カリーナ班の打ち上げ 準備編 店の扉にかけられたボートには「CLOSED」の文字。だけど店内は大忙し!やるべきことはたくさんあって、でもいるのは僕だけ。他の従業員はお休み。それがすっごく楽しい!
僕はせっせとパン生地を練る。ふにふにと心地いい手ごたえに胸が弾む。
これで5個目かな。バターたっぷりだったり牛乳多めだったり。パンの種類によって材料の配分や発酵時間を変えていく。キッチンテーブルには生地以外にさつまいもの角切りやりんご、チョコレートにコンビーフにナッツと生地に練り込むための色んな食材が並んでいる。
サクサク、ふわふわ、ぽそぽそ、ぎゃむぎゃむ。色んな食感を味わえる素晴らしき食べ物、パン!
今日はいつも以上に気合いが入る。なんてったって、打ち上げなのだから!
星座館から持ち帰れたイーストと塩を使ってること、みなさんに言ったほうがいいかな?ま、言わんでいっか!砂糖も持ち帰れたらよかったんだけどな〜。
大勢来てくれるから作れるパンがある。パーティ仕様というやつだ。テーブルの長さ限界まで生地を伸ばして何枚ものベーコンを縦に並べていく。そんでもってそれらを包んであげて、調理用ハサミでテンポよく切れ込みを入れていく。隙間から露わになるベーコンのピンク色がかわいい。そこにぎゃんぎゃんに胡椒をかけていく。
超絶放任主義な家で唯一両親に口酸っぱく言われたこと、「胡椒は思ってる3倍かけなさい」。僕はそれをずっと守ってる。だからこれがうちのパン屋の目玉商品になっているのだろう。いつもはこのサイズじゃないけど。オーブンには伸ばした状態じゃ入らないから蛇腹にして天板に置く。予熱したオーブンにいってらっしゃいな〜。
次はこっち。まーんまるの生地が二つ。この上にクッキー生地を絞っていく。一つは生地より外側に伸ばして、もう一つは網目状の模様を作ってく。どうやって食べんだろこれ。ま、焼けてから考えよう。
うちのオーブンをフル活用してたくさんのパンができあがった。いつも置いてる値札は今日だけバックヤードにしまって、なんかいい感じにパンをテーブルの籠に配置していく。みなさんから事前に聞いていた好きなパンをぜ〜んぶ作ったこともあって壮観だ。
その中でとびっきり目立つやつ。なっっっがいベーコンエピとでっっっかいスイートブール&メロンパン!これ!これが作りたかったんだ〜!お祝いって感じがして最高!
おっと、忘れないうちにお土産用として乾パンとクッキーはそれぞれ袋に詰めておこう。割れない程度に詰められるだけ詰めとこ。
みなさん喜んでくれるかな?マスクの下で僕の口元はニマニマと口角が上向く。
今こうして楽しくパンが作れるのってあの日あの館に集まっていたみなさんのおかげ。だから、少しでもそのご恩がこのパーティで返せたらいいな。
カランコロンと扉に付けたベルが鳴る。いらっしゃいませ、は違うか。僕は振り返ってにっこり笑う。そしてこう言うんだ。
「ようこそ!ムニエ・カプリコルヌスのパン屋へ!」