」
    桐生さんやっぱりおには嫌みたいだ。
    「いいよ。きりゅも一緒。」
    「柘浦さんが消去法でおにになっちゃいますけど、大丈夫ですか?」
    「ええよ!むしろおにやりたかったんや!」
    元気よく言う柘浦さんは確かにそんな気がする。

    「じゃあ十秒数えるから早よ逃げてな!」
    柘浦さんのカウントが始まって一斉に走り出した。
    「遥ちゃん逃げよ逃げよ〜。」
    「捕まらないよう頑張りましょうね!」
    「さすが遥くん足速いね。」
    遥くんはまだ小さいのに足も速くて、桜さんの身体能力は生まれつきなのだと実感する。
    柘浦さんが走り出してからも全力で走り回る遥くんは楽しそうでオレ達も全力で楽しんだ。
    最後まで残っていた蘇枋さんが諦めたように捕まって、鬼ごっこは終了。
    「柘ちゃん全力すぎるって〜。」
    「あんなに生き生きしたおに初めて見ました、、」
    「いやぁ、暑苦しいくらい全力だったね。」
    「ちゅげ、速かった。」
    「ほんま?!遥くんありがとう!」
    遥くんに褒められた柘浦さんは嬉しそうに笑った。全然疲れが見えないけどこの人すごいな。
    「あ、あの、、」
    遥くんが足元を見つめながらもじもじと何かを言いたそうに口を開く。
    「遥くん何かな?言って大丈夫だよ。教えてくれる?」
    蘇枋さんが優しく聞く。
    「あのね、、嫌じゃ、なかったら、、もっかい、、したい、、」
    かっ、、可愛い、、遥くん初めてのおねだりだ。
    みんな嬉しさと感動でどうにかなりそうである。
    「もちろんいいよ。いっぱいやろう。」
    初めに意識を取り戻したのは蘇枋さんだった。
    「何回でもやりましょう!」
    「遥ちゃんのやりたい事はオレ達もしたいから大丈夫だよ〜。」
    「まだまだいっぱい走ろうや!」
    オレ達の言葉に遥くんは安心したようにほっと息をついた。

    結局おにを変えながら数回鬼ごっこをした後、かくれんぼやケイドロ、だるまさんがころんだなど、とにかく遊びまくった。
    「はぁ。さすがに遊び疲れましたね、、」
    「遥ちゃんはまだ子どもだから分かるけど、柘ちゃん体力おばけすぎ。」
    「いやぁ、ワシもさすがに疲れたで。」
    「みんな汗だくで走り回ってたもんね。」
    「すおちゃんは逆に何で汗かかないの、、」
    そんな話をしていると遥くんのお腹がなった。前回と同じで可愛い。
    「そろそろお昼にしようか。」
    「じゃあパン選ぼ〜。遥ちゃんにおすすめなのは〜。」
    桐生さんが楽しそうにパンを選ぶ。
    「メロンパンか、あんぱんはどう〜?どっちも美味しいし桜ちゃんもよく食べてるし。」
    「遥くん。メロンパンはビスケット生地の乗ったパン
    で、あんぱんは中にあんこっていう甘いのが入ってるんだ。どっちも甘くて美味しいよ。」
    蘇枋さんが説明すると遥くんの目は余計にパンに釘付けになる。
    「遥くん。気になったのはありますか?」
    選びやすいよう聞いてみた。
    「えっと、、じゃあ、、こっち、、合ってる、?」
    遥くんはあんぱんを恐る恐る指さしてオレ達を見た。
    「大丈夫だよ。選べてすごいね。じゃあ遥くんはあんぱん食べようか。」
    「遥くんすごいです!合ってますよ。」
    「遥ちゃん上手に選べたね〜。」
    「遥くん偉いな!」
    みんなが褒めると遥くんはほっとしたように肩の力を抜いた。
    「遥ちゃん食べてみて。」
    桐生さんが袋からあんぱんを出してあげて遥くんに渡した。
    「食べていい、?」
    「もちろん。食べていいよ。」
    確認を取る遥くんに蘇枋さんが優しく言った。
    遥くんはゆっくりと口に入れ、また目をキラキラと輝かせて笑った。可愛い。天使だ。
    「美味しいですか?」
    「うん。あ、にれ。ん!」
    聞いた俺に遥くんは手に持っていたあんぱんを小さな手でちぎってオレの前に差し出した。
    「え、?これ、貰っていいんですか?」
    「ん。美味しいから、にれにあげる。」
    可愛すぎて正直ずっと持っていたいけどさすがに変態くさいし勿体無いので口に入れた。
    「すごく美味しいですね!遥くんありがとうございます!」
    オレがそう言うと遥くんはそうだろ、と言いたげに少しドヤ顔した。何この可愛さ。

