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    mitochiyo

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    現パロふわふわ設定。雰囲気で読んでください。

    初詣ネファ ファウストが帰省から戻って来る日に合わせて待ち合わせをした。元旦の内に簡単な新年の挨拶だけはしたが、家族団欒の時間を邪魔するのも悪いと思いネロはそれ以上連絡をしなかった。今日の待ち合わせを申し出たのはファウストだった。「明日帰るから会えないか」と。「もちろんきみがよければ」というメッセージの到着とほぼ同時にネロは「いいよ」と返信した。
    「明けましておめでとう」
    「ん、明けましておめでとう」
     待ち合わせは神社の前。初詣をしようとこの場所を指定したのもファウストだ。マフラーやコートで少しもこもこしているファウストの姿にネロが笑うとなんだと不思議そうな顔をされた。三日目の夕方ともなると神社には人も少なく二人にとっては丁度良かった。
    「実家はどうだった?」
    「久しぶりにゆっくりできたよ。きみはどうしていた?」
    「俺はまぁ、いつも通り。店閉めてるから一人でのんびりと」
     ファウストは帰省にネロを誘っていたが、気遣いの塊であるネロは首を縦に振らなかった。そんなところも好ましいと思ってはいるが、帰省中、ネロが来ていたら一緒に年越しそばやおせちを用意したり、初日の出を見たり、妹にお年玉をあげたりしただろうなと、正月特有の間延びした時間にファウストはそんなことを想像していた。そうしていると会いたくなって連絡を取った。

     作法に則って参拝をした。お辞儀をするファウストの姿勢はしゃんとしていて、ファウストらしいなとネロはまた一人で笑う。ネロも背筋が伸びる気がした。年季の入った鈴は本来の音とは違ってカラカラと乾いた音を鳴らした。手水で濡らした手は冷えて叩くと少し痛くて思わず顔を顰める。ネロが祈り終えても隣のファウストは時間をかけて丁寧に祈っていた。はぁ、と吐き出される息が合わせた手を白く霞ませ、祈りとともに空へ向かっていくようだった。
    「ファウスト、おみくじ引く?」
    「僕はいいよ。それよりお守りを買いたいんだ」
     なんの? と思いつつもネロはファウストの背中についていった。授与所に掲げてあるお守り一覧を眺めてからファウストはネロの顔を見る。
    「シノの合格祈願なんだが、どれがいいと思う?」
     ネロはなるほどと納得した。受験を控える教え子のために学業の神様が祀られているこの神社を選んだようだ。なんだかんだ言っても生徒想いのいい先生だ。ネロも一覧を端から端まで確認してから、「これかな」と指した。青と紺を織り混ぜた守り袋を赤い紐で結んでいる学業成就のお守り。ふふ、とファウストが笑う。
    「僕もそれがいいと思った」
    「気が合うね、先生」
    「ヒースにも何か買っていこう。何がいいかな」
    「んー、シノと同じでいいんじゃないか? 喜ぶと思う。特にシノが」
    「あぁ、そうしよう」
     お守りを受け取る二人を想像して頬が緩む。ファウストが支払いを済ませている間にネロは甘酒を取りにその場を離れた。用意された甘酒をありがたく二つ手にしてファウストが来るのを待つ。数分も経たずにファウストが自分を見つけて一直線に歩いてくる。この状況では当たり前なのに、ネロはなんだか嬉しかった。長い間会っていなかったわけでもないのに。
     ネロがファウストの分の甘酒を差し出すと、ファウストからも何か差し出された。
    「これはきみに」
     ファウストが甘酒を受け取り、空いた手のひらにそれは乗せられた。白い袋の中を覗くとお守りが入っていて中心に商売繁盛の文字が見える。
    「今日付き合ってくれたお礼だ」
    「はは、別にいいのに。でもありがとな」
     律儀な人だ。お礼のお礼をしなくちゃな、なんて考えながらネロはコートのポケットにお守りをしまって甘酒を口に含んだ。甘みと温かさで冷えて強張っていた体から力が抜けていく。ファウストが甘酒を飲む度に眼鏡が曇るから笑ってしまった。
    「……さっきじっくり願ってたのもシノのことだろ?」
    「そうだけど」
    「せっかくなんだから自分の願い事もしろよ。なんかないの?」
    「僕は……」
     空になった紙コップに視線を落としてから、実は、とファウストは続けた。
    「ネロの料理が食べたいなと、帰省している間ずっと思っていたんだ。叶えてくれるだろうか?」
     窺うようにちらりと視線が上げられる。眼鏡の隙間から見つめられてネロは頭を抱えそうになった。
     かわいい。こんなことを言われて喜ばないやつはいない。そんな願い事を面と向かってできるのもすごいが、そんな簡単に叶えてしまえる願いでいいのか。願い事なんてもっと他にあるだろ。
    「あー……正月何もしなくていいようにいっぱい作り置きしちゃって。それで良ければ持ち帰りもどうぞ」
    「それは助かる。ありがたく頂くよ」
     ネロはファウストの手から紙コップを抜き取り、ごみ箱へ捨てるために背を向けた。本当はにやけてしまうのを隠すためだ。背中からまたありがとうと声をかけられて温められた体温が更に熱くなっていくのを感じる。ネロは小さく咳払いをしてだらしない顔を切り替えた。
    「じゃ、ウチ行こうぜ」
     両手を冬の定位置であるコートのポケットにしまおうとしてその手を止め、外していた手袋をしようと取り出しているファウストの手を遮った。
    「なんだ?」
    「片方貸して」
    「は? 寒いなら両方貸すけど」
    「片方は、これで」
     ファウストの右手を包むようにそっと握る。少し驚いたが腑に落ちたらしいファウストはネロの左手を握り返した。甘酒よりも甘くて温かな熱が伝わる。気恥ずかしくて黙ってしまいそのまま少し歩いたが、先に沈黙に耐えられなくなったのはネロの方だった。そんなネロを見てファウストは優しく笑った。
    「きみはどんな願い事をしたんだ?」
    「……秘密」
     今年もいい一年になるだろう、そう思った。
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    mitochiyo

    DONE今週のネロファウ「真夜中のキッチン」
    真夜中のキッチン 深い夜。建物全体が眠ったような静けさに足音も溶け込む。目が覚めて喉が渇いていた。自室の水差しにはまだ半分程水が残っていたが、足がキッチンへ向かった。月は随分と高い位置にいるのにその輝きと大きさのせいでキッチンの中は夕闇に置き去りにされたような暗さと明るさの間にあった。影もまるで生まれたばかりのようにぼんやりとしている。
     作業台の側にある椅子に座って喉を潤した。今夜は本当に静かだ。日が昇っている間のこの場所とは別世界のようにも思えた。

     ふと、鍋が目に付く。朝食用のスープの仕込みだろうか。誰よりも早く誰よりも遅くまでこの場所にいる数時間前の彼を想像する。鍋の前に立ち、火加減を見つつ時折混ぜ込み、小皿に取って一口味見する。うーん、と首を傾げて綺麗に並べられた調味料の瓶に手を伸ばす。迷わず一つを手に取り、鍋に少量振り入れた。何度目かの味見で静かに笑い、火を消す。鍋に蓋をして寝かせる。道具を洗い、水を切った皿を拭く。食器棚へ皿をしまう。作業スペースを布巾で拭く。床にゴミが落ちていないか確認する。汚れていれば軽く掃除。使った布巾を洗い、布巾用の物干しに広げた。両手を腰につけて辺りを見渡して頷く。エプロンの結び目を解き、手早く折り畳む。畳んだエプロンを片手に掛けて、キッチンを出ていく。
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