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    ろせ美

    @Roseo_1117822

    ろせ美です。
    文字とか落書きとかいろいろ

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    ろせ美

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    ふと、左右田の母ちゃんはどんな人なんだろうと考えていたらできていたSSです。
    左右田のことを一番近くで見ていた人のお話です。

    いつからか息子は昔から機械いじりが好きだった。我が家が自転車屋ということもあり環境は十分過ぎるほど整っていたこともあっただろう。おとなしかったあの子は旦那の横にひっつき虫のように着いては作業している姿をずっと見ていた。動かなくなった自転車に命を吹き込むかのように手早く治す旦那の姿を和一はキラキラした目で見ていたのだ。
    旦那も自分の仕事に興味を持ってくれている息子が相当嬉しかったのだろう、まんざらでもない様子で、工具の使い方から修理の方法まで喜んで教えていた。大きくなるにつれて、自分自身も自転車を触り、修理を行うようになった。技術は父親負けず劣らずのものだった。その腕が街に広まると自転車以外のものまで我が家には修理に来るようになった。優しいあの子は好意で無償で何でも治すようになった洗濯機冷蔵庫、ベビーカー、バイクなどなど。

    「こんなに修理してもお駄賃程度しか入らないわよ、あんたはいいの?」
    「いいよ。俺、修理得意だし、できる範囲でしか受け持ってないから。それに、自転車にはついてないエンジンとかいじるの好きだし!」

    よくやるなと我ながら思ってた、けれども私たちの息子にしてはよくできていて、勉強も不自由をしていなかったから私は和一の機械いじりを止めることはしなかった。将来はロケットを作る!!なんて意気込み設計図を真剣に考え描く姿を愛おしいと夫婦で笑っていたが、どこかで本当に作っちゃうんじゃないかと期待している自分もいた。

    中学に上がった頃だろうか、ある時を境にあの子は笑顔を見せなくなった。「学校楽しい?」と聞いても「ぼちぼち。」としか返さなくなった。思春期特有のものだろうか、気長に待っていれば話してくれるだろうと考えていたがそのうち自分から学校の話を口にしてくれることは無くなった。学校で何かあったのだろう。ずけずけと聞くのも本人の気を悪くするだろうし、だからと言って何も声をかけないのも良くないだろう、悶々と悩んだ結果当たり障りのない言葉しかかけれなかった。親としてどう接するのが正しかったのか今でもわからない。ただ、家だけはあの子の安らぐ場所でありたいと願い続けいつのまにか中学時代が終わった。

    季節が移り高校に上がると同時にあの子の髪の毛はピンク色に変わり、痛いことは苦手なはずの両耳にはピアスが開いていた。
    以前の真面目な姿と真逆にも思えるほどの変貌はまるで今までの自分を上書きするかのように私は思えた。高校も工業高校に進み自分の好きなことをやれているようだが、様子を見ている限りだと周りの人付き合いに疲弊しているように見えた。帰宅時間も遅くなることも度々、タバコ臭い時だってあったがもう高校生にもなった息子に母親が首を突っ込みすぎるのもよろしくないのかと、私はただただ変わっていく和一を見守ることしかできなかった

    夏の気配が漂うある日、郵便受けに一通の封筒が届いていた「希望ヶ峰学園」からだ。訝しげに封を切るとそこには「左右田和一様推薦入学のお知らせ」と書かれていた。希望ヶ峰は私でも聞いてことがる、全国から才能あふれる若者を集め今後の日本の発展のために才能を伸ばす事に特化した教育をしている学校だ。しかしそこは一般受験を設けていない、つまり推薦入学しかないのだ。
    まさかあの子が、選ばれてたなんて。

    「和一、希望ヶ峰学園から推薦がきてたよ。行くの?」「ここ授業費とか寮とか全部負担してくれるんだろ、ラッキーじゃん。将来職には困らないっていうしさ、俺行くよ、希望ヶ峰。将来は安定した職について親父もお袋にも楽してもらいてぇからな!」「学費なんて気にしないで、目一杯やってきな。寮とはいえ一人暮らしみたいなもんなんだから、頑張んなさいよ」

    そして転入手続きはすぐに終わり、和一は希望ヶ峰に行った。こんなにも早く独り立ちするとは思っていなかったからか少し寂しさも感じたけれど。最先端教育に好きな分野を学べる学校に行けることになり久々にイキイキとした目をした息子を見れて私はどこか安心した。

    そういえば私、あの子の作った機械を褒めたことあったっけ。私達ではそれが当たり前だと思っていたけどこの封筒を見てこの子の才能は特別なものだと再認識した。もっと昔からいっぱい褒めてあげればよかったなんて気持ちが新しい道に進む息子の後ろ姿を目にして言葉が浮かんだが「ごめんね、遅すぎたね。」なんて今更言えるはずもなく「いつでも帰ってきてね!行ってらっしゃい。」と送り出すことが私が言葉にできる精一杯だった。

    半年経ってあの子から連絡が来た、今度の土日にこっちに帰ってくるとのこと。文章と一緒に添付された一枚の写真。帰ってくる際に友達を連れてくるって、あの子が友達を連れてくるなんて何年ぶりだろうか、小さな家だけれども綺麗にしなくちゃ。なんだか私の方が浮き足立ってしまう。いくつになっても自分の息子は可愛いものだ。そして今回の帰省ではいっぱい褒めてあげよう、今更なんだと言われるだろうが、昔のぶんも全てこめて「あんたの作品は世界一だよ」って。
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