    遥くんは小さなあんぱん一つとメロンパン一口でお腹いっぱいになってしまった。
    まあ普段食べてないのだから食べ過ぎても体調が心配になるのだが。
    もっとたくさん食べて、もっと目を輝かせてほしいなと思う。
    「遥くんも少し眠そうだし、そろそろ帰ろうか。」
    遥くんは目を擦りながら何とか意識を保っている。
    「遥ちゃん眠そうだね〜。お開きにしよっか。」
    「たくさん遊んだもんな。ゆっくり休みや。」
    オレ達も散々走り回ったせいで若干疲れているし、遥くんが元に戻るまでに家にいたほうがいいだろう。
    「遥くんそろそろお家帰るよ。歩けるかな?」
    蘇枋さんが聞くが遥くんは頷くだけで立ち上がらない。
    「遥くん。よかったらおんぶして連れて帰ってもいいかな?」
    「お、んぶ、?」
    遥くんがちょっと起きて聞き返した。
    「そう。背中に乗ってもらう抱っこかな?」
    「ん、、でも、すお、オレで、嫌、ない、?」
    「嫌じゃないよ。オレが遥くんのことおんぶしたいんだけど、どうかな?」
    「いいよ。」
    遥くんの了承を得て蘇枋さんが遥くんをおんぶする。
    「あ、ちょっと待って下さいね。遥くんがいつ寝て戻るか分からないので、念のためTシャツだけ変えましょうか。」
    「にれちゃん用意いいね〜。さすが〜。」
    さすがに子ども服のまま戻ったら色々とかわいそうなので。
    一応持ってきておいた桜さんのTシャツを着せ、靴を脱がせる。よほど眠たいのか、それともオレには安心してるのか、遥くんはされるがままだった。
    「遥くんきつくない?大丈夫?」
    おんぶした蘇枋さんが遥くんに聞いた。
    「ん。すお、あったかい、、すき、、」
    遥くんはそこまで言うと眠ってしまった。
    オレ達は時が止まった。蘇枋さんはフリーズしたまま動かないし、オレ達も言葉が出てこない。
    遥くんが、すきって。すきって言ってくれた。
    可愛すぎるし、何より自分の気持ちを少しでも伝えてくれたことが嬉しい。感動だ。
    なんて浸っていると遥くんが光だした。戻るみたいだ。
    「は、?お前ら、何して、、って、蘇枋何してんだ!おろせっ!」
    戻ってきた桜さんはパニックになり暴れたが、蘇枋さんはそれでも下さなかった。この人体幹すごいな。
    「桜くん。オレも桜くんのこと大好きだよ。」
    やっと動き出した蘇枋さんは桜さんに言った。
    「はぁっ、!?なっ、突然何言ってんだ!」
    何も知らない桜さんは顔を真っ赤にして照れた。
    やっぱりいつもの桜さんも可愛いな、なんてきっとみんな同じことを思っていた。



    3

    3回目に遥くんと会ったのは、前回からだいたい一ヶ月がたった頃。学校へ向かう途中だった。
    その日は桜さんと蘇枋さんの2人の時間の日で、オレは先に学校へ向かっていたのだが、蘇枋さんからメッセージで『今日遥くんの日みたい。』ときた。
    どうやら桐生さんと柘浦さんもいる5人のグループチャットで送ったみたいだ。
    オレは『桜さんの家向います。』とだけ連絡してきた道を急いで引き返した。
    遥くんがいつ来てもいいように、オレの荷物の中には子ども服が常備されてる。ちなみに靴は桜さんの家の玄関に隠してある。まだバレてないのがちょっと不思議だけど。
    桜さんの家へ続く階段を駆け上がり、ドアを開けた。
    「はぁ、はぁ、、おはようございます、、」
    声をかけると部屋から蘇枋さんが出てきた。
    「にれくんおはよう。ふふ。走ってきたんだね。」
    そう笑う蘇枋さんの後ろからひょっこりと顔を出した遥くん。
    「にれ!」
    オレと目が合うと走って近くまで来てくれた。可愛い。
    「遥くん。お久しぶりです。また会えて嬉しいです!」
    オレがそう言って笑うと遥くんも笑った。
    「とりあえず着替え持ってるんで先に着替えましょうか。」
    遥くんは頷いてすぐにTシャツを脱いだ。
    体には新しい痣が増えていた。痛々しいが、ここで何を言ってもオレ達には何もしてあげれないし、遥くんがまた悲しむから。
    オレは何も言わず優しく新しいTシャツを着せてあげた。

