カツン、カツン
地下牢に足音が響く。沈清秋はとうの昔に半分になった視界をあげることもなく、足元を虚に眺めていた。
頭上から舌打ちが聞こえ、髪を引かれて顔を上げても、沈清秋の瞳は目の前の男――洛冰河を捉えてはいなかった。
「あ…ぁ…」
舌のない口からはか細い呻き声が断続的に発せられている。だが言葉を成さないそれらが何を指しているか、洛冰河には分かっていた。
『七哥』
玄粛剣の破片を見せつけて以来、沈清秋は今までの反抗的な態度が嘘のようになくなり、ただ虚に「七哥」と呟くようになった。
(つまらない)
舌を切り落としても、苦痛に呻くことも、憎しみに駆られてこちらを睨むこともしない。生きているとも死んでいるとも分からない虚な器となった沈清秋に、洛冰河は苛立ちを募らせる一方だった。
1931