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    mitochiyo

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    お題メーカーより。キスするネファ。

    言わなくてもわかるから「……今のは」
    「……えーっと……ご存じの通りキスですが……」
     自身のベッドに腰かけてほろ酔いを楽しんでいたファウストの隣にネロがやってきて、手を重ねたと思ったら顔を寄せられた。脈絡もなく、唇を合わせるだけのものだった。
    「きみのキスしたくなるきっかけがわからない」
    「ごめん、ちゃんと聞くべきだった」
     すみません。とネロは頭を下げる。
    「別に謝ることじゃないよ。いつも突然だなと思っただけで」
     ファウストにとって突然でも、ネロの中では気持ちが募っている。眼鏡を外して裸眼を晒したり、酔って機嫌が良くていつもより笑ったり、ベッドで寛いでいたり、首元のボタンを外して鎖骨が空気に触れていたり。「ネロ」と呼ぶ声が優しかったり。ネロの中ではいくつものきっかけが重なっていることをファウストは知らない。
    「……ファウスト、」
     もう一回してもいい? と、了解を得るためにあとは音にするだけの状態で待機している。
    「……言わなくてもわかるから……続けていい……」
     顔を真っ赤にして手を握ってくるから、ネロは心を弾ませてファウストの頬に触れた。いつもは凛とした目を柔らかく細めてから紫が瞼に隠される。そのまましばらく見ていたくなったがあまり待たせるとへそを曲げてしまいかねないので、ネロは唇を重ねた。きゅっと結ばれた唇の緊張を解すように優しく食む。ちろ、と舌先で溝をなぞるとファウストは応えるように薄く唇を開いた。
    「んっ……」
     滑り込ませた舌に驚いて漏れた声はその一音だけでネロの理性を飛ばしてしまいそうだ。舌を絡ませて溶けるように体温が同化していく。緩く繋いでいた手が縋るようにネロの手のひらとぴったり合わさった。空気の通り道を無くした二人の手のひらはじわりと湿る。
    「ネ、ロ……ふ、待っ……」
     キスに溺れる声にネロは唇を離したが距離は取らなかった。鼻同士が触れる距離でファウストを見つめる。視野にはお互いしかいない。ファウストが呼吸を落ち着かせるために深呼吸をするとネロの肌に呼気がかかった。
    「苦しかった?」
     どう答えるのが最適なんだろうかとファウストはいくつかの答えを頭の中に並べた。肯定すればおそらくネロは引いてくれる。でも否定したら――これ以上のものを与えられてしまうかもしれない。それを期待している自分がいる。いつものように気遣ってくれる言葉なのに、ファウストにとってはくすぐられているように聞こえて体がむず痒い。「ん?」とわずかに首を傾げて答えを待つネロの表情はこれでもかというほどに自分を甘やかしていた。子供たちに向けるものと似ているが少し違う。情愛と、欲を潜ませた男の顔だ。
    「……もうやめとく?」
     やめたくないと顔に書いてある。正直に言えばいいのにと思いファウストは笑った。そして触れるだけのキスをする。
    「言わなくてもわかるだろ」
     ネロは更なる深い口付けをファウストに贈った。
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    mitochiyo

    DONE今週のネロファウ「真夜中のキッチン」
    真夜中のキッチン 深い夜。建物全体が眠ったような静けさに足音も溶け込む。目が覚めて喉が渇いていた。自室の水差しにはまだ半分程水が残っていたが、足がキッチンへ向かった。月は随分と高い位置にいるのにその輝きと大きさのせいでキッチンの中は夕闇に置き去りにされたような暗さと明るさの間にあった。影もまるで生まれたばかりのようにぼんやりとしている。
     作業台の側にある椅子に座って喉を潤した。今夜は本当に静かだ。日が昇っている間のこの場所とは別世界のようにも思えた。

     ふと、鍋が目に付く。朝食用のスープの仕込みだろうか。誰よりも早く誰よりも遅くまでこの場所にいる数時間前の彼を想像する。鍋の前に立ち、火加減を見つつ時折混ぜ込み、小皿に取って一口味見する。うーん、と首を傾げて綺麗に並べられた調味料の瓶に手を伸ばす。迷わず一つを手に取り、鍋に少量振り入れた。何度目かの味見で静かに笑い、火を消す。鍋に蓋をして寝かせる。道具を洗い、水を切った皿を拭く。食器棚へ皿をしまう。作業スペースを布巾で拭く。床にゴミが落ちていないか確認する。汚れていれば軽く掃除。使った布巾を洗い、布巾用の物干しに広げた。両手を腰につけて辺りを見渡して頷く。エプロンの結び目を解き、手早く折り畳む。畳んだエプロンを片手に掛けて、キッチンを出ていく。
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