    「今日は、、どうします?学校まだ間に合いますけど、、さすがに2回も3人一緒に休むのは、、」
    「ああ、にれくんはあれからチャット見てなかったね。2人がみんなに事情説明するから遥くんがよかったらおいでって。」
    蘇枋さんの言葉に慌ててスマホを見ると確かにそう返事が送られてきていた。
    「多分今頃説明中じゃないかな。今遥くんにも説明するところだったんだ。」
    「がっこう、いくの、?」
    「遥くんが選んでいいんだよ。
    さっきの続きだけど、学校にはオレ達と同じ服を着た同い年の人がいっぱいいるんだ。桐生くんも柘浦くんもいるよ。
    みんな優しいからきっと遥くんも仲良くなれると思うな。
    遥くんが行ってみてもいいって思えたらオレ達も一緒に行くし、嫌ならオレとにれくんと3人で遊ぼう。」
    「皆さんオレ達のお友達で、遥くんのこと大好きですから大丈夫ですよ。
    そうだ。この前公園で遊んだじゃないですか?あれ、人がいっぱいいたらもっと楽しいんです。
    きっと皆さん遥くんと遊びたいって言ってくれますよ。
    でも遥くんの気持ちが一番ですから。今日はオレ達だけで遊ぶのもいいですし。」
    オレ達が言うと遥くんはすごく悩んだ。
    楽しそうだけど不安もある。そんな感じ。
    「がっこうは、きりゅとちゅげが、いっぱいなの、?」
    「ふふ。そんな感じだよ。」
    「その人達、オレがいても、嫌、ならない、?」
    「もちろんです!皆さん遥くんのこと大好きですから。」
    「すおとにれも、ずっと一緒?」
    「そうだよ。遥くんのそばにずっといるよ。」
    「ん。、、がっこう、いってみたい、、」
    何回か質問を繰り返した後、遥くんは自分の気持ちを伝えてくれた。嬉しすぎてちょっと泣きそう。
    「行きましょう!」
    「うん。3人で一緒に行こう。」
    オレ達の言葉に遥くんは安心したような顔をして嬉しそうに微笑んだ。

    靴を履いて玄関を出る。
    辺りを確認してから歩き出そうとすると、
    「すお。にれ。ん!」
    遥くんがオレ達に向かって手を伸ばしてきた。
    か、可愛い、、可愛すぎる。
    この前外へ出た時に手を繋いだからきっとそれが正しいと思ったのだろうが、これは可愛すぎる。
    オレと蘇枋さんは悶絶しながらも遥くんの手を握って学校へと向かった。

    到着すると、遥くんは学校の門の前で立ち止まってしまった。それもそうだ。いくら風紀がよくなっても外観や雰囲気は怖いよな。
    「遥くん。抱っこしてもいいかな?」
    蘇枋さんが屈んで遥くんに話しかけた。
    「だっこ?」
    「この前おんぶしたでしょ?あれを前でするのが抱っこだよ。みんながいるのは教室ってところなんだけど、途中階段があったりして危ないから。遥くんのこと抱っこしてもいいかな?」
    抱っこだとこの間みたいに少しは安心出来るだろうか。
    「すおが、したいなら、いいよ。」
    遥くんが了承してくれると、蘇枋さんが遥くんを優しく抱き上げた。
    「遥くん。怖くない?」
    「ふふ。オレ、おんぶより、こっち、すき。」
    抱っこしているから蘇枋さんはもちろん、隣にいたオレからも顔が見えなかった。
    絶対笑ったのに。しかも好きとも言ったのに。見たかった、、
    気を取り直して、まだ固まっている蘇枋さんの肩を軽く叩いて「行きますよ。」と声をかけ、ようやく校内に入った。

