Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    asyk_knkm

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 🌟 ✨ 👏
    POIPOI 2

    asyk_knkm

    ☆quiet follow

    邂逅
    退場後の江渡貝と洋平。浩平の事見守ってて欲しい

    邂逅瞼を開くと真っ白な空間にうつ伏せの姿勢だった。纏っていた白熊の毛皮を脱いで立ち上がろうとすると膝から下を支えられない。
    這いずるように抜け出すと茶色の洋絝は破け、見える下肢は押し潰されたように擦り傷や打撲痕と共に折れ曲がっている。
    「まあ、生きて帰れるわけないか」
    託した鞄を抱えて遠ざかる月島さんの背中を思い出し、膝立ちになって宛てもない空間を進んでいく。
    「どこに向かっているんだろう」
    せめて景色が変われば退屈しないのにと途方に暮れていたところ、まばらな人影と大きな姿見が現れた。軍服を着ている人が多くいる中、見知った顔に僕は思わず叫んだ。
    「前山さん!」
    「江渡貝くんも来たんだ。歩きにくそうだけど、大丈夫?」
    前山さんの額から血が出ている。自分の最期の姿でここにいる事を改めて実感した。
    この姿見は自分が見たいものを映してくれて、自分の所属していた第七師団の様子を見ているという。
    「月島さんはちゃんと届けてくれたかなぁ」
    前山さんによれば鞄は鶴見さんの元に渡り、偽物の見分け方も伝わったらしい。
    「あんたが江渡貝くんか」
    降ってきた一本調子の声に面食らった。
    「……二階堂さん?」
    知っている声だけどここにいるとは聞いていない。両耳があるし僕の作ったヘッドギアをしていなかった。
    「びっくりして固まってる。せっかくだし話してみたら?」
    前山さんに促されるまま一歩ずつ見上げながらもう一人の二階堂さんに近づく。
    「どうして僕の名前を知っているんですか」
    「双子の弟、二階堂洋平だ」
    「あなたが洋平さんだったんですね。本当にそっくりだなぁ」
    隣に立って姿見を眺めてみる。建物が映り、近づいてくるのは病院だった。月島さんに羽交い締めにされた浩平さんが何か取ろうと手を伸ばしている。
    ちょっと変わった人だとは思っていたけれど、状況が飲み込めなかった。
    ふと洋平さんを見ると軍服が破れていて、傍らには僕の仕事道具と軍服の釦が置かれている。繕う事を告げると洋平さんは膝立ちの僕に合わせて身体を屈めてくれた。
    「内蔵が出てますがヒグマにやられたんですか?」
    剥製作りの仕事で見慣れているとはいえ、さっきと変わらない態度の僕に驚くこともしない洋平さんは僕の手元を見ながら眉間に皺を寄せる。
    「鶴見中尉の命令で捕らえていた野郎に殺された。自分が助かる為に俺の腸を盗みやがった、おかげでこのザマだ」
    洋平さんの腸は伸びた状態で軍服から飛び出していて戻そうとしても収まらないそうだ。生気を失った腸は収縮を止め、変色して伸びてしまう。まるで僕が剥製にした誰かみたいだった。
    「浩平さんに逢いたいですか」
    「ああ、俺達はずっと一緒だったんだ」
    鋏で余分な糸を切り、作業を終えると声を震わせた洋平さんと目が合う。
    「僕は月島さんに会いたいかな。鞄を届けてくれたお礼が言いたいんです。あの人こっちに来る気は無さそうですけど」
    乗りな、と洋平さんに促されて背中におぶさった。
    「重くないですか?」
    「軍人を舐めてもらっちゃ困る。江渡貝くんこそもっと食った方がいいぞ」
    色んな料理が揃っている食堂に案内してくれるという。他にも洋品店や図書館など娯楽施設もあるらしい。
    父のような兄のような背中に揺られるのは心地好く、いつの間にか眠たくなってしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works