心中🫖🌸「ねぇ、桜くん。」
二人きりの部屋の中で彼は小さく呟いた。
「オレと一緒に全部終わりにしない?」
嫌に響いたその言葉にオレは目を見開いた。
いつもより暗い彼の笑顔がオレを捉えていた。
「全てを棄ててオレと一緒に死んでほしい。お願い。」
彼の切実そうな声にオレは迷いなく頷いた。
初めて言われた彼のお願い。断る理由なんか、オレには一つも無かった。
彼の笑みが深くなってオレもつられて小さく笑った。
その願いはオレにとって唯一の救いだった。
〜〜〜
彼は迷うこと無く頷いてくれた。
そうしてくれるだろうと思ってはいたがやはりどこか嬉しく感じてしまう。
彼自身が気づいていない変化にオレだけが気づいていたこと、彼は知らないのだろう。
ここ数年、いや、三年生の冬が近づいてきた頃から、彼はおかしくなってしまった。
卒業が近くなったこと、保護者と揉めたこと、進路のこと。
彼は誰にも、オレにすら何も言ってはくれなかったけど。
そのことで彼の心が完全に壊れてしまったことをオレだけが気づいていた。
心が空っぽになって世界に絶望感すら抱きながらも、それでもオレの隣をずっと選んでくれた彼。
いつか限界を迎えて突然そっと姿を消しそうな程危うくて不安で。
そんな彼が「もうつかれた」と小さく口にしたから。
それは彼がオレに零した最大限のSOS。
彼を救う方法はきっと他にもあったのだろう。
でもオレが、オレだけが彼を独占し、最期まで彼の隣に居られるのなら。彼がこの世界に意味を見出せず、要らないというのなら。いつか彼が離れていってしまうくらいなら。
オレは喜んで一緒に世界を捨てよう。
彼の居ない世界で生きるなんて、オレにはもう無理だから。
彼だけが救いだったこの世界にもう意味など無いのだから。
オレは、きっと彼を一生手離せない。
「さいごは海がいい」と言った彼の意見を尊重して二人冬の海へと足を運んだ。
真冬の海は痛いほど冷たくて簡単に体温を奪っていった。
繋いだ手を離すこと無くお互いを見つめながら、オレ達は暗い海に沈んでいく。
ああ、最期にこれだけは伝えなければ。
「オレだけはずっと味方だよ。桜くん、あいしてる。」
最期に発したその言葉に、彼は綺麗な笑顔を見せた。
久しぶりに見たその笑顔がオレの、オレ達の最期だった。
あいしてるの五文字は海の泡となって静かに消えた。