    教室に来るまで、時間が遅いこともあり、誰ともすれ違うことはなかった。
    教室の扉の前で立ち止まり、遥くんに声をかけた。
    「遥くん。この中が教室で、みんなが待ってます。オレが先に行って来たことを話してくるので蘇枋さんとあとちょっとだけ待っててくれますか?」
    教室の中はいつもより一段と騒がしくて、このままじゃ遥くんが怖がってしまうのが心配だった。騒ぐみんなの気持ちは痛いほど分かるけど。
    「にれくん。遥くんの説明はもう2人がしてあると思うから今日の事を話してきてくれる?
    あと、普段桜くんを桜呼びしてる人達には遥じゃなくて『遥くん』って呼ぶように言っておいて。桜くんのことを遥って呼び捨てで呼んでいいのはオレだけだから。」
    ねー遥くん、なんてにこにこと蘇枋さんが言った。
    意外と独占欲が強いのだ。これは教室が戦場になってしまう前にみんなにきちんと伝えなければ。
    「分かりました。じゃあちょっと待ってて下さいね。」
    そう言ってオレだけ先に教室へ入った。

    教室に入ったオレを見てみんなは一斉にオレに飛びついてきた。
    みんなが桜さんのことを聞いてくる。
    「皆さん落ち着いてください。遥くんが怖がりますよ。すぐそこで待ってくれてるんですから。」
    そう言うと一瞬で教室は静かになった。みんな優しいのだ。
    とりあえず今日の説明とさっき蘇枋さんが話したこと、遥くんの性格について話し、蘇枋さんを呼んだ。
    「皆さん絶対騒いじゃだめですからね。」
    オレが念を押すとみんなは黙って頷いた。
    蘇枋さんが遥くんを抱っこしたまま教室へ入った。
    みんな黙ってはいるが必死に声を出すのを我慢しているのが分かる。
    「遥くん。大丈夫。ここにいる人達は怖くないからね。」
    遥くんは黙って頷いたが、蘇枋さんの制服を掴んで離さない。やっぱりこれだけ人がいると怖いのだろう。
    「遥ちゃん久しぶり〜。オレのこと覚えてるかな〜?」
    桐生さんが優しく声をかけた。
    「きりゅ。」
    「そうだよ〜。覚えててくれてありがと〜。遥ちゃんすごいね〜。」
    「ワシのことはどうや?遥くん。」
    次は柘浦さんが声をかけた。今は蘇枋さんに抱っこされているから身長の高さは大丈夫らしい。
    「ちゅげ。」
    「正解や!さすが遥くんやな。」
    知っている2人に少し安心したのか、遥くんは制服を掴んでいた手の力を少し緩めた。
    「遥くん。ご挨拶してみようか。」
    「ごあいさつ?」
    蘇枋さんの言葉に遥くんは首を傾げながら答えた。
    さっきから遥くんの可愛さで何人か倒れそうになっているがまあそこは無視しておこう。
    「そう。みんなに、『遥です、よろしくお願いします。』って言えるかな?」
    遥くんはみんなの方を向いて言った。
    「はるかです、、よろしく、おねがいちま、、あ、」
    噛んだ。言い慣れないから仕方ないよね。可愛い。
    「ごめんなさい、、」
    「大丈夫だよ。みんなにはちゃんと伝わったから。上手に出来てすごいね。」
    「遥くんさすがです!ご挨拶出来てすごいですよ!」
    オレ達が褒めると遥くんは安心して少しだけ笑った。よかった。

    「じゃあ遥くんもご挨拶したんだし、みんなも自己紹介しようか。遥くんに覚えてもらわないとだからね。」
    蘇枋さんがみんなにそう声をかけた。
    「遥くん。今からみんながお名前教えてくれるけど、今すぐ覚えなくていいし、ゆっくりでいいからね。
    みんな遥くんと仲良くなりたいだけだからゆっくり覚えていけばいいんだよ。」
    遥くんへのフォローも忘れない蘇枋さん。
    「じゃあオレから行きます!」
    一番に手を挙げたのは杏西さんだった。
    「オレは杏西。遥くんよろしくな。」
    「あん、?ごめんなさい、、わからな、、」
    「遥くん4文字の名前まだ苦手なんだ。遥くん。呼びやすいように呼んでいいからね。」
    蘇枋さんが言うと杏西さんも大きく頷いて言った。
    「遥くんが呼びやすい呼び方でいいぜ。オレのことはあんって呼んで。」
    「わかった。じゃあ、あん。覚えた。」
    「かっわ、、遥くんありがとう。」
    杏西さんに続いて続々と自己紹介が始まった。
    「オレは栗田。よろしくな。」
    「くり。」
    「オレは柿内。」
    「かき、。」
    「高梨。」
    「たか、、」
    全員の自己紹介が終わるとさすがに遥くんも疲れたのか、蘇枋さんに抱っこされたままくっついていた。
    「すお、あの人は、?」
    遥くんが指差した方向にいたのは、教室の隅で机に突っ伏して寝ている杉下さん。いや、あれ寝てないな。こっちの話に耳を傾けている。
    「彼にも自己紹介してもらおうね。」
    蘇枋さんが遥くんを抱っこしたまま杉下さんに近づいた。
    「ほら杉下くん。気になってるんならきちんと遥くんに自己紹介しないと。」
    蘇枋さんがそう言うと杉下さんは顔だけを起こし、長い沈黙の後に口を開いた。
    「杉下。」
    「しゅぎ、、」
    遥くんの呼び方に一瞬目を見開いたが、また机に突っ伏してしまった。
    「オレ、嫌だった、?ごめんなさい、、」
    遥くんが謝った。ああ、違うのに。でも今の遥くんが勘違いしても無理はない。みんなもハラハラと見ている。
    「遥くん、大丈夫だよ。杉下くんはいつもこんな感じなんだ。遥くんが嫌だなんて思ってないよ。大丈夫。」
    蘇枋さんが優しく遥くんを諭した。
    「杉下くん。遥くんが傷ついたら、次はないからね?」
    いつものように笑いながら言う蘇枋さんだが、その目は一切笑ってないし、なんなら少し殺気が見える。
    クラスメイトにそんな殺気出さないで下さい、、
    そんな蘇枋さんを杉下さんは起き上がって無言で見つめた後、制服のポケットから何かを取り出し、その手を遥くんへ向けた。
    「お菓子?遥くんに?」
    蘇枋さんも驚いて聞いた。
    「来る途中で貰った。やる。」
    どうやら学校へ来る途中で貰ったお菓子を遥くんに譲ってあげるらしい。杉下さんって子どもには優しいのかな。
    「遥くん。美味しいのあげるって。ありがとうって言ってもらってあげて。」
    蘇枋さんがそう言うと遥くんはおずおずと手を開いてお菓子を受け取った。
    「あ、ありがと、しゅぎ。」
    よく言えました。いい子すぎる。
    杉下さんはふんっと鼻を鳴らしそのまままた机に突っ伏した。

    「名前すぐに覚えるのも難しいだろうから、名札でも作らない〜?」
    蘇枋さんと一緒にオレ達の近くへ戻ってきた遥くんは貰ったお菓子を開けてもらって美味しそうに食べている。ご飯を食べてる時はやっぱり可愛い。
    桐生さんの提案にみんなが食いついた。
    「それいいな!作ろうぜ!」
    「何か小学生の頃みたいで懐かしいな。」
    「オレのとこ名札忘れたらガムテープに名前書いて貼られてた。」
    「うっわ懐かしい。オレもあったわそれ。」
    「でも何に書く?ガムテとか誰も持ってないし。」
    「両面テープならあるぜ。」
    「何でそんなもん持ってんだよ。いつ使うんだ。」
    「ペンはみんな一応持ってんだけどなぁ。」
    「あ!オレ昨日の見回りの時に折り紙貰ったんだよ。名札に使えねぇか?」
    「いやナイスだけど何で折り紙?」
    「なんか助けたのおばあさんでさ、折り紙が趣味なんだと。使い道が分かんなくてそのまま持ってきてた。」
    「へー。タイミングよすぎだろ。」
    「それなら桜くんの桜を折らない?」
    「いいじゃん!」
    「折り紙で桜なんか作れるのか?」
    「オレ調べますね!」
    「オレやり方多少分かるよ〜。」
    「よっしゃ。みんなで作るか!」
    こうして1-1折り紙大会が始まった。

    折り紙の桜は意外と簡単に作れた。
    まあみんなほとんど鶴くらいしか折ったことがなかったから苦戦したが。
    中には何というか、ちょっと不器用な桜を作り上げた人もいるが、名札になればいいのだ。
    一人一人遥くんが呼んだ名前をペンで書いていく。
    ちなみに遥くんも名札が欲しいと言ってくれたので蘇枋さんが作り、『はるか』と綺麗な字で書いた。
    両面テープで自分の胸に貼り付けて名札は完成。
    高校生が桜の折り紙で作った名札をつけているのは何だか少しシュールで、後で集合写真でも撮っておこうと思った。
    名札をつけたみんなを見て遥くんは満足そうに笑った。
    教室に来てから初めて笑ってくれた。少しは慣れてきたようだ。

    「遥くん。今日は何して遊びたい?」
    蘇枋さんが遥くんに聞いた。
    「みんな、オレと遊んで、嫌じゃないの、?」
    「もちろん。今日はみんなが遥くんとたくさん遊びたいんだって。だから大丈夫だよ。」
    蘇枋さんがそう言うと遥くんは安心したような顔をした。
    「オレも遥くんと遊ぶの楽しみにしてましたよ!」
    「オレも〜。遥ちゃんとたくさん遊びたいな〜。」
    「ワシも遥くんと走り回りたいわ!」
    「オレもオレも!遥くんと遊びたい!」
    「2人から話聞いてずっと羨ましかったんだよな。」
    「それな。オレ達も遥くんと遊びたいんだぜ。」
    「全力で遊ぼうぜ!」
    みんなの肯定の言葉に遥くんの緊張が解けるのが分かる。
    「遥くん。この前公園で遊んだの楽しかった?」
    「うん。」
    蘇枋さんが遥くんに聞くと遥くんは素直に答えた。
    「じゃあまたやろうか。人数が多いともっと楽しいんだよ。」
    「おにごっこできるの?」
    「出来るよ。遥くん鬼ごっこ好き?」
    「ん。すき。」
    可愛い。どんどん心を開いて素直に自分の気持ちを教えてくれる遥くんは可愛いし嬉しい。
    「鬼ごっこか〜。さすがにここじゃ出来ないしまた公園行こっか〜。」
    「この前の公園なら近いしすぐ行けますね。」
    「校内鬼ごっことかもいつかやってみたいよな。」
    「うわ分かる。青春っぽいじゃん。」
    「まあさすがに他のクラスとか先輩達にもバレるから難しいよな。」
    「さすがに先輩達がいたら、遥くんもっとビビるよなぁ。」
    「てか普通に先輩達と鬼ごっことかオレが怖い。」
    「それな。命に関わる。」
    「遥くんの可愛さは1-1のものだろ。」
    「さすがに可愛すぎてこのクラス以外に晒したくない。」
    「遥くんのことは絶対バレないように!」
    「とりあえずこっそり公園行こうぜ。」
    みんな遥くんが、桜さんのことが大好きで。だからこそ自分達だけで可愛がりたいという気持ちも強いのだ。
    オレ達はこっそりと教室をあとにして公園へ向かった。
    もちろん、遥くんはオレと蘇枋さんと手を繋いで。

    公園に着くと、遥くんはこの前遊んだことを思い出したのか嬉しそうな顔をした。
    「今回は人数が多いからケイドロにしようか。」
    「そうですね。遥くん。ルール覚えてますか?」
    オレが聞くと遥くんはこくんと頷いた。
    「遥くんは逃げる方がやりたいかな?」
    「ん。」
    遥くんは今回も逃げる側にいき、オレも遥くんと同じ方へ。
    みんなも分かれてチームが決まり、いよいよスタート。
    遥くんはやっぱり足が早くて警察側の人もするりとかわして逃げていく。
    遊び回る遥くんは生き生きとして年相応の子どもそのものでやっぱり可愛かった。

    しばらく走り回っていると、突然遥くんが勢いよく転んだ。
    すぐにみんなが遥くんの元へ駆け寄った。
    「ごめ、なさい、、」
    「遥くん。大丈夫?」
    「怪我してませんか?」
    「足擦りむいてない?」
    遥くんは一瞬きょとんとしながらも足を見せてくれた。
    膝には少し大きな擦り傷が出来ていた。
    「痛かったですね。洗って絆創膏貼っておきましょうか。」
    「結構派手に擦りむいたね〜。」
    「遥くん痛かったやろ。よう泣かんなぁ。」
    柘浦さんのその言葉にはっとする。
    遥くんは驚いたような顔で固まっているものの、痛がったり泣いたりしていない。
    「遥くん。痛いところない?」
    蘇枋さんが聞いた。
    「えっと、、」
    「大丈夫。オレに教えてほしいな。」
    言いにくそうにする遥くんに蘇枋さんがフォローすると遥くんは少し悩んでから口を開いた。
    「えっと、これくらいなら、痛くないよ。いつものほうが、痛いから、、でも痛いって言ったら、もっと殴るから、、だから痛くないよ。
    何で、みんな怪我しても優しいの?喜んだり、笑ったりしないの?」
    みんなが言葉を失った。
    普段殴られる痛みに比べれば確かにまだマシなのかもしれない。でも、痛いものは痛いし、子どもがそんなこと考えなくていいのだ。
    痛いとすら言えない環境。
    きっと遥くんの周りは、遥くんがどれだけ怪我をしても何もしなかったのだろう。
    それどころか、怪我した遥くんを笑い、罵り、傷を喜んだ。ありえない。
    オレだけじゃなく、みんなが怒っているのが何も言わなくてもよく分かる。
    「遥くん。痛いものは痛いって言っていいし、ここには遥くんを殴る人なんていないよ。大丈夫。今までよく頑張ったね。」
    沈黙を破ったのは蘇枋さんだった。
    「そうですよ。遥くん。遥くんが怪我したらオレ達は心配だし、痛かったねって思ってオレ達も心が痛くなります。誰も喜んだり笑ったりしませんよ。」
    オレがそう言うとみんなも頷いた。
    遥くんは戸惑いながらも最後には「分かった」と言って手当てさせてくれた。
    洗い流すのも痛いだろうに何も言わない遥くんにまた苦しさが込み上げたけど黙って手当てに集中した。
    最後に絆創膏を貼ってあげると、遥くんは「これ何?」と初めて見たものだと伝えてくれた。
    「怪我した時に貼るんです。傷を守って早くよくなりますようにって。」
    オレの説明にもあまりピンときてない様子で遥くんは黙ったまま膝の絆創膏を眺めていた。

    「まだ走るのはきついだろうし、かくれんぼでもしようか。」
    「走らなくていいのラッキー。」
    「桐生はケイドロでも全然走ってなかったけどな。」
    「かくれんぼも懐かしいな。」
    「かくれんぼのプロと呼ばれたオレがお前らに本当のかくれんぼを教えてやるよ。」
    「プロいたんだけど。」
    「絶対一番に見つけてやろうぜ。」
    遥くんの怪我を考慮して次はかくれんぼに。
    これは遥くんのほうが強かった。前回よりも上手くなっている。
    まあ子どものサイズだとどこにでも隠れられるから正直見つけるのが大変なくらいだ。

    そうしてその後も色々と遊び、遥くんのお腹が鳴ったところで学校へ戻った。
    教室に着くなり、みんなが自分のご飯を取り出し、遥くんに分けようとした。みんなとにかく可愛がりたくて仕方ないのだ。
    まだそんなに量を食べれないので1人1人から少しずつ集めて通常のお弁当箱の半分ほどの量になった。
    遥くんはパン以外の初めて見るおかずやご飯に目を輝かせた。
    「遥くん。食べていいよ。どうぞ。」
    蘇枋さんがスプーンを差し出して優しく言った。
    「ん。ありがとう、、」
    遥くんが受け取り、ぎこちない動きでスプーンを持ち、掬いながら口へ運ぼうとしたその時。
    スプーンから乗せたご飯が落ちて遥くんの足元へ落ちてしまった。
    「あ、、ご、ごめんなさい、、綺麗に、する、から、な、殴らないで、下さい、、」
    遥くんは突然そう言って床に土下座のような状態で座りこみ、そのまま落ちたご飯に口を近づけた。
    「!遥くん!!」
    そう叫んだのは誰だったか。何人かが慌てて同時に声をあげた。
    その声に遥くんはビクリと肩を震わせ動きが止まった。
    「遥くん。そんなことしなくていいんだよ。大丈夫。
    スプーン大きかったから食べにくかったよね。ごめんね。」
    蘇枋さんが慌てて遥くんの元へしゃがみ込み声をかけた。
    「何で、怒らないの、?こぼしたのに、殴らないの、?」
    「遥くんは何も悪い事してないんだから怒らないよ。それにここには遥くんを殴る人なんて居ないよ。大丈夫。」
    「遥くん。こっちにまだ新しいのたくさんありますから綺麗なの食べましょう。お片付けはオレがやるので大丈夫ですよ。」
    「遥ちゃん。これは手で掴めるから食べやすいかも〜。」
    「オレ達が遥くんに食べさせてあげるのもありだよな。」
    「蘇枋の許可が取れたらな、、」
    「オレ今度子どもの時の食器とか持ってくるわ。多分まだ置いてあるから。」
    「オレもあった気がするから持ってくよ。何個かあった方がいいだろ。」
    「オレ子どもへの食べさせ方とか勉強してこよ。」
    「オレもする!」
    みんなは遥くんに優しく寄り添うように言葉をかける。
    「なんで、みんなは、オレなんかに、優しいの、?」
    遥くんは心底不思議そうに聞いた。
    「「「遥くんが大好きだから。」」」
    みんな気持ちは一緒である。
    声が揃ったオレ達に遥くんはおかしそうに笑った。
    今日一番の笑顔。
    花が咲くような綺麗な笑顔にみんなが言葉を失って遥くんを見つめる。
    「?みんな、どうしたの?」
    遥くんが首をキョトンと傾げながら聞いてきて、その言葉でみんなははっと我に帰る。
    「みんな遥くんのことが大好きだから遥くんが笑ってくれたのが嬉しいんだよ。」
    蘇枋さんがそう言うと遥くんは不思議そうな顔をした。
    まあこれは今の桜さんでも分かるかどうか正直微妙なラインだから。
    「まあまあ、遥ちゃん。これは手でそのまま食べれるよ〜。」
    そう言って桐生さんが差し出したのは、ラップに包んだ小さなおにぎり。
    遥くんでも食べやすそうなサイズ感だ。
    遥くんはおにぎりを両手で持って口に入れた。
    途端に目を輝かせて表情が明るくなる。美味しかったみたいだ。
    「きりゅ。おいしい。」
    「よかった〜。お米美味しいよね〜。まだたくさんあるからゆっくり食べてね〜。」
    桐生さんの言葉に遥くんは何度もコクコクと頷いていた。

    結局遥くんが食べ切れたのは集めたお弁当の半分ちょっと。
    少しずつ食べる量が増えてくれたらいいのだが。
    ご飯を食べ終えた遥くんはやっぱり眠そうにしていて、みんなは静かにその可愛さを見守っていた。
    「遥くんそろそろ着替えさせておきましょうか。」
    「そうだね。もうすぐ戻りそうだし。」
    蘇枋さんと確認を取って遥くんの服を変える。
    眠たそうな遥くんはされるがまま。
    「遥くん。もう寝そうかな?横になる?」
    蘇枋さんがそう声をかけると、
    「ん、、だっこが、いい、、」
    え、今何て?
    「は、遥くん?」
    「すお、さっきの、だっこ、、」
    そう言って両手を蘇枋さんに伸ばした。
    可愛すぎない?初めて遥くんがしてほしいことを口にしてくれた。可愛さと成長にみんな泣きそうだ。
    蘇枋さんは血を吐きそうな勢いでその場に蹲って顔を手で抑えている。
    気持ちはすごく分かるが早く遥くんを抱っこしてあげてほしい。
    「ん゙ん゙、、ごめんね。遥くんおいで。」
    やっと復活した蘇枋さんが優しく遥くんを抱き上げる。
    「遥ちゃんよかったね〜。」
    「やっぱり蘇枋にいくよなぁ。」
    「なぁ遥くん。今度会った時はオレ達も抱っこしてもいい?」
    みんなの言葉に遥くんは寝そうになりながらも答えた。
    「ん、、あのね、オレ、だっこ、すおか、にれが、いい、。」
    みんな完敗である。遥くん優勝。
    オレ達が次々と尊さで倒れていく中、遥くんの体が突然光だし、桜さんに戻った。
    「は、?え、お前らどうした?って、は?!蘇枋下せっ!」
    案の定暴れ出した桜さんにみんなは少しずつ復活しながら落ち着かせるのだった。
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